私の一枚

日本人初のUSブルーノート契約 ジャズトランペッターが送った学生時代 黒田卓也さん

  • 2016年9月19日

神戸の甲南高校1年生、初めてソロを任された頃。この頃は憧れのトランペッター、フレディ・ハバードの吹き方をまねしていたそう。

写真:ニューヨークを拠点に活動し、そのソウルフルな音色は、世界を震わすサムライ・トランペッター、といわれる黒田卓也さん
Photo by Hiroyuki Seo ニューヨークを拠点に活動し、そのソウルフルな音色は、世界を震わすサムライ・トランペッター、といわれる黒田卓也さん Photo by Hiroyuki Seo

写真:9月2日に発売した黒田さんのニューアルバム『ジグザガー』 9月2日に発売した黒田さんのニューアルバム『ジグザガー』

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 これは、僕が高校1年の時、入っていたジャズのビッグバンドの演奏会でトランペットのソロを吹いている写真です。前に出て吹くソロはとても目立ち、支配力があって、メロディーがばしっと決まったときは本当に気持ちよかったですね。ソロの快感をこの頃覚えました。

 所属していたのは中高一貫校のクラブ。中学生になった当初は、モテたい年頃だったので運動部に入るつもりでしたが、5歳上の兄がビッグバンドの部長をやってまして。音楽室の前を通ったら兄の友人に「どこにいくんや」とつかまり、結局入部させられてしまいました。兄はすごく怖い部長で、他の部員から僕によく苦情がきましたが(笑)、クラブ全体の雰囲気はすごくよかったです。

 楽器の空きの都合でトランペットになったものの、ほかの楽器よりも音を出すのが難しい点もやりがいに思え、バンドの中で存在感のあるこの楽器が大好きになりました。とにかく早くうまくなりたいと常に練習し、修学旅行にも楽器を持って行くほどでしたね。

 現役最後の全国大会では、僕は2分間のソロをもらいましたが、途中1分で音が出なくなってしまったんです。その時、苦し紛れに人生初のアドリブで持ち直し、結果は優勝。やればできると思った体験です。

 その後、大学時代も仲間とビッグバンドを続け、時々地元のジャズクラブで吹かせてもらっていましたが、本格的に勉強する決意をしたのは20歳でアメリカのバークリー音楽院に短期留学した時です。初めてジャズの専門教育を受け、自分にはもっと可能性があるかもしれないと思いました。またその時ニューヨークのジャズクラブに、機会があれば飛び入りしようと楽器持参でいくと、僕より年若いバンドがめちゃめちゃうまかった。その衝撃で、持参していた楽器を思わず隠したほどです。その時、自分は今のままでは終われないと切に思い、23歳から3年間、ニューヨークのニュースクール大学に留学しました。

 ニューヨークとは本当に極端な気分になる場所で、学校でもそうですが、例えばジャズクラブの演奏で観衆にウケた日は、世界チャンピオンになった気がするけど、逆にダメだった日は、世界最低の敗者の気分になる。そんなときに「先生、今日のレッスンで俺を上手にしてくれませんか。この後、演奏で他のプレーヤーや観客を圧倒してやりたいんです」。そう近道を求める僕に、今は亡き恩師、ローリー・フリンク先生はいつも「地道な練習で、タクヤが入学以来どれだけ進歩してきたか。今後もやるべきことは同じよ」と説いて軌道修正してくれ、僕は地に足のついた練習ができました。

 卒業数年後、僕が世界的に有名なプレーヤーのバンドに抜擢(ばってき)され、自分の未熟さを知って先生を頼ったときもそう。先生はわかったといって、在学中と同じプログラムをまた出し、「技術だけを高めたいなら、それ相応のプログラムも組める。でも、覚えておきなさい。技術が高ければいい音楽家かというと、そうではないのよ」と。芸術はオリンピックのように技で勝ち負けを競うものではない。そう教えられた僕は、より深く自分と、目指す音楽を見つめるようになりました。現在はニューヨークを拠点に活動していますが、この写真のころの、ひたすらうまくなりたかった自分と同じ。今も自分の行きたい場所や目指す音楽に向かって懸命にやっています。

    ◇

くろだ・たくや 1980年兵庫県生まれ。16歳から神戸や大阪のジャズクラブでの演奏活動をスタート。2003年に渡米し、ニューヨークのニュースクール大学ジャズ科に進学。在学中からニューヨークの有名ジャズクラブに出演。卒業後もニューヨークのブルックリンを拠点に国内外で、さまざまなジャンルで活動。日本では「報道ステーション」の新テーマ曲を手掛けたことでも注目される。

◆2014年、USブルーノート初の日本人アーティストとして、ホセ・ジェイムズ・プロデュースによるアルバム『ライジング・サン』で華々しいデビューを飾ったジャズ・トランペッターの黒田さん。彼のセカンドアルバム『ジグザガー』が9月2日に発売された。今回、レーベルをアメリカ西海岸のコンコードに移した2年半ぶりのアルバムはセルフ・プロデュースにより自身のレギュラー・バンドのメンバーと一年半かけて作り上げた、大胆で躍動的なリズム・アプローチと多彩なサウンド・メイキングが満載の11曲。

ユニバーサル ミュージックより2500円(税別)にて発売

「今回は熱いエネルギー満載で植物が太陽にむかって開いていくようなアルバムを作りたかった。タイトルのジグザガーは、自分の歩みにもなぞっており、たとえば前回、日本人初、USブルーノートからアルバムをリリースしたことで、とても注目していただき、自分でも最高の気分でしたが、その後、なかなか次作が出せず、その間、アーティストとしての仕事に影響が出たりと一筋縄ではいかな辛苦もあった。ですが今回レーベルを変え、セルフ・プロデュースしたアルバムを出せ、今回こそ自分の渾身(こんしん)の作品ができたと思っています。情熱的な曲、ぐっとくる曲、セクシーな曲などいろいろ入っていますので楽しんでください」

(聞き手:田中亜紀子)

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