第141回 松崎 澄夫 氏 音楽プロデューサー
7. 楽しいものを作られるように心は豊かでいたい
−− 松崎さんのようにアーティストから一部上場会社の社長までの経験って普通はできませんよね。
松崎:そうですね。「アミューズの社長をやれ」と言われたとき、絶対に嫌だったんですが、弁護士から「松崎さん、一部上場会社って日本で3,000社しかなくて、そこの一人なんだから面白いですよ。やってみませんか?」って騙されたんですよ(笑)。上場への流れも理解していましたし、多分一瞬はできるだろうと。
でも、こんなに疲れる仕事はないです。就任して即身体を壊しましたからね。今までそんなことはなかったですから。僕は部下とかをつけずに好きなことをやって結果を出す方が向いているんですよ。それは渡辺音楽出版の頃からそうですね。
−− 現場にいたい、と。
松崎:そう。僕はできれば現場にずっといたいタイプなんです。
−− 酒井さんも全く同じことを仰っていました。
松崎:酒井さんのように、あれだけ色々な物の見方とか発想を今でも持っている人は、やっぱり現場が楽しいと思いますよ。そういう能力をもっと発揮できる場があれば、僕は歌謡曲とか流行歌ってまだまだ出てくると思うんですけど、悲しいかな、もう胸を張ってできる状況ではないんですよね。でも、やり続けなきゃ面白くないから僕もやるんですけどね。もうレコードを出したからって金を取れる時代だとも思っていませんし、それを前提に色々やっているとまた意識が変わってきて、なかなか面白いんですけどね。
木崎さんが「洋服のように1、2年ごとで切り替えるのは、音楽も一緒だ」という話をしていて、そうやって切り替えていくことで自分の感性も時流に近づくんだって言うんです。その話を聞いてから、僕は着るものとか変わっちゃったんですよね。全然履かなかったジーパンも履くようになって、クラブに行ったり、ライブハウスに行ってね。木崎さんはライブハウスへ行っても前の方でしっかり観るんですよね。それが偉いなと思ってね。僕なんかどうも端っこの方にいちゃうんですけど(笑)。でも、自分の好きなバンドを見つけたら、多分前に行くんだろうなって思うんですけどね。
−− 素晴らしい。完全に現役ですね。
松崎:いやいや。もう楽しむしかないんですよ。楽しいものを作って楽しい場所でみんな笑えるのがいいかなって。
−− それは音楽制作マンとして素晴らしい歳のとり方だという気がします。
松崎:アミューズにいられたことですごく良い勉強になったんだと思いますし、運も良かったんだと思います。うちの娘にも「俺は運が良かったんだよ」って言うんですよ。「でも運を引き込めるやつと、運が来ているのに逃しちゃう奴がいるっていうことは、その運を掴める感性を持っているかどうかで、その感性を持っているやつはどこかで努力しているんだよ」と。
僕は最初、本当に音楽のことが分からなくて、高校1年で水谷くんに会ったときに「キーはなんなの?」って聞かれて、その意味が分からなかったんですよ。そこから音楽の勉強を始めたんですが、渡辺音楽出版に入ったときに、今度はスタジオでプロのミュージシャンと譜面で話をしなきゃいけないときに、僕はスコアが次どこに行くか分からなかったんです。それから半年間、毎日レコーディングが終わってからスコアを持って家に帰って、テープを聴きながらスコアの動きを全部確認していましたから。ずっと勉強してきているんですよね。それは今もそうです。
−− 最後になりますが、音楽業界で仕事をしている若い人たちへメッセージを頂きたいのですが。
松崎:今の若い人たちは新しい音楽を作ろうという意欲はすごくありますよね。これからは、昔は絶対通じないと言われた英語圏にも、日本語の歌がどんどん広がっていくでしょうし、ネットなどによって世界共通の音楽やアーティストが日本からも出る時代になると思いますから、失敗を恐れずに新しいことにどんどんチャレンジして欲しいですね。
例えば、BABYMETALなんかヨーロッパ&アメリカツアーも日本語でいいんですものね。お客さんはそれで喜ぶわけですから。僕らが小さいときは、英語が分からなくてもメロディが入っていけば洋楽を覚えたわけで、BABYMETALはその逆とも言えますし、加えて彼女たちは映像で見せることができるのも大きいと思います。彼女たちの世界進出はあの映像があってこそだと思います。アニメもそうですが、ヴィジュアルが重視される時代なんでしょうね。
−− そうなるとプロモーションの仕方から何から変わるのは当たり前ですよね。
松崎:そうですね。どれが正解というのがないから、今の若い人たちは試行錯誤しているわけで、僕はそこに乗っかる音楽を一緒に作れたらいいなと思いますし、今まで蓄積したもので何かアイデアを与えられたら若い人たちとも一緒に仕事ができるかなって思うんですよね。自分が中心になってとかではなくてね。
無から音楽が生まれる楽しさはずっと変わらないと思いますし、その音楽を世の中の人が聞いて、また楽しんでくれたら最高ですよね。そのためには僕自身も楽しく生きられることをやっておかないと、楽しいことは考えられないじゃないですか? やっぱり心は豊かでいたいって思っています。
−− 本日はお忙しい中、ありがとうございました。松崎さんの益々のご活躍をお祈りしております。