「んっ………」 肌に触れるひんやりした風が、彼女の意識を取り戻させる。 (さむい………ここは?) うっすら目を開けてみると何も見えない。 そこは光を感じさせない完全なる闇の中、手に触れるザラザラとした砂の感触やわずかに鼻を刺激するカビの匂い、そして肌に感じる独特の冷たい空気からそこが洞窟、または洞穴の中だと感じ取ることができる。 (わたし、なんでこんなところに………) 指先に触れるひんやりした土の質感から何も履いていないことに気付く。 もしやと思い腰回りにも触れてみたが、肌の感触から普通の下着と、視認できないがサラサラした布と太ももに直に触れる空気の軽さ、腰回りの質感から、短いがスカートを穿いている事が確認できた。 胸のすぅすぅした感じからブラなど何も着ておらず、上に一枚、羽織るように何か、前に止めるボタンがあり、肌に触れるとひんやり冷たくツルツルした生地からビニールコートに近いものを着用しているとわかった。 (良かった。何も着てないわけじゃない、でもなんで、こんな格好……) 自分が何故、どうしてこのような場所にこんな姿で横たわっていたのか、いくら思い出そうとしても何も浮かばない。 周囲を見渡すも、あまりの暗さで視界に何も入ってこない。 すこしずつ不安がつのっていく。 (落ち着けわたし…………何故、わたしはここにいる?) ふたたびこの疑問に戻る。 どうして自分はここにいるのか。 そもそもここは何処なのか。 それすらもわからない。 (思い出せわたし。わたしは何をしていた) 目を閉じて、覚えている記憶を辿りだした。 (わたしは誰……由里(ゆり)だ。いくつ? 21。家族と暮らしている。家族は何人? 3人。普段は何をしている。仕事だ、今年で5年になる。何の仕事だ、それは___っ!) 思わず頭に手をかける。 ふいに頭を突き抜けるような痛みと強烈な吐き気が襲った。 (どうしたわたし、嫌な仕事か、嫌じゃない。思い出したくないか? 違う。どんな仕事だ、わからない。何故そんな仕事をしていた。仕方なかった、何故仕方ない? わからない、でも必要だった、何故必要だ、大事な人のため、それは誰だ? それは………………わからない) 大切な人、それはわかるのに、それが誰かわからない。 (何故わからない? それもわからない。それは夫か? 違う。恋人か? 違う。では家族か? 違う。 ではなんだ? 違う。 何が違う? それは家族だ家族じゃない。どっちだ、大事だ、でも家族じゃない、いや家族だ。大事な家族だ!) ユリは混乱し始めていた。 ユリにとっての大事な人、それは家族だけど家族ではない存在。いや、それすら適切ではないのかもしれない。大事、とても大切な存在、家族であり、家族以上を求めた相手。 (落ち着けわたし、何故思い出せない、大事な人なのに何故? わからない。どんな人?優しい人だ、おっちょこちょいで不器用で、一生懸命で、いつも一緒だった。いつもわたしを助けようとして、わたしの仕事を仕方ないからと認めつつ、心の底では嫌っていた。でもわたしのことが大好きで、わたしの黒くて長い髪を綺麗だと言ってくれて、わたしもその人が大事で、いつもわたしのことをユリおねえさんって……) ユリは気づいた。 大事な人はわたしをお姉さんと呼んでいた。 (なぜお姉さん、家族だから。そうだ、それは弟だ(ちがう)) ユリは悩んだ、何故忘れていたのだろう、何故弟が大事なのか? 次々に浮かぶ疑問に更に思考の渦に飲み込まれていく。 (落ち着けわたし。何故大事だった。わからない、でも大切だ。どれくらい大事だ。わからない、でも大事で大切だ。今も愛しい、顔も形も思い出せないのに、こんなに切なくなる、そうだ、わたしはその人を愛していたのだ) 自然と胸に両手を合わせていた。 大事な、大切な弟、それを想うだけでこんなにも気持ちが穏やかになる、でもそれがどんな姿をしてどんな声なのか、どうして思い出せないのか、またそれを思い出すまでにこれだけかかった自分が非常に歯がゆい、そんな自分の気持ちを確かめると同時に、ユリは心の中で決心した。 (大丈夫だわたし。まだ大事な人がいる。でも思い出せない。それでいい、頭をうったのかもしれない、ここを出よう。出て会うんだ、思い出すんだ弟の、大事な人の顔を、その声を、そのためにもここから出なきゃ、帰ろう。わたし) そう、強く心の中で誓うと、手を強く握り、ユリは目をあけた。 (よし、まず状況を整理しないと、ここは何処だ、どんな場所だ……、動けるか、わたし) どこか怪我してないか気を遣いながら慎重に立ち上がってみるが、身体に違和感は覚えない。試しに膝を曲げたり、足をあげたりしてみたが、問題なく動けそうだ。 (よし、大丈夫、歩ける。上は、まだまだありそうね) 空気の感触からして天井ははるか上、思い切ってジャンプして手を思い切り伸ばしてみたが、やはり何も触れなかった。 きっとここは暗い暗い穴の奥、素足に触れるひんやりした土の感触は、なんともいえない気持ち悪さがあった。 本来、このような場所で下手に行動するのは危険だ。 もし何かあれば……、しかしそういう不安以上に、一刻もはやくこの場所を離れたいという願望が強くなっていた。 ユリは周囲に手をかざし慎重に歩きだす。 冷たい土が素足に触れる、されど手には何も触れず、むなしく空を切るばかりだ。 この空間はどれほどの広さがあるのだろうか。 でもめげずに、ひたすら歩く、それしか道はない。 じっとしていても誰も助けてくれない、こうして歩いていれば、きっと何か見つかる。 そう信じて数メートルほど歩くと、手に冷たいものが触れた。 (何?) 表面は冷たくひんやりしていて、撫でるようにふれていくと、わずかに気持ち悪いものが手に触れる。おそらくカビや苔の類だろう。 慎重に触れていき、これは鉄製の扉のようなものだとわかった。 しかも縦長の取っ手らしきものがついている。 コンコンコン。 軽く叩いてみる、その先に空間があることは予想できたが、誰かの反応などはなかった。 (誰もいない? 開けると危険、でも道がない、行くしかない、ずっとここにいる? 嫌。先に進もう、きっと何かある) ユリは意を決し、取っ手に手をかけた。 そして慎重に、しかし力強く最初に左、動かないと知ると今度は右に引っ張った。 ゴゴゴゴゴ。 扉の開く音がする。 不安だったがそこまで錆びているわけでもないようだ。 その先を覗いてみると、わずかに光はあるようで、うっすらと見えるその形を視界に移すことができた。 うっすらとだが、ところどころ岩のでっぱった洞穴のような道が続いている。 (進もう) 慎重に足を進める。 足にはごつごつとした加工されていない岩の感触が伝わってきて、それがちくちくと刺さり痛い。 でも歩みを止めるわけにいかない。 そう思い確実に、慎重に一歩一歩歩みを進める。 ぴとっ。 「きゃっ……」 一瞬、全身をゾクッとした悪寒が走った。 足に触れた液体の冷たくヌルっとした感触に思わず背中がこごえる。 それは何か汚い液体、腐敗した物か、それとも虫の屍骸などか、いずれにしろおぞましい感触をしていて、それから凄まじい嫌悪感に襲われた。 それは、ただひたすらに気持ち悪い。 べとべとと足にまとわりつき、触れた部分だけ別の生き物になったような違和感、あるいは恐怖を感じていた。 (早く抜けよう) だが、進めば進むほどにそのいやな液体の箇所は増えていく。 道幅も狭くなり、岩のごつごつと張り出している壁に服が触れ、破けたり、あるいは肌に怪我したり、汚れてきていたのだが、全身をすり抜けるひんやりとした空気と、身を震わせる冷気、何よりこの空間への恐怖心からか、あるいはそれらを意識しないためか、それらに目もくれず、一心に前へ前へと足を進めていた。 (まだなの……) 洞窟内の閉鎖的空間、少ない空気にその異様な環境に責められ、彼女の心は徐々に蝕まれていった。 (出口、出口……) べちゃっ、べちゃっ。 足に絡みついて離れない、腐ったような液体。 (はやく、はやく___) ……。 ……そして、どれほど歩いただろう。 ユリは足に纏わりついていた液体が消えていることにも気付かず、一心不乱に歩き続けていた。 両足は傷だらけで、着ていたコートのようなものもあちこち岩肌に触れ、破けていた。 そればかりでなく、破けた部分から露出していた肌もまたこすれ、軽い傷を作っている。 (見えた) やっと、ユリの視界に真新しい風景が飛び込んでくる。 それは、木造の古ぼけた戸のようなものだった。 取っ手を握り、一度深呼吸する。 (落ち着けわたし。この先に何があるかわからない、まだ道が続いているかもしれない。何がおきても、何が待っていても、落ち込むな) そう、心に何度も誓うと、ゆっくりと戸を開いた。 キィイ。 風を切るような軽い音とともに扉が開く。 開いたその先に見えたのは、薄暗い部屋だった。 奥は薄暗くて見えないが、床は正方形のタイルで敷き詰めてあり、今までに比べれば歩きやすそうだ。 (……………め) (???) (いっちゃだめ!) ふと頭の中を聞きなれた声が走った。 (なに?) その声の静止も空しく、ユリはその部屋に足を踏み入れた。すると___。 バタンッ!! 戸が強烈な音と共に閉まった。 (な、なに?) 恐る恐る薄暗い部屋の中を見ると、何も置いてなく、だが、その部屋からは言い知れぬ恐怖と背中をなぞるような冷たい空気を感じた。 (な、なにここ、なんか、その、気持ち悪い……) はやくこんなところでたい。 そう思ったのだが、先ほど入ってきた扉は固く閉ざされ、ぴくりとも動かない。 (やだ、どうして) 不安、恐怖、焦り、苛立ち、寒気、不快感、胸の痛み、彼女の心はもう限界に近付いていた。そして___。 カチッ。 (きゃっ、まぶっ) 突然、部屋の明かりがついた。 あまりの眩しさに思わず手で遮り、目をつぶった。 そして恐る恐る目をあけると、これまた正方形の白いタイルをしきつめた天井に、一つのライトが視界に飛び込んできた。 (明かり? そうだこの部屋はいったい…………やだ……なにこれ!) 改めて部屋の中を眺め、そこにあるものに目を奪われ、思わず言葉を失う。 扉は木製のものが正面と後ろに一つずつ、部屋自体は四方に5メートルくらいだろうか、何も置いてないのだが、驚愕したのは四方を取り巻く白い壁には、大小様々な写真が大量に貼り付けてあり、全てユリの姿が納められていた。 「やだっ! なに! なに!」 写真の一枚一枚にはユリが満面の笑顔や妖しい笑みを浮かべながら様々な趣向・状況・服・行為を行っている姿が収められている。 それを一つ見るごとに、ユリの顔から少しずつ血の気が引いていく。 (なにこれ……わたし、こんなことしてない……) それは裸に満面の笑みでピースサインする姿、自らの手で大きく股を広げている姿、見知らぬ男達に全身を犯されている姿、M字に足を開かれて股間もむき出し、更に様々な隠語を素肌にペイントされている姿、胸もアソコも丸見えのボンテージを着ている姿、目隠しにお尻も胸もアソコも全てバイブやローターが当てられている姿、四つん這いの格好に首輪をつけられ、お尻に尻尾をつけている姿、ロープで両手両足を縛られ吊るされている姿、全身を舐められている姿、おしっこしながら両手でピースしている姿、etc……、どれも、身に覚えのないものだった。 (なに、なに……え___) 目についた写真には、ユリが無数の見たこともない植物のようなもののツタみたいなもので、全身を犯されている姿が納められていた。 (これ、なに……) 身に覚えどころか、非現実的な生き物の写真、更に見ていくと他にも、ペニスが生えている姿、巨大な虫や悪魔のような顔立ちをした魔物と戯れている姿などもあった。 (なにこれ、こんな、知らない……これ……あ) その先にあった写真には、処女喪失祝い、妊娠祝い、出産祝い、などなど、無数のお祝いと書かれた姿が収められている、特に出産祝いと書かれた写真のユリは、前と後ろに男根をねじこまれ、それだけでも嫌なのだが、その手には到底人とは思えぬおぞましい姿をした生き物を抱いていた。 (そんな……わたし、これ産んだの?) あまりの事実に驚愕してしまったユリは呆然としながら他の写真にも目をやった、すると、ふたなりになったもう一人のわたしに侵されている写真が目に入った。 (あ……、そうだ、きっとこいつよ、これ全部、こいつの写真、だから何も覚えてない、そうよ、全部こいつの仕業だわ) そう自分に何度も言い聞かせ、納得しようとした。 「それは違うよ」 ふと、奥の扉の方から耳障りな声がした。 「それは全部、君が喜んでやっていたことだよ」 それは扉を開け、ユリの前にその姿を現した。 「だれ?」 それは、パンツ一丁で小太りした中年のおじさんで、全身毛だらけでぐしゃぐしゃ、誰であろうと眼を背けたくなるような男だった。 「わたしは、きみのご主人様だよ」 おじさんは下衆た笑みでそう言った。 「うそ、わたしはアナタなんか知らない」 「それはそうだよ、だって忘れているのだからねぇ」 「うそ! だいたいここは何処! この写真は何なの!」 「ここは僕と君のお部屋、その写真は全部記念に撮ったものだよお」 男が舌舐めずりするように笑いながら話す、ユリはその姿に思わず身震いしてしまう。 「よしよし、じゃあ早速、思い出させてあげよう」 「何を言って、だいたいわたしは___っ!」 頭に電撃のような痛みが駆け抜ける、それはユリの脳に容赦なく入ってきて、侵食しているような感じだ。 「さあ、もう一度写真を見てごらん、思い出すんじゃないかなあ」 痛みが消え、男の言うとおり写真をもう一度眺めてみる。 (………あ、そうだわたしはこれをやった、魔物にセックスをおねだりして、写真を撮ってもらったり、処女を散らしてと懇願していたり……やだ、これも、あれも、全部わたしがして欲しくて、お願いして、ねだって、喜んでやっていた……違う。全部わたしの望みだったから、要求してない、全部わたしがして欲しいことを叶えて貰っていた……、でもなんで、なんで) あまりの事態に思わず絶句してしまった。 全て自分が行ったこと、それは覚えている、でも何故、それを望んでいたのか、何故それを喜々として行っていたのか、ユリにとって、どれも心の底から否定したくなるほどの事実であった。 「おやあ、よく見るとそんなやらしい格好して、そんなに我慢できなかったのかな」 「え……っ……!!」 思わず身体を手で隠す。 男に言われ自分の姿を見ると全身傷だらけでごつごつした岩肌を歩いてきたので足はぼろぼろ、短い赤のスカートはところどころ切れていて、その隙間からその白い下着を覗かせている。 「ふふふ、さぞ辛かったのだろうねぇ」 上に着ていたのは実は紺のコートのようなもので、あちこちに穴が空いていた。 更にその穴からふくよかな胸の部分が露わになり、ピンク色の乳首が露出していた。 「こんなことして、何が目的なの?」 ユリは怒鳴るような声で、その小太りな男に問い詰めた。 「君とのゲームだよ、ほら思い出して」 そう言われて、ユリはこの空間に連れてこられた時を思い出した。 (ゲーム……、そうだわたしは赤髪の男に突然この空間に放り込まれて、その時約束した、毎回ゲームをして、勝ったらここから脱出できる、でもかわりに、負けたら相手の好きにさせるって、その為に暗示をかけるって言われた) 「どうやら、思い出してもらえたようだねぇ」 男が卑屈な笑みを浮かべてユリを眺めた。 「ゲームって何? わたしが何したの?」 「簡単だよぉ、記憶を消してこの中を彷徨わせる。もし狂乱が忘れられずこの部屋に戻ってきたら君の負け、運よく出口を見つけ出せたら君の勝ちさ。そして、君は自ら進んで、ここへ来た」 つまりユリはゲームに負けたのだ。 この部屋に入るとき聞こえた(入っちゃダメ)という聞きなれた声、それは彼女の潜在意識が発した魂の叫びだったのだ。 「負けたのだから、わかるよね」 毛むくじゃらで小太りの男は、ニヤニヤと笑みを浮かべながらユリに近付きはじめた。 「ひっ、やだ、こないで!」 思わず後ずさるも、後ろの扉は開かず、どこにも逃げ場は無かった。 「安心してぇ、キミから懇願したくなるようにしてあげるからぁ」 「やだ、違う、そんなことにはならない」 「ほんとだよぉ、負けた時点でキミはもう操り人形なのさ」 (落ち着けわたし! こんなことに負けちゃダメ!) 「よおし、早速行こうか、まずはぁ、上を脱いで挨拶と行こうかぁ」 「えっ……はい、ありがとう、ございますぅ」 男の声に反応して、突如ユリはスイッチが入ったかのように豹変した。 顔を赤く染め、息を切らして妖しい笑みを浮かべだした。 そして上に羽織っているコートを無造作に脱ぎ棄てると、両手でその豊満な胸を揉みしだき、乳首をつねったり、撫でまわしたりし始めた。 「ユリはぁ、淫乱で……こうやって弄ってないとお……おかしくなっちゃうっ……メス……でぇ……だからぁ……ユリでいっぱい……いっぱあい……遊んでくださあい」 ユリの変わりように小太りの男は満足げな表情を浮かべる。 「ぐふふふ、一度といてやろう」 「ねぇ、おねがあい……ユリのお……えっ! イヤッ!」 ユリは突然正気に取り戻し、思わず胸を隠した。 (何今の……あれがわたし?) 予想外の事態でなにが起きたかわからず、混乱している。 「よおし、もう一度、別の挨拶だ」 「な、な、な何を言って!………はい、ごしゅじんさま」 男の声でユリは、今度は涎を垂らし惚けた表情になった。 その顔からは生気を感じられず、まるで何かにとりつかれたような表情を作っていた。 そして、今度は男の眼の前で下着を膝のあたりまで下ろし、スカートをぴらりとめくり上げ、大量の蜜が溢れでている秘所が露わにした。 「さあ、挨拶をしてみろ」 「はい……ユリはあなたのメス奴隷です……あなたが望めばどんな場所でも喜んでザーメンを飲みます……ふあ……今もあなたに見られてこんなに感じています……どうかわたしを使って……ください」 ユリの変貌ぶりに、男は笑いを必死にこらえながら言葉を発した。 「よく覚えていたな、もう一回、戻してやろう」 「え………なにっ?」 ユリの涎を垂らして呆けていた顔は一瞬で恐怖と絶望に歪んだ顔になり、ユリはその場にしゃがみこんだ。 「もう一回、別の挨拶だ」 その態度に満足げに笑うと、小太りの男は、また別の挨拶を要求した。 「やだ……やだ! やっ………ねえ、エッチしよ」 必死の抵抗も空しく、今度は普通に笑いかけるような表情になる。 「ユリをオモチャにして遊んでくれるの、アナタだけなんだもん」 そういってスカートに手をかけると、スカートは無造作に落ちた。 「ねえ、今すっごくエッチしたい気分なの」 そう言って自分の大切な場所を大きく広げ、自分で自分の秘所に指を入れて弄りだした。 「ほらぁ、わたしのおま〇こもすっかり濡れて……いつでも準備万端なんだから」 「くっくっくっく」 「お尻でもお口でも、好きなように使っていいんだよ。血が出るくらい酷いことでも、オシッコだって飲んであげる、もっと、もっとすごいことだっていいよ」 「ふっふっふっ……ひゃあっははははは!」 男は笑いが止まらないのだが、ユリは何故笑うのか理解できていない。 「ねえ、聞いているの? ユリでいっぱい遊んでよお、ぜったいに捨てないでよお♪」 「よし、もう一度戻れ! わぁはははは!」 思わず大笑いする小太りの男。 「ねえ、どうし……やっ、やだ……」 ユリは今起きた出来事が信じられず、呆然とその場に立ち尽くしている。 顔からは失意と絶望が見て取れ眼尻から涙が溢れ出していた。 「全部覚えていてくれて嬉しいよ。さあて、ほんばんといこうか」 そう言うと男はじりじりとユリに近づいた。 「やだ、やだやだやだ! 助けて! 誰か助けて!」 ユリの顔は恐怖と絶望で完全に引きつっていて、その目から涙が止まらない。 「そうだなあ、おじさんは優しいから今回は特別に、助けてあげてもいいなあ」 「ほ、ほんと?」 ふいに男が発した言葉に一瞬安堵感を覚えたユリ、しかし___。 「いちいち抵抗されるのも飽きたから、ユリという存在を、殺そうか」 その言葉がユリを更なる絶望の渦に突き落とす。 「安心して、昔の自分は死んでしまっても、これからは今みたいに苦しまなくてすむんだから、今までの自分がいなくなってしまうけど、新しい自分は素敵だよ、いつもどんなことでも、心の底から楽しめるようになるからね」 「やだやだ! やめて! それだけはやめて! お願い、なんでもするから!」 「いいよおそんなこと、だってもう、なんでも、してもらっているからね」 そういって、邪悪な笑みをユリに見せ付けた。 「いや……助けて……お願い誰か! 誰か助けて! 助けてか___」 必死に助けを求める願い虚しく、心は男に支配され、ユリは無造作に地面に沈んだ。 ………。 「大丈夫だよ、まだ心は殺さない」 小太りの男は、そう生気を感じないユリの顔に語りかけた。 「だってそんなことしたら、楽しめないだろう?」 ……。 「ああっ! はああっ! ふああっ!」 一つの部屋の中、繋がり快楽を貪る二つの影があった。 一人は小太り、身体中の毛をだらしなく伸ばした男、そしてもう一人は、ユリ。 「アッ! はアアアアッ……ああっ……気持ち良い……きもちいいよおっ!」 「ユリ、ずっとこれが欲しかったの、目が覚めてからずっとゴシゴシドピュドピュされることばかり考えていたのっ、だからもっとズボズボして、もっと喜ばせてっ♪」 ズブッ! ズチュッ! 「ほんとにさいこうだ。ユリは最高の肉奴隷だ!」 「あはっ♪ わたしもおじさんのおチンポ最高ぉ!」 そこには、先ほどまでの彼女の少しも面影は感じられない、ひたすらに快楽を貪りあっている、一人の女の姿があった。 「ふあっ、ああっ、あれ?」 ふとユリが目を向けた先、壁の隅に無造作に横たわっている干からびたミイラのような物体が視界に入ってきた。 「あれえ、どうしたのかな」 「あっ! あはあっ! あああ! あれ、なんだっけ?」 ふいに、小太りの男にミイラの事を尋ねた。 「あれえ、わすれたの?【君の弟】だよ」 「ふえっ! はあっ……はあっ……弟?」 「そうだよ、ほらあ、前にユリが自分で殺したじゃない、覚えてないの?」 ずちゃっずちゃっずちゃ。 「ふぁっ! はっ……はっ! そう、ころした、ころしたあ!」 思い出すとまたユリは満面の笑みを浮かべだした。 「覚えてる、覚えてるよ♪ わたしが襲って、強引にセックスして、そのままぎゅーって首しめて、もうダメってところになって……どうしたんだっけ?」 「ほらあ、力ずくで引き裂いたんじゃない、胸をさ」 「そう! そうなの! 胸を裂いて、心臓をぎゅうって握りつぶして、凄いどくどくいってて、あはっ! そう、わたしが殺し、殺したの♪ あははははっ♪」 完全に思い出すとまた笑いだす。しかし、その目からは、静かに雫が零れだしていた。 「あはっ! あははっ! あっ、あれ……わたし、えっとお……」 ふと、何かあった気がするのだが、思い出せない。 ずちゅずちゅずちゅ! 「ユリ! イクぞ! 濃い精液を、たっぷり子宮の奥にかけてやる!」 「ああっ! 出して! ユリの中に、射精してっ!」 「くっ……くうう!」 ドピュッ! ドプププッ! ドクドクッ! ユリの秘所から引き抜くと、大量の白濁とした液体がこぽこぽと溢れ出した。 「はあ、はあ、これで七回目だよ、いくらだしても飽きないな」 「ふああ……わたしもおじさんとのセックス! 全然あきないよ」 「おや、ふふ、気持ちよすぎて涙がでてきたかい」 小太りの男も、ユリの頬をつたう雫に気づいた。 しかし、二人共何故泣いているのか、本当の理由には気づけないでいた。 「ねえねえおじさん、それより、もっと、ユリにちょうだい、アソコもお尻もお口も、何処でも好きに使っていいから」 「そうだなあ、なら次はアナルでやろうか」 「わあっ! はやくして、ねえねえはやく!」 ユリはキラキラ目を輝かせて男にねだる。 「さあ、いくぞ!」 そう言うと、男はユリのお尻に肉棒をつきたてた。 ___。 そして、どれほどの時間が過ぎただろう。 ギイッと扉の開く音がする。 扉の先には、全長50センチくらいで顔を白く塗り、赤と白のしましまの帽子を被ったピエロのような風貌の男が床に座り込み待機していた。 「終わった、後始末しといてくれ」 「わかったんだなあ」 ピエロ風な男はトリッキーな声で返事をするとすっと浮かび上がり、男が入ってきた扉をすり抜け、隣の部屋に移った。 そこでピエロが目にしたのは、全身精液でどろどろに汚れ、穴という穴から精を噴出し、舌をだらしなく垂らして、目に力は感じられず一点をじっと見つめ、精液まみれの口でしきりにぶつぶつと何か呟いているユリの姿だった。 「あちゃあ、これまた酷い姿に、まあた腸が裂けているでないの、腕も変な方向に曲がっちゃってえ、それに全身酷い傷だらけでまあまあ、ほんに荒っぽいんだからあの人は、ちょっと待っててなあ」 そうユリに声をかけると、手をユリにかざし、何かを呟き始めた。 すると、みるみるうちに、ユリの全身の傷が治っていき、腕や足なども元通り、傷一つないすべすべな肌になった。 「これでよしっと、辛かっただろうなあ、とりあえず奥に連れていってやるから」 そう言うと、ユリの身体を持ち運べるくらいの大きさまで小さくして、肩に乗せた。 「ん、あやあ、謝ってたのか」 そのとき、ピエロ風の男はユリが口から発している言葉が聞こえ、理解できた。 それは小さく、耳をすまさないとわからないような声だったが、空気をつたい、ピエロの耳に響いた。 「ごめん、ごめんなさいごめんなさいごめんごめんね、ごめんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんごめんねごめんごめんねごめんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ___」 ユリの悲惨な姿に同情してしまうピエロ、しかしそれはどうしようもないことだからとしぶしぶ自分を納得させ運ぶしかない。 (こんなになってほんにかわいそうに、でもご主人様との契約だし仕方ないのだなあ) ここはあらゆる夢がかなう理想郷(ユートピア)一縷の夢や希望を追い求め、彷徨うもので溢れている。 そのなかは、訪れた者か楽園の管理者の意のままに作り変えることができる。 通常の世界と時間の流れが違い、そこの住人は来訪者のどんな希望も叶えてくれる夢のような場所だ。訪れた者たちは、己のあらゆる夢や欲望を楽園の住人にぶつけることができる。しかし、人の夢に限りは無いもので、一度ぶつければ最期、そのあらゆる夢を住人達で永遠に叶え続けるのである。 (にしもご主人様も酷い契約をさせたなあ、あんな男の相手をさせられて、いっつもぼろぼろなんだもんなあ) 住人は皆、管理者によって産み出されたか、何処からともなく突然連れてこられた者ばかりで、外の記憶を強引に奪われる。そして、管理者に絶対服従の暗示をかけられ、契約を強制的にかわさせる。その内容は人によって様々で、一度契約が施されれば、脳と身体はその契約通り、絶対に動くよう支配される。 「安心しろ、これがずっと続くわけでねえ、いつかは終わりが来る」 ユリが交わした契約は次のものだ。 【この空間を彷徨い続ける事、もし誰かに出会ったらその相手が念じたあらゆる夢や願いの虜になり、20年経つか、無事に出口を見つけることができれば開放される】 例えば男が淫乱体質を望めば淫乱になり、母乳を望めば母乳体系になる。 ユリの処女も散らされたのは一度や二度ではない。 「大丈夫だ、ご主人様から聞いているだ、おまえの契約はあと【19年と11ヶ月23日と53秒】だと、それまでの辛抱だ」 少しでも安心させようと、ユリに語りかける。 「もうひとつ教えてやる、あのミイラは弟でねえ、何処からか適当に拾ってきた男を弟って信じ込ませただけだ、あの男も死んでねえ、弟だって元気に生きてる、安心しろ」 精一杯の優しい言葉をユリに語りかける。 (何も出来ないけど、せめて大切な思い出だけは守ってやるから安心しろ、何があっても大事な弟の記憶は忘れられないようにしてやるから……でも殺したと思っているのなら、そっちのほうが残酷かなあ……) ピエロは悩んだ、いっそ忘れさせた方が良いのではないかと。 その方が彼女の絶望を和らげることができるのではないかと。 (そもそもこの記憶、ほんとに弟だったのか怪しんだなあ、もしかして全く違う相手だったのかもしれねえ) 歩きながら色々な事が脳裏をよぎるが、少し考えて。 (いけねえ、たとえ相手が違っていても【大事な人の思い出がこの娘の大切な夢と希望】なんだ、どんなに苦しくても、こればっかりは残しとかないといけねえ) そう思い、ある一室に入ると、彼女を白いベッドの上に置き、元の大きさに戻した。 「頑張れ、出口はおまえさんが目覚めた場所から上に5000m壁を登った先にある。人間が登れるものでねえ、おまえさんは、ひたすら契約が切れるのを待つしかねんだ」 そういうと、ユリに手をかざす、すると次第にユリを汚していた精液や色々な白濁した液体は取り除かれ、ユリは目を閉じ、すぅっと安らかに眠りだした。 「安心しろ【絶望するような記憶は全部ロックかけてある】、あんな男の相手でなかったらほんとは思い出せねえんだ。何かきっかけがねえと戻らねえ、忘れる心配もねえ【ここをでれたとき解除する】から安心しろ【何一つ忘れちゃいねえ】から、ここであったことも、外でのことも【全部思い出させてやる】」 ユリは何か悪い夢でも見ているのか、それとも先程の出来事が思い起こさせるのか、軽くうなされていた。 「怖かったか、痛かったか、辛かったろう、苦しかっただろうに、安心しろ、すべてが終わるまでの辛抱だ。よおし、まじないをかけてやる、せめて夢の中だけでも、いい夢をみな」 そうユリに語りかけながら手をかざしている。 そしてユリの苦しそうな表情が穏やかに変わり、静かな寝息をたてだすと、ピエロ風の男はその場を後にした。 「どんな夢かなあ、綺麗な寝顔して、大事な人がでてくる、た〜のしい夢だといいなあ」 そこは、住人にとって『夢しか希望のない理想の楽園』 < おわり >
|