『血のバレンタイン』の追悼式典も無事に終わり、会食の会場を後にしたオーブの代表代行のメンバーは、一旦、港に停泊中のアークエンジェルへと戻っていた。
 ただ、キラは昨晩からラクス邸に宿泊しており、彼だけはラクスと行動を共にしている。
 それ以外のクルーも、そのほとんどが市内のホテルに宿泊をしているが、マリュー達一部のクルーは、艦に残っていたのだ。

 艦長室で着替えを済ませたマリューは、鏡の前で化粧を直していた。
「なぁ、マリュー!俺のネクタイ知らない?」
 洗面所にひょいっと顔を出したムウが、鏡越しにマリューに訊ねた。
「あ、それだったら、私のトランクに入ってるわ」
 そう言うとマリューは手早く化粧道具をポーチに仕舞うと、ベッドサイドに置かれていた自分のトランクのロックを外す。
 その中から、綺麗にラッピングされている箱を取り出すと「どうぞ」とムウに手渡す。
「え?どういう事?」
 受け取った箱を手にしたまま、ムウが訊ねる。
「バレンタインのプレゼントよ。あ、ちゃんとチョコレートもあるわよ」
 ニコニコとしながら、マリューはトランクの中からもう1つラッピングされた箱を取り出す。
「チョコレートだけじゃなくって、ネクタイも……買ってくれたんだ」
 少し驚いた表情をしたムウが、慌てて手にした包みを開ける。
 その中から出てきたのはネクタイではなく、白い雪の結晶の刺繍が入ったエンジ色のスカーフ。
「……スカーフ?」
 そう言いながら、早速そのスカーフを開いたままのワイシャツの首もとに巻きつける。
 シンプルなシングルのスーツにエンジ色が映える。
「どう?似合ってる?」
 ムウは巻いたスカーフを見せるかのように、少し胸を張ってマリューの方を振り返る。
「ええ、やっぱりあなたには、渋い赤色が似合うわね」
 そう言いつつ、マリューはスカーフの形を整えようと手を伸ばす。
「てっきりネクタイだと思ってたのに、何でスカーフにしたの?」
 素朴な疑問だけどな……と言いつつ、ムウはマリューに訊ねた。
「だって、あなた……ネクタイをしても、絶対にきちんと結ばないでしょ」
「あら、バレてた?」「バレてます」
 ハハハッと笑ってムウが誤魔化そうとした時、艦長室のインターホンが来客を告げる。
<艦長〜!クライン邸からのお迎えの車が来ましたよ〜!>
 デスクのモニターに映ったのは、パステルイエローの薄いストールを身に纏ったミリアリアだった。
「ありがとう。今、行くわ」<は〜い、お待ちしてま〜す>
 マリューがそう答えてムウの方を振り返る。
「あ、チョコレートは、帰って来てから頂くよ。マリューさんと一緒に」
 意味深な発言をしてウィンクする恋人に、マリューは思わず顔を真っ赤にすると「知りませんっ!」とそっぽを向いた。
 照れてるマリューさんも可愛いや……などと言いながら、ムウは彼女の腰に左腕を回してエスコートすると、艦長室を後にした。

 港の入り口に到着していた黒塗りのリムジン。
 その前に集合していたのは、ノイマンを始めとするいつものメンバー。
「あぁ?なんだよ、お前ら」
 そこで待っていた全員の姿を見たムウが、思わず声をあげた。
 ノイマン、チャンドラ、マードックの男性3人は、黒を基調とした略式タイプのタキシード。
 ミリアリアは、パステルイエローのパーティードレス。
「一佐こそ、タキシードじゃなかったんですかい?」
 ニヤニヤしながらマードックがムウを見ている。
「堅苦しくない物でいいって言ってただろ?」
 ムウが困った表情でそう反論した。
「でも、パーティーですもん。私達だって、たまにはドレスアップしたいんです」
 肩にかけていたストールをふわりと揺らしながら、ミリアリアが満面の笑みで答えると、マリューも苦笑するしかなかった。
「いつも軍服ばかりだから……ミリアリアさんの気持ちも分かるわ」
「おいおい……」
 マリューまで肯定する意見を口にしたのをみたムウは、溜息をひとつ漏らす。
 それとは逆にミリアリアは「そうですよね!」と更に嬉しそうである。
「そろそろ出発しないと、間に合いませんよ?」
 リムジンのドアを自ら開けたノイマンがそう声を掛けると「あら、本当ね」とマリューが腕時計を見て答える。
 それに呼応するかのように全員が慌てて車に乗り込むと、リムジンは目的地に向けて静かに動き出した。

 クライン邸に到着したメンバーは、控え室となる部屋に案内された。
「では、男性の方の控え室はこちらでございます」
「え?一緒じゃないの?」 
 男女別々の控え室に案内されたムウは、驚いた表情で執事に問いかけた。
「女性の方は、色々とご準備もございますでしょうから……と、ラクス様がおっしゃいましたので」
 別段、動じる事もなく執事が笑顔でムウに答える。
 それを後ろから見ていたノイマンとチャンドラが声を殺して笑っていた。
 なんだよ〜と、残念そうに嘆いているムウに「少しの間なんですから」とクスクス笑いながらマリューが声を掛ける。
「では、女性の方はあちらの方へどうぞ」
 執事が先導して廊下の反対側にある扉の方へ足を進めた。

「フラガ一佐には悪いですけど、別の部屋じゃないと……」
 何やら含み笑をしたミリアリアの後について、マリューもその室内に入る。
 すると、そこには数人の侍女らしき人達が待機しており、部屋の真ん中にはドレッサーが準備されていた。
 その隣の大きな鏡の前には、ラベンダー色のロングドレスが置いてある。
「あら?この部屋、間違っていません?」
 てっきりラクスの部屋だと思ったマリューは、執事に確認しようと後ろを振り返った。
 だが、そこにはニコニコとしたミリアリアがいるだけ。
「間違っていませんって。マリューさん、早く座って下さい!」
 そう言いながらミリアリアはマリューの背中を押して、ドレッサーの前に強引に座らせてしまう。
「あ、あのっ、これはどういう事ですか??」
 何かの間違いだと思っているマリューは、近づいてきた侍女の1人に改めて訊ねた。
「ラクス様とカガリ様よりご連絡がありましたので……」
「はぁ?」
「あのドレスは、カガリさんと私で選んだんですよ」
 マリューの真後ろに立っていたミリアリアがクスクスと笑いながら、鏡越しにそう告げた。
「選んだって……?!」
 話の内容がイマイチ理解できないマリューは、ただ首を傾げる。
「では、皆様お待ちですので、早速……」
 と言うが早いか、待ち構えていた侍女達が一気にマリューを取り囲んだ。
「えっ?!な、何っっ?!」

「おい、何だこりゃ?」
 その頃、反対側の部屋でも同じような声が上がっていた。
「ハイハイ、一佐は早く着替えて下さい」
 ムウは、ノイマンとマードックに引っ張られ、壁際に置かれていた鏡の前に連れて来られた。
「どーいう事だよ?」
 そこに準備されていた略式のタキシードを目にしたムウが、いかにも”納得いかねーな”という表情をする。
「一佐だけスーツという訳にはいかないですからね」
 クスクスと笑いながらノイマンが言うと「ほらぁ、着替えて下せぇ」とマードックがムウの背中をドンと押す。
「なんか、俺に隠してないか?」
 しぶしぶ上着を脱ぎつつ、ムウはふと後ろの3人を振り返る。
「いえ、特に何もありませんよ。ただ……」 
「ただ……何だ?」
 怪訝そうな表情で、ムウがチャンドラに聞き返した。
「きっと一佐の事ですから、絶対にタキシードは持ってこないだろうと予想していたんですよ」
 まあ、その通りでしたが、とチャンドラが笑うと、ノイマンも「確かに」と一緒に笑っている。
 ……絶対に怪しい……口には出さずにムウはそう思うと、まぁいいか……と溜息を付きつつ、目の前のタキシードに袖を通したのだった。

 それから20分後。
 パーティー会場となる大広間に案内されたムウ達男性陣は、そこにまだマリュー達の姿がない事に気付いた。
「あれぇ?マリュー達は?」
 ムウが部屋の中をぐるりと見渡すが、そこにいるのは、バルトフェルドを始めとするエターナルのクルー達。
 誰もが皆、見慣れないタキシードやドレスに身を包んでいる。
 そこへ、同じように略式のタキシードをキッチリと着こなしているキラが近づいてきた。
「ムウさん!」「おぉ、キラか」
 顔を合わせるなり、いきなり「マリュー達はどうしたんだ?」とキラに訊ねている。
「もうすぐ来るはずですよ」
 キラはニコニコしながらそう答えると、今しがたムウ達が入ってきた扉の方へ視線を向けた。
 つられたムウも、同じように扉に目を向ける。
「あれ、ムウさん……そのスカーフって……」
 と、キラはムウの首に巻かれていたスカーフに目を留めた。
「準備してもらったのはありがたいがな、これだけは譲れねーの」
 そう言うとウィンクをして、スカーフを指差す。
「何故か、そのスカーフだけは外さないって聞かなかったんだよ」
 困ったような表情でチャンドラが呟く。
「蝶タイとかそういう類の物、ムウさんは苦手そうですもんね」
「あぁ?言ってくれるねぇ〜」
 キラが笑いながら呟くと、ムウも笑顔で反論する。
「でも、そのスカーフ……似合ってますね」「マリューが見立ててくれたからな」
 ムウは褒めてくれたキラに向かって、自慢げに答えていた。

 その時、目の前の扉が開き、ミリアリアとラクスが入ってきた。
 2人の後ろには、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めたマリューも。
「マ……マリューぅ?!」
 マリューの姿を見たムウが、素っ頓狂な声を出していた。
 その様子を間近でみたノイマン達は、やったとばかりに小さくガッツポーズをしながらクスクスと肩を揺らして笑っている。

 この屋敷に着いた時は、確かにグレーのワンピースだったマリュー。
 が、今、ムウの目の前にいる彼女はと言うと、淡いラベンダー色に染め上げられたシフォンのドレスを身に纏っていた。
 細い肩紐がマリューの肩のラインをハッキリと描き出しており、マリューが歩く度にスカートのスリットから、すらりとした足が見え隠れする。
 もちろん、ヘアメイクもバッチリで、いつもは下ろしたままの髪の毛も、綺麗に結い上げられていた。
「む……ムウっ……」
 視線の先で驚いた顔のまま固まっているムウを見つけたマリューは、恥ずかしさで更に真っ赤になってしまった。

「エターナルとアークエンジェルの皆さんの再会をお祝するパーティーを始めましょう」
 ラクスがにこやかにそう挨拶をすると、一斉に乾杯のためのシャンパンが配られ始める。
 それを2つ受け取ったムウは、真っ直ぐにマリューの元へとやってきて、そのうちの1つを差し出した。
「マリュー……すっげー似合ってる」
「え……」
「ってか、他のヤツらには見せたくないくらい」
「もぅっ……」
 ムウがそう言いつつ、自分の左腕をマリューの右腕前に差し出す。
 するとマリューは、少し俯きながらその腕に自分の右腕を絡ませた。
「ムウも着替えさせられたのね」
 隣に立ったムウの姿を改めて確認したマリューがそう聞くと、ムウは「すっかり俺達は騙されてたみたいだな」と苦笑していた。
「でも、そのスカーフ……」
 着ている物は全く別の物だが、襟元のスカーフは艦を出る時にマリューがプレゼントした物だった。
「あぁ。これだけは替えさせられないよ。マリューが見立ててくれた物だしな」
 そう言うと、ムウはマリューの耳元で「タキシードにも合うだろ?」と小さな声で主張する。
「えぇ、似合ってるわよ」
 その嬉しそうな表情につられて、マリューも笑顔でムウを見つめた。

「それでは……古のバレンタイン神父と神のご加護がある事を祈って。そして、みなさまの元にも、愛が降り注ぐ事を祈りまして……乾杯!」
 ラクスの声が響き渡ると同時に、大広間いっぱいに「乾杯!」の声も溢れた。


 堅苦しくないパーティーを……というラクスの希望通り、和やかな雰囲気で立食パーティーは進んでいた。
 最初は突然用意されたドレスに戸惑っていたマリューも、時間とともにその事を忘れて楽しい時を過ごしている。
 気が付けば時計は8時を過ぎていた。

「せっかくですので、みなさまにプレゼントを用意いたしましたの」
 突然、ラクスの声が響き、その場にいた人達は皆、彼女の方を振り返った。
 すると奥の部屋から、執事が大きな箱を運んできた。
 ラクスがその中からラッピングされた小箱を1つ取り出し手にする。
「オーブで過ごしたバレンタインでは、チョコレートを男性に差し上げる習慣がございましたの」
 そう言うと「これは、バルトフェルド隊長に」と、順番に小箱を手渡している。
「本当のバレンタインというのは、お互いの愛を確かめ合う日なのだと聞きました。そうですよね、マリューさん?」
 突然、話を振られたマリューは驚きながらも「えぇ、そうですわ」と返事をしていた。
「愛とは、人それぞれ、様々な形があると思いますわ。ですから、これは私からみなさまへの愛情のプレゼントです」
 そう微笑みつつ、ラクスは男性女性構わず、チョコレートを手渡し続ける。

 その場にいた人達にチョコレートを配り終えたラクスは、先程までとは違う箱を手に、ムウとマリューの元へやってきた。
「この箱は、私からお2人へ」
「え?俺達に?」
 皆が手にしている物とは明らかに違う、細長い箱を手渡されたムウは、思わずマリューと顔を見合わせた。
「早く開けてみて下さい」
 笑顔のラクスに急かされたムウが「じゃあ、お言葉に甘えて」と包装紙を剥がし箱を開ける。
 蓋を開けると同時に、甘いチョコレートの香りが漂った。
「え?」
 蓋を手にしたムウが、その中身を見て不思議そうな表情をすると、それをマリューの方に差し出した。
「何、これ?」
 箱の中には、確かに丸いチョコレートが詰まっていたのだが、その中央に1枚の金色のカードが入っている。
「そのカードは、私達からお2人へのプレゼントですわ」
「カードって……これ、ただのカードじゃないよな」
 ムウは、そう言いながら箱からカードを取り出しまじまじと見ている。
「『アプリリウス ハイアット・コート』……って、これホテルのカードキー?!」
「えぇっ?!」
 『ハイアット・コート』と言えば、アプリリウス市で一番の高級ホテル。
「ラ、ラクスさん、これって……どういう事なんです?」
 そんな高級なホテルのカードキーを渡されて、驚くなという方が無理である。
「おふたりとも、こちらに到着なされてから、ずっとアークエンジェルに滞在されていると伺っておりましたので」
「それは当たり前の事だろう。マリューは艦長だし、俺だって一応モビルスーツのパイロットだからな」
 おっとりとした笑顔で話すラクスにペースを乱されかけていたムウも、思わず反論した。
「今日ぐらいは、おふたりでゆっくりとしたお時間を過ごして頂きたいと思いましたの。艦のベッドでは、身も心もリラックスという訳にはいかないでしょうから」
「でも、それじゃあアークエンジェルが……」
 マリューがやはり艦に残ると言おうとした時、後ろから「それは私達に任せてください」と声がする。
 そこにいたのは、ノイマンやミリアリアを始めとするアークエンジェルのクルー達と、バルトフェルドの姿。
「艦の事は、俺が代わりに見ておいてやるから」
 バルトフェルドはムウの肩をバシッと叩くと、笑って言い放った。
「せっかく僕達がお膳立てしたのに」
 その隣でクスクスと笑っていたのはキラである。
「そうですよっ!せっかくだから、一佐と艦長で2人っきりで過ごせるようにって、ラクスさんにお願いしたんですよっ」
 ミリアリアが少しイジワルな笑みを浮かべながらムウに詰め寄っている。
「お部屋は、最上階のスィートを貸切に致しましたわ。それでも、艦にお戻りになられますの?」
 更にラクスが、すさまじい事をさらっと言ってのける。
「さ、最上階のスィートぉ??」
 驚く事しか出来なくなっていたマリューに、ムウはう〜んと唸りながら声を掛けた。
「……なぁ、ここまで言ってくれるんだし、お言葉に甘えないか?」
 スイートなんて滅多に泊まれないだろ?と、ムウはマリューの耳元で囁く。
「た、確かにそうですけど……」
 一介の軍人では、スィートはおろか高級ホテルに泊まる事もそうそうないだろうし……揺れ動いていたマリューも、ついにその誘惑に負けてしまった。
「本当によろしいのかしら?」
 念のため、マリューは再度その場にいたメンバーに確認をするが、その答えは「もちろん!」である。
「お車を用意させてありますわ。ほら、急いで下さい」
 躊躇していた2人を、ラクスは追い立てるようにして部屋の出口へと連れて行く。

「ラクスさん、こんなにして頂いてしまって……」
 申し訳なさそうにラクスに言葉を掛けたマリューに、ラクスはいつもと変わらぬ笑顔で答える。
「おふたりにも幸せな時間を過ごして頂きたいと思いましたの。それに、マリューさんの笑顔を見ると、私も幸せになりますの」
「サンキュー、お姫さん」
「いえ、お気になさらず」
 ムウは短く礼を述べるとマリューの手を取り、待たせてあったエレカに乗り込んだ。
「ゆっくりしてきてくださいね〜!」
 ミリアリアがそう言いながら手を振ると、他のメンバーも一斉に手を振っている。
 その様子を振り返りながら見ていた2人も、にこやかに手を振り返した。

 エレカから降り立った2人は、ホテルマンに案内され最上階にあるスィートルームにやってきた。
「……恐ろしく広いな」
 ハハハと乾いた笑いをするムウに対して、マリューも苦笑しつつ「そうね」と答える。
「あ……何か飲みます?」
 少しばかり緊張していたマリューは喉が渇いている事に気付き、ミニバーに備え付けられている冷蔵庫を開けてみた。
「ビールとかミネラルウォーターとか……あら、シャンパンもあるわ」
 冷蔵庫の中を確認していたマリューの声に、ムウは「じゃあ、シャンパンだな」と、作りつけの戸棚から細長いシャンパングラスを取り出し、カウンターに並べる。
 シャンパンの栓を開け、ゴールドの液体をグラスに注ぐと、それをマリューに手渡した。
「じゃあ、みんなの気持ちに感謝して……乾杯」「乾杯」
 グラスを軽く触れ合わせると、チンッと澄んだ音が部屋に響いた。

「それにしても……」「ん?」
 グラスをテーブルに置いたマリューが、ムウを見つめていた。
「明日1日、私達はフリーになっちゃったけど……どうします?」
 マリューは、少し困ったような笑顔でソファーから立ち上がると、窓の方へ歩み寄る。
「あ、観光でもしてみます?」
 外を見ていたマリューが、振り返るとそう呟いた。
「そうだなぁ〜」
 ムウもソファーから立ち上がると、窓際にたたずんでいるマリューを後ろから抱き締めた。
「俺は、一日中……マリューとこうしていたい」
「えっ?!」
 ムウは後ろからマリューの身体をホールドし、その首筋に顔を埋めた。
「だって、観光はまた今度でも出来るだろ?」
「……そうだけど……」
「ホテルのスィートでマリューと2人っきりで過ごせる時間なんて、そうそうない事だし」
 ムウはそう言うと顔を上げて、暗いガラスに写るマリューの顔を見つめた。
「もうっ……」
 顔を赤くしながらガラス越しにムウを見つめ返す。
 そして溜息をつくと「仕方ない人ね」と笑いながら、ムウの腕の中で身を翻した。
 ムウの顔を真正面から見つめ、広い背中にゆっくりと腕を回す。
「今日は、私から言わせて」「え?」
 ポッと顔を赤らめたマリューが、ムウの胸に顔を埋める。
「愛してるわ、ムウ」
「出来れば、俺を見て言って欲しいな」
 イジワルそうに笑いながら呟くと、マリューの顔を自分の方に向けさせた。
「ねっ?もう1回言ってよ」
 耳まで真っ赤になっていたマリューの顔を覗きこむようにして、ムウの顔が近づく。
 自分が「愛してる」と言うまで、絶対に諦めないんだろうな……と思ったマリューは、改めてその蒼い瞳を見つめた。
「……ムウ、愛してるわ。世界中の誰よりも、あなただけを……」
「俺も。マリューの事を愛してる」
 



 バレンタイン神父の魔法が、この世の全ての恋人達を包んで行くんだね。

 そうですわね。 
 ほら、あの2人も幸せそうでしょ?
 
 うん、そうだね。

 あらあら、お邪魔しちゃいけませんわ。
 
 じゃあ、僕達も行こうか?

 えぇ、そうですわね。




なんとか、バレンタインに間に合いました(^^ゞ
一時はアップも危なかったんですが(え?

しかし、ここまで長くするつもりはなかったんですけどね……。
って、なんか毎回言ってるような気が(苦笑)
その上、オチ無しだし(-_-;)

こんな話でも、欲しいと言われる方がありますかね?
もしそんな奇特な方がいらっしゃいましたら、リアクションして下さい。
その方に限り、リンクフリーとさせて頂きますm(_ _)m


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