五輪とパラリンピック大会は成功裏に終わった。その責任を果たしたブラジルでは、国内政治の試練が続いている。

 ルセフ大統領が先月末、議会の弾劾(だんがい)裁判で罷免(ひめん)され、左派政権は13年間の幕を閉じた。

 政変は一区切りついたが、中道与党を率いるテメル新大統領の前途には難題が山積みだ。

 まずは経済の再建である。同時に徹底した汚職の根絶を断行せねば国民は納得できまい。

 ルセフ氏が「有罪」とされたのは、社会保障費の支払いを国営銀行に立て替えさせて政府会計を粉飾した不正だった。

 だが、それは問題の一部に過ぎない。議会を駆り立てた国民の怒りは、生活苦に直結する失政と腐敗に向けられたのだ。

 03年に出発した左派政権は、貧困家庭への給付金や教育支援など、格差是正のため「分配」を重視する政策を進めた。

 それを可能にしたのは、鉄鉱石や石油、大豆など主要輸出産品の高騰だった。高度成長を成し遂げ、ブラジルを主要新興国の座に押し上げた。ルラ元大統領から引き継いだルセフ政権も当初は順調だった。

 しかし、資源価格の下落や中国経済の減速で失速した。緊縮財政や物価高に国民が苦しみ始めた時期に、多数の与党議員が絡む汚職が発覚した。自身は事件に関与しなかったが、ルセフ氏に批判の矛先が向けられた。

 「分配」と共に「経済重視」を掲げながら、産業の多角化や行政の効率化といった改革を怠ったルセフ氏の責任は重い。

 一方で、5千万人が貧困層から脱し、人口の6割を超える厚い中間層が育ったのは「功績」といえる。腐敗がはびこる政治に真っ先に怒りの声を上げたのが、生活の質を重んじ、政治意識が成熟した中間層だった。

 こうした中間層の動きは、ブラジルにとどまらない。

 南米では90年代に貧富の差が広がった。その反動で左派政権が次々に生まれた。「ばらまき政治」の批判もあったが、各国で中間層が育ち、失政や腐敗、強権政治を批判、追及する原動力となった。

 これまでにアルゼンチンとペルーで政権が中道右派に交代した。ボリビア、ベネズエラでも国民が左派政権への抗議を繰り広げている。

 もはや左右のイデオロギーで国を率いる時代ではない。ブラジルの汚職疑惑は政界全体に広がっている。清潔な政治、公正な統治、政策への説明責任を尽くさなければ、国民が再びノーを突きつけることを、新政権は肝に銘じてほしい。