Reserve  前編

 数時間後に迫った、この国の代表首長の結婚式。
会場のセッティングに借り出された人の群れの中には
もちろん、アークエンジェルのクルー達の姿も見て取れた。
 来賓席のチェックをする者もあれば、警備の手順を確認する者の姿もある。
 そして、受付に姿を現したのは、きっちりと軍服を着込んでいるマリュー。
「あ、艦長〜……じゃなかった、ラミアス一佐!」
 手に書類の束を持ったまま、ミリアリアがマリューの元へ駆け寄って来る。
「ミリアリアさん、来賓名簿の準備は出来たかしら?」
 そう問いかけるマリューに、にっこりと笑顔を返して、ミリアリアが答える。
「はい、必要部数、揃ってます」
「そう、ありがとう。……じゃあ、これで受付の準備は全て完了ね」
 そう言いつつ、マリューは手元のファイルにチェックを入れる。
そして一呼吸置くと、少々大きめの声で「受付係の人は、こちらに集まって下さい!」
と、周囲に呼びかけた。
 程なくして、マリューの前に整列したのは、女性士官ばかり約20名。
「それでは、受付の最終確認をします。これが済みましたら、とりあえず休憩にしましょう。
 但し、式開始1時間前には、またここに集合すること」
 マリューが部下達の顔をぐるりと見渡しつつ、そう告げると「ハイッ!」と元気の良い声がその場に響いた。


 その頃、モルゲンレーテの工廠内では、4機のモビルスーツが佇んでいた。
式場の周囲に、どうしても置きたい……という、カガリの意向により
ストライクフリーダム、インフィニットジャスティスに、もちろんアカツキも。
 それに、一度は中破したものの、エリカ達の手によって修復されたストライクルージュが
その出番を待っていたのだ。
 アカツキのコクピットから姿を現したのは、現在そのパイロットでもあるムウ。
コクピットから飛び移るようにキャットウォークに移動すると、手すりから身を乗り出し
眼下にいるキラに声を掛けた。
「おーい、キラ!」「あ、ムウさん」
 手元の端末から顔を上げると、アカツキの前にいるムウの方を振り向いた。
「アカツキのチェック終わったからさ、俺がルージュの調整やっとくよ」
「えっ、でも……」
「お前、まだジャスティスの調整、始めたばかりだろ?」
 確かに、今、キラの手元にある端末には、ジャスティスのデータが映し出されている。
「まあ、そうですけど……でも、こちらもすぐ終わりますし、ルージュには、僕も乗った事ありますから」
 やんわりと断ろうとしたキラの言葉を遮るかのように、ムウは声を張り上げていた。
「そう言うなって!ルージュって、要はストライクとOSは同じなんだからさ。
 俺にだって分かるよ。まかせとけって!」
 言いながら、キャットウォークを小走りでルージュの方へと去って行った。
「まぁ、いいんじゃねぇの?フラガ一佐に任せときゃぁさ」
 ガハハハハと豪快に笑いながら、マードックが言うと
「そうですよね。今のルージュの調整は、僕よりムウさんの方がいいかもしれませんね」
 笑いながらキラは、再び端末に視線を戻した。

 一方、ルージュのコクピットに身を沈めたムウは、目を細めながら、ぐるりと周囲を見渡していた。
「……こんな造りだったよな、アイツも」
 愛しそうにスロットルレバーを撫でる。
「俺はストライクと一緒に飛んでいっちまったけど、お前はエライよな。
 あのお嬢ちゃんも、キラの事も守り通したんだからな」
 フッと笑みを浮かべると、手にしていた端末をコクピットのOSとリンクさせ、手早く立ち上げると調整を始めた。

「んじゃ、そこんトコだけよろしくな。あとは、コイツで出る時に最終チェックするから」
 ムウがルージュ担当の整備士と打ち合わせをしていると、前方からキラが近づいてくるのが見えた。
「ムウさん、ルージュの方はどうですか?」
「おぅ、もう終わるぜ。っしかし、手足失ってても他には異常なかったってんだから
 コイツはやっぱ、すげーよな」
「……ムウさん、それって皮肉ですか?」
 多分、ラクスを宇宙に迎えに行った時の事が言いたいのだろう……と想像し、
少しばかり苦笑しながら訊ねるキラに、ムウは
「だ〜っ、もぅ、そうじゃなくって!ストライクって、やっぱいい機体だって言いたいのっ!」
 頭をガシガシと掻きながら、キラにウィンクして見せると、手にしていた端末を整備士によろしくと手渡す。
「お前も調整終わったんなら、一旦、休憩しておけよ。後が長いしな」
 そうキラの肩をポンポンと軽く叩くと、その場を後にした。


 食堂でコーヒーを飲んでいたマリューの携帯が鳴ったのは、休憩に入ってすぐの事だった。
相手はもちろん、ムウである。
「どうしたの、ムウ?」
「今、どこにいんの?」いつものように、いきなり主題から入る会話はムウの癖。
「食堂で、ミリアリアさんとお茶してるけど……どうかしたの?」
 小首を傾げながら話をしているマリューを、向かい側に座っているミリアリアがニコニコしながら眺めている。
「じゃあ、今からそっちに行くからさ、ちょっと時間空けといて!」
「えっ??」
「あ、3分で着くからな!」
 何が何だか分からない顔で「どうしたのよ?」と話しかけた時にはすでに、相手の電話は切れていた。
「……もう」
 少々困った様子ではあるが、なんとなく楽しげなマリューの姿を見ていたミリアリアが口を開いた。
「フラガ一佐がどうかしたんですか?」
「何だか知らないけど、今からこっちに来るって」
 困ったものね〜と言いながらも、その表情は楽しそうであった。

 サッサと切った携帯をポケットに押し込みながら、ムウは軍本部内の自室へと向かった。
扉の前で暗証番号を打ち込み、クリアのランプが灯るのがもどかしいかのように、慌てて部屋に入る。
そして、デスクの引き出しから、小さな包みを取り出すと、それを軍服の胸ポケットへ、大事そうにしまいこんだ。
 ふと、壁の時計を見上げて「お、ヤバイヤバイ」とつぶやくと、慌てて部屋を後にする。
「3分で行く」などと言ってはみたものの、実際にマリューの待つ食堂に着いたのは、有にその倍の時間が過ぎていた。

「よっ、マリュー」
「3分と言った割りには、遅かったですね」
 ちょっとイジワルな言い方のマリューに、ミリアリアはクスリと笑みを漏らす。
「時計、気にしてましたもんね」「ちょっと、ミリアリアさんっ!!」
 ミリアリアの一言に顔を真っ赤にして、マリューが慌てて否定の言葉を発しようとした。
「へぇ〜、そんなに俺の事を待っててくれたんだ」
 マリューの反応を嬉しそうに眺めながら、ムウは椅子に座ったままの彼女の肩を、ぐっと抱き寄せた。
「ち、ちょっとっ!何してるんですか、こんな所で!!」
「ハイハイ、いいからいいから。ちょっと付き合ってよ」
 マリューの問いには答えずに、ムウは無理矢理彼女の腕を取ると、グイグイと引っ張って食堂を出ようとする。
「私、そろそろ会場の受付に行かなきゃならないんですっ!」
 そう反論するマリューだが、ムウは相変わらずそれには答えない。
そのまま、ミリアリアの方を振り返ると「ちゃんとラミアス一佐は会場に送り届けるからな」と告げる。
「ムウッ!!」「は〜い、分かりました!お待ちしておりま〜す」
 ミリアリアはマリューの言葉を遮るように大きな声で答えると、ニコニコとしながら手を振っている。
「じゃ、行こっか」「えぇっ?!」
 そのままムウは、マリューの腰に手を回すと、半ば無理矢理、彼女を本部から連れ出したのだった


と、とりあえず前編って事で……(^^ゞ
ホント、書き出したらどんどんと長くなってしまいまして(爆)
実は以前、物書きの友人に「はしょりすぎだ」と言われた事がありましてね。
それで、細かく描写を入れようとしたら、こんな状態になってしまいました(-_-;)
ってか、必要なのかよこの場面っ!と自己ツッコミしておきますんで(ぉぃ
なんだか、書けば書くほど話が長くなっていくような気が……
こんな駄文を読んで下さる方、本当にいるのかなぁ〜(自爆)
……もしかしたら、自己満足の世界なのかも(微妙に落ち込みちぅ(@_@。