Treasure Hunting 3




 大通りを抜け、海岸沿いの自宅に到着したムウは、玄関を開けるとすぐにキッチンに入った。そして、トートバックの中から空になったランチボックスを取り出し、それをシンクに積み上げる。
 とりあえず、コーヒーを1杯飲んでから着替えようと思ったムウは、インスタントコーヒーの瓶とマグカップを用意する。
 適当に淹れたコーヒーを手にリビングに移動したムウは、そのテーブルの上に1通の封筒がある事に気付いた。
「ん?何だコレ?」
 誰かからの郵便物かと思ったのだが、よく見るとその表には「ムウへ」と見慣れた文字で書かれていた。
「え?マリューから?」
 首を傾げながら、その封筒を手にして裏返す。
 
 ピンクの星型のシールだけで簡単に封がしてあるそれを開封し、中身を確かめる。
そこに入っていた1枚のカードを、ムウは注意深く取り出して、書かれているメッセージに目を通した。

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 ☆         ☆
 お疲れ様です。きたく早々ですが、一息ついたら『トレジャー・ハンティング』に付き合ってね。
 まずは、クッキングヒーターの下を見てみましょう
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「はぁ?何だぁ?」
 イマイチ何がしたいのか理解できていない様子で、ムウはキッチンへ移動する。
 そして、カードに指示されていた通り、クッキングヒーター下……その棚の扉を開けてみる。そこには、当たり前だが、料理で使う調味料などが整然と並んでいた。
 が……よく見ると、調味料のボトルの間に、先程と同じ封筒が立てかけてある事に気付く。
「これか?」
 ボソッと呟きながら、ムウはその封筒を手に取り、封を開ける。
案の定、同じカードがその中から出てきた。

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   ☆                                         ☆☆☆
 「こんな事に付き合わせて!」って、怒っていない?楽しんでるかしら?だいじょうぶかしら?
それでは次に、お風呂場に行ってみて下さい
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 そのカードに書かれている文章を小声で読みながら
「何だか分かんねーけど、楽しいかもな」と笑いながら、今度はお風呂場へと向かった。

「今度は何処にあるんだ?」
 1人でブツブツと言いながら、バスタブの周囲を探し始める。
 が、どう考えてもココに置くと封筒は濡れてしまうだろうと気付いたムウは、脱衣場に戻ってみる。
「やっぱ、ココが怪しいかな?」と、洗濯機の隣にある作りつけの棚を上から順に探し出す。
 そして、2段目の棚に置いてある、ムウのお気に入りのラベンダーの入浴剤の箱を持ち上げると、その下から同じ封筒が姿を現した。
「よっしゃ〜っ!」
 何気に小さくガッツポーズをして、その封筒を開封する。

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 びっくりするぐらい簡単でしょ? では今度は、お風呂上りに向かう場所という事で、寝室。ヒントは「左側で、普段のムウには目に付かない場所」よ
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 3通の封筒を手にしたまま、ムウは2階の寝室へ移動すると、2人の寝室の扉を開けて、ひとまず室内をぐるりと見渡す。
 が、特に変わったところは目に付かない。
「確かヒントが書いてあったよな……と、左側?」
 カードを読み返しながら、部屋の左側へ目を向けたが、そこにあるのは白い扉のクローゼットだけ。
「ここの中って事かぁ?」
 そう呟くと、勢いよくクローゼットの扉を開けた。
 ハンガーの向かって右側はムウのもの、左側はマリューのもの。その下には、それぞれのチェストが置いてある。
「これは、探すの大変だな……」
 開け放った扉の前に立ち頭をポリポリと掻きながら、ムウはもう一度カードを読み返す。
「左側で、俺の目が届かない場所?」
 そう言いながら、視線は必然的にマリューの衣類が片付けてある左側を向く。そして、マリューのチェストに、ゆっくりと手を伸ばす。が……
「まさか、マリューの下着が入ってる引き出しを開ける訳にはいかないだろっ!!」
 って、あのマリューが、その引き出しに次の封筒を隠すとは思えないし……ムウはブツブツとぼやきながら、自分の頭をポカポカと叩く。
 そして今度は、普段着が片付けてある、下の2段の引き出しを開ける決意をする。

「こんな所に隠すマリューが悪いんだからな」と、訳の分からない言い訳を口にしながら、まずは1番下の引き出しを開けてみる。
 そこには、作業着代わりに履いていたジーンズや、パンツなどが片付けてあった。
 早速ムウは、その中をかき混ぜないように気を付けながら、衣類をめくっていく。が、それらしき封筒は見つからない。
「ここじゃないのか〜」
 少しホッとした様子で、次に1つ上の引き出しを開けると、そこにはTシャツやカットソーなどが入っていた。
 こちらも、少々ドキドキしながら、先程と同じように慎重に衣類をめくって行く。
「……あれっ?!無いぞ」
 なんだよ、ドキドキして損した……などと言いながら引き出しを元に戻すと、再びクローゼットの前で考え込んだ。
「左側で、俺が見ない場所……」
 再び、カードに書かれていたヒントを口にしてみる。

 しばらくして、パンと手を叩くと「ここだな!」と、1番左側のハンガーにかかっていたマリューの軍服のジャケットを引っ張り出した。
そして「失礼しま〜す」と、ジャケットの内ポケットに手を入れる。
「おっ、発見!」
 ムウの予想通り、ジャケットの内ポケットから同じ封筒が出てきた。
そして、いそいそと開封し、カードに書かれている事を読み始める。

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                ☆
 よく見つけましたね!上出来ですわ。 ゴールはもうすぐだから、頑張ってね!
 では、玄関に行ってみましょう。ヒントは「私達の大切な思い出の物」よ
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「思い出ぇ??」
 玄関にそんな物が置いてあったっけ?と悩みつつも階段を下りていく。
そして、作りつけの下駄箱が怪しいと睨んだムウは、その中にある「大切な思い出」とやらを探し始めた。

 まずは、下の扉を開けてみる。
 新品の軍のブーツや、プライベートな時に2人が使っているシューズやパンプスが並んでいた。
「あ〜、これはマリューの誕生日に買ってやったヒールだ」
 先月のマリューの誕生日、2人一緒に出かけた時に、ムウがマリューに買ってやった深紅のハイヒールが目に付いた。
 このヒールに合わせて、ドレスも買ってやったよなぁ〜と、その時のマリューの恥ずかしそうな顔を思い出し、勝手に顔がにやけてしまう。
「あのローズレッドのドレス、すっげー似合ってたんだよなぁ〜」
 また今度、レストランでも誘ってさ、その時に着てもらおう……などと1人で勝手に計画を立てようとして、今、ここに自分がいる目的を思い出した。
「あ、違う違う、思い出の物探さないと……って、このヒールは思い出じゃないのかよぉ〜」
 なんとなく溜息をついて肩を落とすが、再び下駄箱の中を探し始める。が、その中には、それらしき物も封筒も発見できなかった。

「じゃあ、今度は上の棚か」
 そう言いながら立ち上がると、自分の頭の上にある扉を開けてみる。
 そこで最初に目に入ったのは、普段はあまり使われないマリューのロングブーツ。
「これじゃぁないよな」
 その時、ロングブーツの隣にも2足のショートブーツが並んでいる事に気付く。
「ん?これって……」
 それは、ムウにとって見覚えのあるブーツだった。
 サイズこそ違うが、全く同じデザインの2足のブーツ。
「保管してくれてたんだ、マリュー」
 やわらかい笑顔を浮かべたムウが、その2足のブーツを手に取った。
 それは、以前の大戦の時……2人がアークエンジェルで出会った時に履いていたブーツだ。
大きめのムウのブーツと、それよりも少し小さいサイズのマリューのもの。
今となっては必要のない、連合の制式ブーツ。

 あの時、マリューの前から姿を消したムウが、アークエンジェルに残した物の1つだったのだ。
 2人の制帽が保管してあったのは、ムウも知っていたが、まさかブーツまで保管してあるとは……ムウは、それをしばらく眺めていたが「ありがとな」と小さくブーツに語りかけた。
 そして、ムウのブーツの中に封筒が入っているのを見つけた。
「なるほどね。確かに『大切な思い出の物』だな」
 クスッと笑うと、その封筒を開封して、カードを取り出す。

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    ☆☆
 さて、とうとう最後です!
リビングに並んで飾ってある物を、よ〜く見てね
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「最後はリビングに戻るのか〜」
 ブツブツと言いながらも、ムウはリビングに引き返した。
 とりあえず、テーブルの上に五枚のカードを並べてから、ぐるりと部屋を見回す。
 並んで飾ってある物は……と気を付けて見ると、これが意外と多い事に気付く。

 ガラスのサイドボードの中には、2人で買ったペアカップ。
 ソファーには、色違いのクッション。
 本棚には、以前の大戦の時にアークエンジェルの中で撮影した何点かの写真。
 それと一緒に、オーブに帰ってきてから撮影した、2人のツーショット写真も並んでいる。
 そして、本棚の上には、マリューが大切に保管していてくれた、連合時代の制帽。

「この中で怪しそうなのは……まず、コレかな?」
 そう言いながら、サイドボードを開けてペアカップを手に取る。
 が、カップの中にもソーサーの下にも、それらしき物はなさそうである。
「クッションは除外でしょ。写真の後ろにもなさそうだな」
 だとすると……と、ムウは本棚の上の制帽に手を伸ばした。
 向かって右側の帽子を手に取ると、その下から封筒と共に、リボンが掛けられた小箱が姿を現した。
「これの事だな」と、その小箱と封筒を手にすると、制帽を元の場所に戻す。

 最後に見つけた封筒と小箱を持ったまま、ソファーに腰を下ろし、まずは封筒の方を開封する。
中から出てきたのは、先程までのカードとは違うデザインのものだった。

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 愛するムウへ
 
 トレジャー・ハンティング、お疲れ様。
 一緒に置いてあった小箱は、私からの誕生日プレゼントです。 

 それから、改めて……
 生まれてきてくれて、ありがとう。

 そして、帰ってきてくれて、本当にありがとう。

 あなたが側にいてくれるだけで、私は本当に幸せです。
 あの2年がウソのように、今は幸せよ。

 今までも、そしてこれからも、ずっとあなたを愛しています。

                             マリューより
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 読み終わったムウは、少しテレ笑いを浮かべながら小箱を開封した。
 箱の中から出てきたのは、羽の形をした銀色のチャームが付いた皮製のストラップ。
 それを箱から取り出し、自分の目の前でゆらゆらと揺らしてみる。窓から差し込む光がその羽に反射し、ムウの顔をキラキラと照らす。
「へぇ〜、こんなストラップがあるんだ〜」 
 俺にぴったりじゃん……と、すぐさまポケットから携帯を取り出すと、ボロボロになっていた古いストラップと付け変える。
 そして、バースディ・カードにチュッとキスをし、残ったカードも片付けると「さて、着替えますか〜」とおもむろに立ち上がった。