東京、大阪、名古屋の三大都市圏は地価上昇が続き、商業地が4年連続、住宅地は3年連続で値上がりした。1月の日本銀行のマイナス金利政策で金融機関の不動産融資に弾みがつき、投資意欲が高まった。地価上昇は札幌や仙台など地方の中核都市にも波及している。

  国土交通省が20日発表した2016年基準地価(都道府県地価調査、7月1日時点)によると、三大都市圏の商業地の前年比上昇率は2.9%と15年の2.3%を上回った。安倍晋三政権下の13年以降、上昇が年々加速している。住宅地は前年と同じ0.4%。住宅地が4割以上の地点で、商業地が7割強で上昇。札幌、仙台、広島、福岡の地方主要4都市は商業地が6.7%上昇した。
  
  同省によると過去1年の三大都市圏の商業地の上昇率は前半(15年7月-12月)の1.7%から、マイナス金利政策が導入された後半(16年1月ー6月)には2.0%に加速した。日銀の統計によると6月末の不動産業向け貸出金残高は前年比6.7%増の68兆3206億円で、過去のバブル期を上回り1970年の統計開始以来最大。同省地価公示室長の安岡義敏氏は、金融緩和の地価への影響について「ローン金利の低下や企業の資金調達環境の改善など、一定のプラスの影響がある」と話す。

森ビルから見える都心の商業ビル
森ビルから見える都心の商業ビル
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  三菱地所の杉山博孝社長は、「緩やかな景気回復基調が続く中、地価の回復が持続していると感じている」とのコメントを発表した。

  一方、地価上昇の加速で今後の不動産市況には懐疑的な見方も出てきた。みずほ証券の石沢卓志上級研究員は、「不動産価格は実態以上に上がった結果、既にピークは過ぎた」と指摘する。割高感から投資を控える動きが散見され、基準地価に先立ち公表された16年第2四半期地価動向報告では、東京圏で虎ノ門や渋谷、表参道など5地区で上昇率が縮小、横浜市元町など2地区が上昇から横ばいに転じた。

インバウンドと再開発

  主要都市や観光地、再開発地域では引き続き訪日外国人の増加や再開発事業の進展が商業地の価格を押し上げた。大規模再開発が続く名古屋駅東口は商業地で全国1位の上昇率(32.3%)。格安航空会社(LCC)の増便による外国人客の増加や活発な消費が見られた大阪では、同市中央区の心斎橋駅(28.9%上昇)は3位だった。

  大和不動産鑑定の調査では東京都心Aクラスビルの床単価は16年第2四半期(4-6月)で756万円と5年前と比べ約9割高い水準で推移している。

  不動産価格の上昇で投資利回りが低下したのに加え、対象物件が少なくなってきたとして東京から地方へ投資を分散する動きも出ている。米総合不動産JLL日本法人の赤城威志リサーチ事業部長は「国内外の投資家が不動産投資の対象エリアを東京から地方に広げる動きが出ている」と指摘する。札幌市が7.3%、仙台市7.6%の上昇率を示し、東京都区部の4.9%を上回った。

住宅地

  住宅地もローン金利の低下やローン減税などの下支えから堅調に推移。ただ、名古屋圏の上昇率は0.5%と前年の0.7%から鈍化し、東京圏と大阪圏の伸び率は前年と同じだった。同省がまとめた5月の不動産価格指数(住宅、全国)ではマンションは128.1と08年4月以降で最高となるなど、価格の上昇で住宅の売れ行きに変調が見られる。不動産経済研究所のまとめでは8月の首都圏の新築マンションの販売契約率は好不調の目安とされる7割を3カ月連続で下回った

  住宅地の上昇率1位は北海道の倶知安町で、27.3%値上がりした。外国人向けの別荘やコンドミニアム(長期滞在用宿泊施設)の建設が続き、外国人観光客向けのビジネスも広がっている。商業地は上位10位のうち5位までが名古屋市と大阪市だった。

  住宅地で地価が最も高かったのは、東京都千代田区六番町で1平方メートル当たり363万円で5年連続トップ。商業地は中央区銀座2丁目の明治屋銀座ビルの3300万円で、11年連続1位だった。

  地方圏も含めた全国ベースでみると、住宅地は25年連続で低下したのに対し、商業地は9年ぶりにプラスに転じた。

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