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細野透 「危ない建築」と「安全な建築」の境目を分けるもの建設

【緊急出稿】豊洲市場と環境省・土壌汚染対策法の「怪しい関係」(1/6ページ)

2016.09.20

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土壌汚染地に食品市場の建設を許容する技術者は皆無

 豊洲市場では目下、建物の地下を空洞にした決定プロセスが、大きな問題になっています。実は、土木学会・建設マネジメント委員会・環境修復事業マネジメント研究小委員会が、2013年に、豊洲への市場建設について調べていました。土木学会は建築学会と並んで、建設関係者に大きな影響力を持つ、有力な学会です。

 その具体的な内容は、日本大学理工学部土木工学科に2013年4月に提出された、下池季樹氏による学位請求論文、『土壌汚染対策事業の最適なマネジメント手法導入に関する研究』に掲載されています。この論文は審査に合格し、同氏には2013年10月に工学博士の学位が授与されました。

 執筆者の下池季樹氏は、土壌汚染対策事業の現場管理に従事している技術者ですが、それと同時に土木学会・環境修復事業マネジメント研究小委員会の小委員長という立場にありました。そして同論文自体は、小委員会のメンバーと協同して、調査・研究した成果に基づいています。したがって、個人の論文であると同時に、土木学会小委員会による豊洲事業への見解であるとも受け取れるのです。

 同論文の中に、豊洲市場と土壌汚染対策法の「怪しい関係」が記されています。同法を管轄するのは環境省で、小池百合子都知事は元環境大臣でした。小池知事は「怪しい関係」に気がついているのでしょうか。

 まず、歴史を振り返る必要があります。土壌汚染およびその対策事業が本格的に注目されるようになったのは、1986年から1991年までのいわゆる「バブル景気」のころに、都市における工場跡地の再開発などが盛んに行われるようになった時期でした。

 しかし工場跡地の再開発に際して、ヒ素や重金属などによる土壌汚染が発覚し、周辺住民とのトラブルや開発計画の中止などの問題が多発しました。それに対応するために、土壌汚染対策法が2002年に成立し、翌年施行されました。しかし、対策事業の前例が少ないため、具体的なマネジメント手法が不足していました。

 土木学会小委員会は、「土壌汚染対策事業における成功事例と失敗事例」「土壌汚染対策事業におけるマネジメント事例」などを研究するために、主に建設会社や建設コンサルタント会社などで働く技術者を対象にして、各種のアンケート調査を実施しました。

 アンケート調査のうち、豊洲市場問題に関係する部分をピックアップします。

 「土壌汚染地域でも、適切な対策を施せば、何らかの土地利用は可能とする意見が多数を占めている。ただし、土地の利用方法については、事務所なら容認できるという意見が大半(54パーセント)で、次いで住宅(19パーセント)、倉庫(15パーセント)と続いた」(下池論文、図も下池論文)

[画像のクリックで拡大表示]

 実際問題として、汚染土壌の跡地に建設された事務所ビルで働くのは、いくら汚染対策をしていたとしても、気持ちのいいものではありません。

 また住宅ならいいと考える技術者が19パーセントいるようですが、汚染土壌の跡地にマンションを建設した場合には、いわゆる風評被害によって買いたたかれるリスクを内在します。すなわち購入者は不安な気持ちで生活することになります。

 そもそも豊洲市場は食品を扱う場所です。汚染土壌の跡地に、そんな施設の建設を認める技術者は存在しません。分類的には商業施設になるのですが、図を見れば分かるように、許容する回答者は0パーセントです。全員が反対しています。

 発注者から依頼されれば、建設事業に従事しなければならない立場にある建設技術者といえども、本音では汚染土壌の跡地に、食品市場を建設することを拒否しています。これは建設技術者の本能であり、守らなければならない倫理観でもあるのです。

 石原慎太郎元東京都知事、東京都中央卸売市場長を始めとする責任者たちは、なぜ道を誤って、「禁断の地」豊洲への市場建設に踏み切ったのでしょうか。

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