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健康寿命脅かす転倒リスク 

(2016年9月20日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

運動で心身の衰え防止

 足腰の弱った高齢者が転ぶと、骨折で寝たきりになったり、最悪の場合は死に至ったりする。日本転倒予防学会は、健康寿命を脅かす転倒のリスクを減らしてもらおうと、心身が少しずつ弱っていく段階である「フレイル」という概念を普及させ、適切な支援につなげることを目指している。 (稲田雅文)

 「ずいぶん上手になりましたね」

 9月上旬、愛知県大府市の国立長寿医療研究センターで、市内の女性(75)が、理学療法士の指導でバランスを取る筋肉を鍛える訓練を受けていた。リハビリロボットに立って乗り、前後左右に体重移動をすることでテニスやスキーなどのゲームをこなす。

 このロボットは、楽しみながらふくらはぎなど転ばないための筋肉を鍛えることができる。「最初は全然続けられませんでしたが、毎日訓練するうちに、足が疲れにくくなりました」と女性は話す。

 女性は7月中旬、卓球の試合中に転倒し、左脚の付け根を骨折。股関節を人工関節にする手術を受けた。それまで、複数のクラブを掛け持ちして週3、4日はラケットを振る日々。「まさか自分が骨折するとは。衰えを実感しました」

 同センター病院長の原田敦さん(64)は「転倒してはじめて、心身の衰えなどに気付く人が多い。しかし、転倒に至る原因はさまざまです」と指摘する。

 厚生労働省の人口動態統計(2015年)によると、日本人の死因のうち「転倒・転落」は7992人。10年前より1000人以上増加し、減少を続ける交通事故死の5646人を上回る。同省の国民生活基礎調査では、要支援・要介護になった原因のうち、「骨折・転倒」は12%で、4番目の割合を占める。

 転倒予防学会は転倒を社会全体の問題としてとらえようと、医療と介護関係者が14年に発足させた。10月2日に名古屋市で開く学術集会では転倒防止をテーマに専門家らが議論する。

スクワットや「開眼片足立ち」効果

転倒予防に有効な体操

 転倒は、筋肉やバランスの衰えのほかにも、不整脈や視力障害、転びやすくなる薬の服用など、さまざまな原因で起こる。このため、転倒予防のために支援する対象者を絞り込めないのが課題だった。

 フレイルは2年前から使われだした概念で、要介護や生活機能障害、死亡などの危険性が高くなった状態を指す。同センターは▽体重が減った▽力が弱くなった▽倦怠(けんたい)感があり日常動作がおっくうになった▽活動性が低下した▽歩くのが遅くなった▽体重が減少した−のうち、3つ以上当てはまるとフレイルの可能性が高いとしている。

 心身の衰えだけでなく、うつなどの精神的な問題や、閉じこもりといった社会的な問題までを含むため、フレイルの人への対策が転倒予防につながる可能性が高い。

 フレイルや転倒を予防するために有効なのが運動。脚の筋力を付けるスクワットと、バランス能力を鍛える「開眼片足立ち」の簡単にできる2つの体操でも効果的だ=イラスト参照。

 転倒のリスクが高い人に、科学的に組んだ運動プログラムに取り組んでもらったところ、転倒が減少した研究成果も出てきた。

 原田さんは「自宅でできる安全な運動だが、長く続ければ転倒を確実に減らす。ひいては、将来介護が必要になる可能性も減らすことができる」と勧める。

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