2008-09-20
■[水産]「漁業と漁協」誌に載る「TAC真理教」とは
佐藤力成(2008)「漁協再生のために(第1回)漁業を取り巻く環境と漁協の役割」漁業と漁協4月号24-31
佐藤さんのこの文書、第1回だけしか拝見していませんが、TAC【漁獲可能量】は嫌われているのですね。
私は彼の言う「TAC真理教徒」です。TACがすべてとは言いませんが、TACを無視してよいという意見には全く賛成できません。こういう意見と表現が漁協から出てくるから、高木委員会のような意見も出てくるのでしょうね。一つ説明が必要です。
もちろん、TACなどで半端に獲り続けるより、禁漁のほうがよいと漁業者自身がいうのでしたら、私は大歓迎です。それが受け入れられる社会なら、私もTAC真理教を捨てましょう。環境団体にとって禁漁させたい魚種はたくさんありますから。日本海のマイワシでABC【生物学的許容漁獲量】を「0」にしたときの猛反発はなんだったのか。
「現在、瀬戸内海サワラ、日本海ズワイガニ、太平洋マサバの資源は増加した。」とあります。かつてABCを守らないで資源回復の芽を摘んでいたのはマサバ漁業そのものではないでしょうか?(図)
1997年にはABC(非公表だが<<TAC)どころかTACより多く漁獲しました。他の年はおおむねABCと同程度です(1歳魚以下が主体なのが別の問題)。水産総研の資源評価には、「マサバでも1992年級と1996年級を適切に管理していたならば、資源は回復していたと考えられている。」「加入量当たり漁獲量の観点からは、漁獲開始年齢を1歳へ引き上げる必要があり、さらに魚価や繁殖への貢献を考慮すると3歳が望ましい」http://abchan.job.affrc.go.jp/digests18/html/1805.htmlと書かれていました(なんと、今年からこれらの表現が抜けている)。
大体の年にTACを守っていれば良いというものではありません。卓越年級が出てきたときに過剰に獲るのが最大の問題です。
また、ほかの年にTACが必要なかったとか、ABCより過剰に漁獲してよいかといえば、これも的外れです。親が少なければ卓越年級は生まれない。毎年の加入量(あるいは卓越年級の頻度)を70年代と比較すれば、このことは明らかです(図)。添付のマイワシのTACと漁獲量を見れば、よりはっきりするでしょう。ABCを超えて獲り続けて、どんどん(資源が)減っていた。加入量は大きく自然に変動するが、それでも、親が少ないときには卓越年級は発生しづらいのです。
卓越年級の年もそうでない年もまぜて、大体の年はTAC(ABC)を超えていないといっても、それで資源管理できているとはいえないし、それでうまくいかないことをTAC制度のせいにするのは筋違いです。
マサバの資源管理の必要性はは1992年と1996年のマサバ太平洋系群の卓越年級を過剰に漁獲したことの失敗を数字で示したことで*1、やっと、まき網の漁業者も認めだしたことだと思っています(それはたいへんよいことです)。しかし、彼らはまだマイワシの資源管理の必要性は認めていない。その理由がわかりかけてきました。TACを守らなかったせいとは思っていないということですね。
TACをないがしろにすることは、資源管理にとって逆効果です。TACにも問題点は多いが、それを口実にTACを無視しろという主張のほうがさらに問題です。
さて、上記資源評価最新版を見ると、「今後も親魚量の回復を目指す。2005、2006年級群の加入量水準は低いことから今後一時的に親魚量は減少すると考えられ」とあります。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests19/html/1905.html 今は大幅にABCを超えて獲る状況ではなさそうですから、あとは海の環境任せということになるでしょう。「魚は増えるときはたくさんとっても増え、減るときは禁漁しても減る」というのはある程度正しいです。しかし、現在のまき網漁業にマサバの資源回復の芽を摘むだけの漁獲能力があることは、既に経験済みです。
漁獲量を漁業者だけが決めるというのは、現代の社会制度になじみません。海の資源を排他的に利用する漁業者には、それだけの説明責任があるはずです。
- 70 http://katukawa.com/2009/04/戦いを振り返る.html
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- 10 http://www.ikushimo.com/natsumi/