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暴走続く北朝鮮、最悪と最良のシナリオは

真壁昭夫 [信州大学教授]
【第446回】 2016年9月20日
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 わが国としては、この状況に対する解決策として、そして自国の防衛強化のために、米国を中心とする主要国との協調体制をより強固にすると同時に、わが国は自国を自分で守るすべを徐々に確立していく必要がある。

大国パワーの“緩衝地帯”となっている
朝鮮半島の重要性

 朝鮮半島は米国・中国・ロシアの大国にとって戦略的に重要な地域だ。歴史的にみても、朝鮮半島の領有をめぐって、これまでも多くの国が対立してきた。第2次世界大戦以降、朝鮮戦争の勃発は、米国を中心とする資本主義陣営と、中国、ロシア(旧ソ連)を軸とする共産主義陣営の対立という構図を強く示した。

 そこで重要になるのは、先述したように、朝鮮半島が大国パワー衝突を回避する有効な緩衝地帯だということだ。これまで中国は北朝鮮の横暴や暴走に警戒を示しつつも寛大にふるまってきた。それは、中国が米国との直接対立を避けるために、北朝鮮の緩衝国(緩衝地帯)としての重要性を理解してきたからだ。

 これはロシアにも当てはまる。もし朝鮮半島情勢が不安定化すれば、米国対中国、米国対ロシアというように大国同士が直接相対する事態も想定される。米国にとっては、北朝鮮が崩壊すると、中国あるいはロシアの力学と米国のパワーが直接対峙することになる。その点で、北朝鮮の存在は米国・中国・ロシアが冷静な関係を保ち、国際社会の安定を支える上で戦略的に重要な地域だ。

 近年、北朝鮮を取り巻く環境は徐々に変化している。米国・中国・ロシアも、朝鮮半島以外での重要な問題を抱えているからだ。米国はイラン、シリアなどの中東問題をどう解決するか、具体的な方策を見いだせていない。

 中国は国内経済の低迷を解決できていない。国内の不満解消、国威発揚のために推進した南シナ海への海洋進出に対しても国際司法から“ノー”の裁定が突き付けられた。しかも、習近平体制は外から見るほど盤石ではないかもしれない。

 ロシアは資源価格の下落を受けた経済の低迷、そしてクリミアをめぐるウクライナとの衝突、国際社会からの批判に直面している。

 そうした状況を考えると、米国・中国・ロシアのいずれも朝鮮半島で互いに対立を深める余裕はないだろう。彼らの本音を言えば、北朝鮮は騒ぎを起こすのではなく、「できるだけ大人しくしていてほしい」ということになるだろう。

核という恐怖のカードを世界に示し
安全と支配体制の維持を狙う金正恩

 北朝鮮が核実験の強行など身勝手な行為を繰り返している背景には、核という恐怖のカードを世界に示すことで、金正恩の安全と支配体制の維持を狙っていることがある。

 具体的には、北朝鮮は6ヵ国協議ではなく、単独で米国と交渉し平和条約を締結したいと考えているはずだ。その意味では、核実験の強行は、国際社会における朝鮮半島の戦略的な重要性を逆手に取って、北朝鮮が国際社会を挑発することでもある。

 中国で開かれたG20首脳会議の当日、北朝鮮は中距離弾道ミサイルを発射し、国際社会からの非難を浴びた。そのタイミングには、北朝鮮が自らの存在が極東および国際情勢にとって重要であることを誇示し、有利な交渉条件を引き出そうとする意図が見え隠れする。

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真壁昭夫 [信州大学教授]

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員などを経て現職に。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。


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