• 月機

【月機】霧中の道標 ~左~

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~10人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/07 09:00
完成日
2016/09/14 12:19

オープニング


 ユキウサギが住まう『おばけクルミの里』は、歪虚の襲撃を受け孤立状態となっていた。
 その報を聞きつけたハンター達は、救援に向かうべく森の中へと足を踏み入れるが、なぜか歩けど歩けど一向に目的地に辿り着かない。
「どういう事だ……」
「里はどこにあるの……?」
 戸惑い立ち止ったハンター達の周りを、ゆっくりと白い霧が覆っていく。
 徐々に視界を塞ぐ白い霧に、ハンター達が身構える中、それはどこからともなく聞こえてきた。

『いらっしゃい。僕のゲーム盤へようこそ』

「こ、この声……コーリアスか!」
「ゲームって何なの!?」
 霧に向かって叫ぶハンター達。それに嘲笑うかのように、コーリアスの楽しげな声が響く。

『このゲームに於ける君たちの勝利条件は……僕から追加で出される『条件』をクリアして、この霧の迷宮を脱出する事にある』

「どこにいる、姿を見せろ!」
「……まって、様子がおかしいわ。もしかしたらこれ、声を再生しているだけなのかも」

『このゲームに君たちが勝利すれば、僕の兵器がいくつか減ることになる。ツキウサギ達を助けやすくなるんじゃないかな? 勿論、ゲームを受けない選択肢もあるよ。……君たちは、何を選ぶんだろうね』

 仕組みに気付いたハンター達が周囲を探る間も、遠くから近くから聞こえるコーリアスの声は続く。
 そんな時、ふと霧が晴れ、二股の分かれ道が現れた。
「あからさますぎる罠だな、ここを進めってか……」
「でも、行くしかないわ。里はこの先よ」
 頷き合うハンター達。左右に分かれた2本の道。
 さあ、どちらに進もうか――。

●左の道
 昼間の霧は世界を白一色に染める。
 ただ奥まで続く一本道をゆっくりとゆっくりと歩んでいた。
「一体どこまで続いているんだ……」
 頬を伝う汗は、暑さからか、それとも。
 永遠に続くとも思える一本道を、只管歩き続ける。
 そして、それほどの時間歩いただろうか。ふと異変に気づいた。
「み、皆!」
 あたりに人の気配がない。
 振り向けば歩いてきた一本道がずっと続いている。
 再び振り向けば、里に続くであろう道が同じく続いていた。
「いない……! くっ……くそぉくそぉ!」
 錯乱状態に陥る一歩寸前。再びあの声が聞こえた。

『待たせたね』

「コ、コーリアスっ!! 仲間をどこへやった!!」

『これより、僕のゲームの開幕だ。絶望と希望と、全てが入り混じる世界の』

 ハンターの叫びに答えないのはやはり自動音声だからか。

『果たして、手を掛けられるのかな? 貴公の一番大切なものに――』

「な、何の事だ!」
 再び叫ぶも、それから先の声は一切聞こえなかった。
「く、くそっ!」
 再び無音となった白の世界を、ゆっくりと見渡すと、ある一点に白い霧が集まりだした。
「……そ、そんな、お前は」
 白の霧が集まり、結んだ像は――。
「ま、待て! なんでお前がこんな所にいる!!」
 大きく目を見開き、ハンターは二歩三歩と後ずさった。
 ――それは、一番見知り、一番心を許した顔。
 突然目の前に現れた人影を、ハンターは呆然と見つめていた。

プレイング

カフカ・ブラックウェル(ka0794
人間(紅)|16才|男性|魔術師
●目的
霧の結界を突破し、コーリアス側の兵器設備を破壊

●一番大切なもの
アルカ・ブラックウェル(ka0790:双子の妹

この世で唯一の【対】であり【半身】
この依頼には妹と共に参加
分かれ道で妹は右、僕は左の道を選んだ
離れていても僕らは【パートナー】
心は繋がっているから

●遭遇時
「…アルカ?!無事だったのか、怪我は?他の皆は?」
※攻撃をされて
「…なっ…何を…アルカ、一体どうしちゃったんだよ?!」
「やめろ!僕だ、カフカだ!…判らないのかっ!?」


●行動
当初は防戦一方
ウィンドガストで回避を上げて攻撃を避ける

「(全く…どういう状況なんだ…アルカは操られているのか…それとも、幻影…?)」


ふと、コーリアスの言った言葉を思い出す

「アルカが僕の…一番大切なもの、なんだ……まだ…」
「(かの薔薇姫も大切なんだけど…何だかショックの様な安心した様な…)」

急速に混乱状態が落ち着いてくる

どこからか妹の声が聞こえたような?
僕に助けて欲しいと求める声
僕に無事でいてと祈る声

…目の前のあれは…

「そもそも、アルカと僕は喧嘩はするけど…こういうやり方は一切しない」
「そして操られたとしても身体が僕を攻撃する事を拒む筈…よってあれはアルカを模した幻影だ!」

コーリアス、お前の作戦ミスだ
双子の持つ互いを求め合う絆の強さ…見誤ったね

見た目は妹、綺麗に消してあげるよ
氷漬けにして雷で打って粉々にしてやる

「さて、本物を探して…兵器を壊さなきゃな」
ラミア・マクトゥーム(ka1720
人間(紅)|15才|女性|霊闘士
「ね、姉さん・・・?どうして・・・」
私の大事な人は姉さん、ラウィーヤ・マクトゥーム。
今のあたしのただ一人の家族。

攻撃されたらパニックになります。
「ま、待って!どうしたの?やだ、やめてよ!ねえ・・・姉さん!」
攻撃をなんとか避けるのが精一杯。

○戦闘スタイル
姉とは対照的に感情的で攻撃一辺倒。
感性とスピードで戦う。

○行動
いつも穏やかで優しい姉さん。
あたしはそんな姉さんが大好きだった。
でも・・・
(姉さんは、あたしがいない方が自由なんじゃ・・・)
こんな時だからこそ、露になる思考。
姉さんは何時だって我慢できる・・・我慢をしてしまう人。
あたしはそれを心配しながら・・・都合よく甘えてきた。
そんなあたしを姉さんはいつか邪魔に思うんじゃないか、ってどこかで思ってるかもしれない。

怒りを宿しあたしを追い詰めてくる姉さんの顔。
(姉さんが怒るの・・・何時ぶり?
あ、あの時だ・・・あたしがハイルタイにやられて大怪我した時。
それでもまた戦いにいこうとしたあたしを止めてくれたとき…
(違う・・・)
あたしを心配して本気で怒ってくれたあの時の姉さんの涙・・・嘘の筈がない。
「この姉さんは…あたしの想像の…偽者?」

乗り越えられたら、素直に聞いてみよう。
いつまでも逃げてらんないし、あたしのこと、もし重荷ならそう言ってもらおう。
それでもあたしは姉さんのこと大好きなのはかわらないもん。
その時はその時、またそこから始めればいい、よね?
シギル・ブラッドリィ(ka4520
人間(紅)|22才|男性|聖導士
「・・・シャル?」
かつての主人にして、唯一無二の友
道を自ら望んで違え敵対する、最愛の女

「ふふ・・・ははは・・・」
頬がつり上がるのを、押さえ切れない
待ちわびた・・・この時を・・・!
自分に迫る刃を握って顔を寄せる
名前を呟き、銃を突きつける

親戚筋の主筋であり長い時を共に研鑽した相手
不満など無く、寧ろこれ以上無かった
望めば共にあり続ける事も出来た
それを望んでいた時期もあった
いや。いまでもどこかで未練があるのもわかっている
それでも俺は裏切った
許されない我儘だと知りながら、
二番手に甘んじる事を許容できなかった
強欲にも、与えられるのではなく、彼女から互いの全てを奪い合う為に

相手を手にかけようと、逆の結果になろうとも、この相手ならば満足できる
言い訳もなく、妥協もなく、己の全てをぶつけて競い合うを望む唯一の相手

その相手が、自分を殺しに来ている
「たまらねえな!」
誰よりもよく知っていると自負する相手に銃を向けて引鉄を引く
引く瞬間に感じた強い抵抗を踏み躙り、軟弱な自分に気づかないフリをして欺き続ける

「…食い足りねえよ」
彼女が消えたら、その喪失感を感じ抑えつけながら呟やく
本物はこんなものではない
そうだ、自分の全てをぶつけて尚どちらが勝つかわからない
そんな奴だからこそ、離れたのだから
「感謝してやるぜ、予行演習ができたの事をな」
暗い焔を瞳に宿してつぶやく
コーリアス、その顔面にこの弾を捻じ込んでやろうと誓いながら
ステラ=ライムライト(ka5122
人間(蒼)|16才|女性|舞刀士
★アドリブ可
○心情
「えっ、な、なんで水月がここに…っ?
一緒には来ていない彼氏が目の前に現れ混乱

○目的
結界突破
歪虚兵器破壊

○行動
水月が突然現れ混乱
向こうはクラス的に隠密行動に優れるため秘密裏に組織された別動隊の一員と自己解釈
混乱はしても彼氏が現れたことで喜びなんで来たのか尋ねる
「えっ…水月、助けに来てくれたの?
「もしかしてこれも作戦なの?大人数で頑張ろうって事なの?

問答無用で襲われても意思疎通を試み続ける
「えっ、ちょっと待って!私だよ、ステラだよ!やめてよ…っ!」
本来は水月が突然襲ってくるはずもなくひどく混乱
罠なのか向こうに自分が敵として映っているのかも分からずパニックに
仮に水月が本物だったら、の万が一を考えて襲われても反撃できない

残り一撃のところで夢か現か水月に話しかけられる幻を見る
その後こちらも死にたくないので一之太刀+気息充溢+疾風剣で反撃
もし本物なら避けるはず、当たっても一撃では削り切れないため目を覚ましてもらう覚悟で
「…ごめんね、ちょっと痛いけど大人しくしててね…っ!」
攻撃時、覚醒時の燐光と背のリングが神々しく輝き瞳が琥珀色に変色
攻撃後輝きと瞳の色は元に戻る
攻撃時の動きで本物か偽物か判別、偽物と分かったら容赦なく殺しにかかる
「水月の偽物なんて…、許さない、絶対許さない…っ!」

無事倒したらそれまでの精神的な疲労でその場にへたり込む
帰還後、寂しさから水月に思いっきり甘える
メンカル(ka5338
人間(紅)|26才|男性|疾影士
最も大切なものは可愛い可愛い「弟」のアルマ(ka4901)。実弟。
青い服を着た背の高いエルフ。性格はわふもふ大型犬。
お気に入りのモノクルと白い拳銃は父親、青いリボンは母親の形見。
何より自分の世界で一番可愛い弟を見間違えるはずもない。

……が。
問答無用で襲ってくるとのことなので
「…!お前、どうしてここに…嫁と一緒に仕事だったんじゃないのk…ッ!?」
彼の攻撃手段は青い炎(機導師のFスローワー)
一撃目を全力で避け、幻影を改めて視界に入れ…

…全力で逃げる!
なぜなら弟は機導師でありながら魔術師に引けを取らない超火力。
一度真っ向から貰って三日寝込んだトラウマものの攻撃だからだ!
「ちょっ、待っ、待て!待てと言ってるだろうが、アr(二撃目)……何のつもりか知らんが洒落にならんッ!!」
つまるところ最愛で最恐。俺が一体何をした。

逃げるだけでは埒が明かない
「――ッ、の、いい加減にしろッ!」
牽制で龍尾刀を鞭の形に、胴を狙って一閃。
当たるか、幻影の攻撃を貰って弱いことに気づけば……
「…?弱い…?」「……偽物か!――なら、容赦は要らんな」
弟は自分より(すごく)強い。そして、偽物ならば容赦しない。その理由は、
「俺の弟を騙るとは、随分と度胸があるな?……後悔するがいい」
弟に化けた時点で死刑モノだから。

終了後
非常に顔色が悪い。形だけとはいえ、愛する弟を手にかけたから…でもあるが。
「……死ぬかと思った。二重の意味でだ」
アーシェ(ka6089
人間(紅)|15才|女性|霊闘士
えっと、コーリアス……? その人のゲームに勝てばいいの?
なんだか、霧の結界に迷い込んじゃった、みたい。
突破して、兵器というの破壊する。それが目的。

皆いなくなっちゃった。旅立った時みたいに……一人。
歩いてたらお腹、すいた、な。
早く里に辿り着いて……ウサギをもふるの。だから、頑張る。

大切な、もの……?
んー……今のね、空腹を満たすのに大切なら、食べ物だよ。
襲ってきたら驚くけど、容赦しない。料理する。

……。
おじぃとおばぁ、元気かな。
一番、大好きな人達、だよ。……あれ? 目の前にいる?
なんで、襲ってくるの? わたし、修行サボってないよ?
攻撃なんて出来ない、どうしよう……回避、する。

でも……こんなところにいるの変。
滅多なことじゃ、聖地を離れることしない人。わたし、知ってる。
……偽物、躊躇しない。

※アドリブ歓迎、だよ。

リプレイ本文

●霧の道
 どこまでも続く白の世界と一本の道。
 アーシェ(ka6089) は、ただ先の見えない道を歩いていた。
「皆、いなくなっちゃった」
 先ほどまでは仲間の気配は感じていた。しかし、それも一つ消え二つ消え……ついに何も感じられなくなる。
「旅立った時みたいに……一人」
 どこか虚ろに呟いたアーシェは、ふと視線を落とした。
「歩いてたらお腹、すいた、な……」
 食料はすでに底をつき、背負い袋の軽さに寂しさを覚える。
「……すんすん」
 今まさに鳴こうとする腹の虫よりも早く。
「……いい匂い?」
 漂う匂いに、アーシャは釣られる様に足を向けた。

「……おじぃ? おばぁ?」
 匂い頼りに辿り着いた場所に、突然見知った顔が現れる。
「ご飯作って、待っててくれたの……?」
 口元に笑みを浮かべる二つの顔を忘れるはずもない。それは遥かに遠い故郷に居るはずの祖父母だった。
「違うの……? じゃ、どうして……」
 いつの間にか匂いの途切れている事に気付いたアーシェは首をかしげた、その瞬間。
「え……」
 腕に熱が奔った。
「おじぃ……?」
 あまりの突然の事態にアーシェは、熱の走った腕と短刀を握る祖父を交互に見やる。
「どうしたのおじぃ、おばぁ……。どうして攻撃するの……!」
 無情に短刀を振るう祖父と、追従する祖母の攻撃をかろうじて避け、アーシェは必死に問いかけた。
「わたし、ちゃんと修業してるよ……? おねがい……怒らないで」
 聞く耳を持たない二人に、最後は懇願にも似た呟きを漏らす。
「っ……!」
 二度目の熱は頬だった。
 一向にやむことのない攻撃を避け続けながら、アーシャは感じる。
(でも……こんな所にいるのは変)
 頬と腕の傷が頭の熱を吸い取ってくれる。
(滅多なことじゃ、聖地を離れることしない人。わたし、知ってる!)
 その瞬間、違和感は確信へと変わった。
「……偽物、躊躇しない」
 迫りくる二人を真正面に見つめ、アーシャは血が出そうなほど力いっぱい拳を握りしめた。


「お前、どうしてここに……! 嫁と一緒に仕事だったんじゃないのかッ!?」
 突然霧中に現れた影を前に、メンカル ( ka5338 ) は叫ぶ。
 
 深い青の長服に、長い耳。
 右目を光るモノクルは肌身離さないお気に入り。
 腰の白い拳銃と、髪を飾る青いリボンはどちらも見覚えがある……両親の形見だ。

 突然、目の前の男の手にマテリアルの熱が生成される。
「ま、待て! いったい何のつもりだ!!」
 しかし、男はメンカルの静止も聞かずに生まれた火雨を無造作に放った。
「ちぃ、問答無用か……!」
 迫る火粒を全力で回避し、メンカルはぐっと脚に力を込めると――。

「さらばだっ!」
 全力で逃げだした。

 メンカルは生まれてからこの方鍛えに鍛え上げた全ての力をもって、駆け続ける。
「くっ、やはり追いつくか……! いつもであれば流石と褒めてやりたい所だが、今は待て! うおっ! だから待てと言っているだろぉが!」
 しかし、追う男はメンカルの静止も聞かず涼しい顔で追いかけてくる。
「俺が一体何をした! そうか、昨日のプリンか! あれは……そうあれは賞味期限が切れ――くおぉぁ!!」
 いくら走れど一向に開かない距離。問答無用に降り注ぐ火雨を何とか掻い潜る。
「たかがプリンくらいで――ぐおっ!? 違うのか!? では何に怒っている! ……そうかあれか! こっそり隠れてお前の部屋で――うおぉ!!」
 足元に炸裂した火雨は、メンカルの靴を焦がした。
「くぅっ、いい加減にしろ!」
 怒号一閃。男のあまりの態度に、メンカルは立ち止まり振り返る。
「兄がこれだけ誠意をもって謝罪をしているのに、なんだその態度は!」
 そして、今まで溜まった鬱憤を晴らすかの如く愛刀を鞭の如くしならせた。
「こんなものが当たるとは思って……む?」
 目の前の男が本物であれば、自分より(かなり)強い。この程度の攻撃容易く避けるはずだ。しかし、現実はどうだ。メンカルの放った攻撃に膝をついている。
 あの自分より(すごく)強い弟が、自分如きの攻撃で膝を折る?
 あり得ない。
 その瞬間、メンカルの表情から困惑が消えた。
「……その変身の技量は褒めてやろう。俺が思わず見惚れた程だ」
 コキコキと肩や拳を鳴らしながら、膝をつく男に近づいていく。
「しかし、その姿を選んだ事が運の尽きだ」
 すらりと剣の形をとった獲物を掲げると――。
「我が弟を騙ったその所業、万死に値する。……あの世で後悔するがいい」
 何の躊躇もなく、振り下ろした。


「……誰だ」
 シギル・ブラッドリィ(ka4520)は立ち止まると、すぐさまホルスターに手を掛けた。
 白霧はゆっくりと色に染まっていく。
「き、貴様は……」
 ホルスターの留め金を外した指の動きが止まった。
 霧の中で結ばれた像は、シギルの心の空白を最も埋める者の姿を取る。

 美しい女性だった。
 主筋であり、幼い頃より長い時を共にした。
 共に過ごし、笑い、泣き――望めば隣にあり続ける事が出来た相手。
 それを望んでいた時期もあった。いや、今もどこかでそれを望んでいる自分がいる。
 それでも俺は、差し出された手を払った。
 主筋に逆らう分筋がどうなるか。当然知った上で、二番手に甘んじる事を許容できなかった。
 俺は彼女の全てが欲しかった。
 その顔、その姿、その体、そして魂すらも。
 自分の内なる強欲を隠すために、俺は彼女を裏切った――。

「ふふ……ははは……はぁっはっはっ! なんだ、どうした! なぜこんな所に貴様がいる!」
 ここは敵中。それも罠の中だ。それが敵であることは疑いようもない。
 シギルは自然と吊り上がる頬を空いた手でなぞると、躊躇なく銃を引き抜いた。
「まさか、こんな所で俺の望みが――貴様をこの手にかけられるのならなぁ!」
 正道に突撃してきた相手の剣を素手で掴み上げ、シギルは声を上げて笑う。
「どれだけこの時を待ちわびたか……。さぁ、やろう!『――』。本気の殺し合いを!」
 流れ出る血など気にも留めず、シギルは相手の体を引き寄せると耳元で名前を囁き、突き放した。

 剣をぶれる事無く正面に構える姿は、絵本に出てくる聖騎士そのもの。どこまでも清く正しい騎士様であらせられる。
「たまらねえな、その姿」
 本当の彼女であれば、その剣気、そして、射貫くような真っ直ぐな視線に押され、引き金にかかる指が震える。
 だが、目の前の女からはそのどれもが感じられない。
「だが、所詮は偽物か……震える程の殺し合いは望むべきもない、な」
 一時の熱は急速に冷める。
 シギルはなんの躊躇なく、彼女の眉間を目がけ引鉄を引いた。

●霧の中
 果て無く進んだ先に、カフカ・ブラックウェル(ka0794) はよく見知った顔を見つけた。
「アルカっ!? 何でここに……君は確かあちらの道に」
 カフカは躊躇いなく人影に近づくと、さらに問いかける。
「無事だったのか、怪我は? 一緒に行った他の皆は? こちらははぐれてしまったみたいなんだ……」
 不安の中、現れたその姿に安堵したカフカは、今までの経緯をつぶさに報告する。
「――しかし、一体出口はどこなんだ。君は何か見つけ――っ! ア、アルカ!?」
 道の終着を求め、視線を霧の中に彷徨わせていたカフカに、突然、人影が斬りかかってきた。
「……なっ! 何をするんだ! よせ! 一体どうしちゃったんだ!!」
 鋭く切り込む一撃を寸でで避けたカフカに、影は執拗に二の太刀三の太刀を浴びせかける。
「やめろ! 僕だ、カフカだ! 判らないのかっ!!」
 剣を振るう人影はこの世で唯一の『対』であり、半身でもある最愛の妹。しかし、彼女は霧中の道標で道を分かったはず。
(どういうことだ……まさか操られているのか!?)
 考えとしてはあり得る。妹の向かった左の道でコーリアスが仕掛けた何らかの罠にかかった可能性が。
「……いや、違う」
 四の太刀をかわし、カフカは初めて人影をまじまじと見つめた。
 似ている。いや、似ているどころの話ではない。まさに本物だ。
 しかし、カフカはこの道を前に聞いた、奴の言葉を思い出した。

『果たして、手を掛けられるのかな? 貴公の一番大切なものに――』

「ふふ……」
 五の太刀を避けたカフカの口元に自然と笑みが浮かぶ。
「そうか、まだ、そうだったんだ」
 六の太刀、七の太刀――。
「アルカが僕の……一番大切なものだったんだね」
 振り下ろされた八の太刀の刀身を横から殴りつけた。
「教えてあげようか。僕達はよくケンカをする。だけど、こういうやり取りは一切しないんだよ!」
 バランスを崩した人影に向け、カフカはワンドの先を突きつける。
「コーリアス、お前の負けだ! 双子が持つ互いを求めあう絆の強さを、見誤ったね!」
 瞬時に生成された氷のマテリアルが、人影をそのままの形で像へと変えた。
「――安心して。綺麗に消してあげるよ。偽りの、最愛の人」
 くるりと杖を一回転させたカフカは、新たに生成した雷のマテリアルを氷像と化した人影に向けとき放った。

●霧の中

――煩わしくないと言えば、嘘になる……けど。
――だけど……私は、大切な、家族と共に……生きたい。
――私は……我儘、だから。

「え?」
 行けども行けども続く白の世界で、それは確かに聞こえた。
「今のは……幻聴?」
  ラミア・マクトゥーム(ka1720)は、立ち止まるとふと今まで歩いてきた道を振り返った。
「……そうよね、いるわけなんか――」
 聞こえた声は、聞き覚えのある――唯一の肉親である姉、ラトゥーヤのもののようだった。
 しかし、振り向いた先に姿があるわけはなく、ラミアはふるふると頭を振ると、進む先へと向き直った。
「……姉、さん?」
 そこには、在るはずのない人が立っていた。
 剣。盾。鎧――。まるで憎悪を具現化したような黒の装備に全身を包まれた、よく見知った顔。
「どうして、こんな所に……やっぱりさっきの声って、姉さんの――」
 長く白一色だった世界に現れた姉の顔に、ラミアは引き寄せられるように近づいていく。
「でもよかった……正直、不安だったの。皆、どこかに行っちゃうし……」
 姉の顔がはっきりと見えた。少し怒っているようにも見えるが、それは間違いなくラトゥーヤである。
 ラミアは安どのため息をつき、さらに近づいていく。
「え……姉さん?」
 しかし、ラミアは足を止めざるを得なかった。
 黒き装備に身を包むラトゥーヤが、ラミアの目の前で黒剣をすらりと抜き放った。
「姉さん……なの? どうして……どうしてそんなに怒ってるの?」
 剣を上段ににじり寄るラトゥーヤに対し、ラミアはゆっくりと後退する。

 怒りを宿し、自分を追い詰めてくる姉の顔。ラミアにはその顔に見覚えがあった。
 いつか自分が大怪我を負った身で更なる戦いに身を投じようとした時に見せた特別な顔。
「……いつも穏やかで優しい姉さん」
 その顔を前にして、なぜかそんな想いが溢れてくる。
「何時だって我慢できるし……我慢をしてしまう人」
 心の奥底に泥のように溜まっていた想いが。
「あたしはそれを心配しながらも……都合よく甘えてきたよね。本当は、あたしの事が邪魔なんじゃないかなって……思ってるんだよ?」
 振り下ろされる黒の剣を最小の動きで避けたラミアは――。
「それでも、あたしは姉さんが大好き! 迷惑だってかまわない! 嫌われたって、怒られたって、絶対あたしは嫌いにならないから!」
 黒く虚ろな姉の瞳を射抜き、拳を握り締める。
「だから見せつけるな! 真似をするな!!」
 目の前の黒い姉が本物でない事をラミアは既に気付いていた。
「あたしの姉さんを――穢すなぁぁ!!!」
 ラミアは大声で叫ぶと、溢れる涙を気にもせず黒いラトゥーヤに向け必殺の一撃を穿った。

●霧の中
 ステラ=ライムライト(ka5122)は、そこに見えた顔に目を疑った。
「水月が、なんで……?」
 いつもと変わらない自然体の姿。それほど高くない身長も相まって、中性的な魅力にあふれた最愛の人。
「もしかして助けに来てくれたの?」
 不安な中、最も信頼できる姿を確認したステラは無警戒に近づいていく。
「あ、もしかして別動隊か何か? 本隊に何かあった時の為の――」
 水月の薄く微笑む唇に、ステラは思わず問いかけた。
「な、なんで笑ってるの? 私の恰好、何か変、かな?」
 問いには答えず、水月は徐に手を伸ばしてくる。
「み、水月……?」
 いつもと違う雰囲気に胸を高鳴らせ、ステラは目をぎゅっと閉じた。
「っ!? く、くるしい……!」
 足は浮き上がり、首輪が食い込む。水月はステラの首に巻かれていた首輪を掴み上げた。
「水月っ……やめ、て!」
 ステラは水月の腕を必死で掴み、助けを求め名前を呼んだ。
 しかし、力は一向に弱まらない。
 息が続かない。気が途切れる――。

(……ここは)
 辺りは灰一色。
(私は確か……)
 ゲームと称する罠に囚われて、それから……。
(そうだ、水月!)
 不安にくれた時、恋人の姿を見つけたのだ。
(で、でも……水月は私に……)
 嬉しさに駆け寄った恋人が、自分の首を締め上げ……殺そうとした。
 意識が沈む。暗い沼の底に足を取られ、ずぶずぶと体が沈んでいく。
(私……死んじゃうの?)
 答える者のない世界に問いかける。もう腹まで飲まれていた。
「(お願い……)水月、助け、て……」
 沈下が顔まで達した時、ステラは無意識のうちにその名を声に出した。
 瞬間、灰の世界が眩い閃光で染められる。ステラを蝕む黒い沼を飲み込んで、世界は光で満たされた。
(な、なにが起こったの……?)
 世界の変遷に呆然とへたり込むステラは、ゆっくりと辺りを見渡した。
(あ、あなたは……!)
 そこには一人の青年が。
『――――』
青年は何事か呟くと、そのまま光の中に消えた。
(い、今なんて言ったの……? ま、待って、水月! 私を置いていかないで!!)
 確かに聞こえた。音の無いこの世界で、それは確かにステラの耳に届いた。

『信じるんだよー。君の中の僕を、ね』

「っ!」
 ギリギリと首輪が悲鳴を上げ、止められた血が行き場を求め、ガンガンと頭を叩く。
「――くぅ、このおぉぉぉ!!!」
 現実世界に覚醒したステラは、朦朧とする意識の中、最後の気力を振り絞って水月の腹を思い切り蹴り上げた。
「はぁはぁ……!」
 下がった血と新鮮な空気に、ステラは大きく肩を上下させる。
「お前は偽物! 水月はここに居る! 許さない……絶対に許さないからっ!!」
 とんと胸を叩いたステラは、腹を押さえ蹲る影に向け刀を引き抜いた。

●霧の先
 霧を抜け、視界に色が蘇る。『ゲーム』を見事に乗り越えた六人の疲労は総じて濃い。
 しかし、本当の戦いはこれからだ。六人はお互いの無事を確認し合うと、すぐさま歩を進める。
 この先にあるコーリアスの兵器基地を潰すため。
 本来の目的を果たすため、その瞳に確固たる決意を宿して――。

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MVP一覧

  • 紅獅子と共に
    ラミア・マクトゥームka1720
  • 月に繋がれし星
    ステラ=ライムライトka5122

重体一覧

参加者一覧

  • 月光の愛し子
    カフカ・ブラックウェル(ka0794
    人間(紅)|16才|男性|魔術師
  • 紅獅子と共に
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 左路を乗り越えし貪心
    シギル・ブラッドリィ(ka4520
    人間(紅)|22才|男性|聖導士
  • 月に繋がれし星
    ステラ=ライムライト(ka5122
    人間(蒼)|16才|女性|舞刀士

  • メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • 左路を乗り越えし銀無垢
    アーシェ(ka6089
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

サポート一覧

  • ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)
  • 葛音 水月(ka1895)

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/02 09:13:46
アイコン 【相談卓】幻影を討て
ステラ=ライムライト(ka5122
人間(リアルブルー)|16才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/09/06 03:23:56