地球温暖化に立ち向かう世界の潮流は勢いを増している。それを見誤ることなく、官民の取り組みを加速させるべきだ。

 まずは、2020年以降の地球温暖化対策を決めた新たな国際的枠組み「パリ協定」の批准を急ぎたい。

 パリ協定は年内にも発効する見通しになった。二酸化炭素など温室効果ガスの排出で世界1、2位の中国と米国が今月初め、足並みをそろえて協定締結を発表し、発効に必要な条件に大きく近づいたからだ。

 パリ協定が昨年末の国連気候変動会議(COP〈コップ〉21)で採択された後も、日本政府の動きは鈍かった。「発効は18年ごろ。対応は大排出国の動向を見極めてからでいい」との姿勢だった。

 日本が尽力して1997年に採択された京都議定書では、中国が途上国として削減義務を負わず、米国は途中で離脱。不公平だと訴える声が経済界などに広がった。東日本大震災もあって、温暖化への関心自体が薄れていた。

 だが、消極姿勢を一変させた米中に代表される通り、国際社会は危機感を強めている。人類の活動が温暖化を招いていることが一層確実になり、温暖化との関連性が濃厚な熱波や豪雨なども頻発しているからだ。

 パリ協定に関して、日本は温室効果ガスの排出量を「30年度に13年度比26%減らす」との目標を国連に提出済みだ。さらに5月の伊勢志摩サミットでは、ガスの排出を抑えつつ発展していく長期戦略を20年を待たずにつくることを申し合わせた。

 ただ、戦略的な議論は政府の審議会でようやく始まったところだ。製品やサービスの提供に伴うガス排出量を価格に反映させる「カーボンプライシング」や、環境と経済、街づくりを一体に考える土地利用など、社会や産業のあり方にかかわる新たな発想や試みも課題になろう。

 運転時のガス排出が少ない原子力発電の活用もしばしば議論にのぼる。だが、廃棄物処理の費用と難しさ、福島第一原発事故が示した被害の大きさを考えると、原発頼みは許されない。

 省エネを徹底しつつ、太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーをさらに導入する。工場やビルの廃熱を地域の冷暖房や給湯に生かす。エネルギーの自給自足や循環を意識した取り組みは、安全保障の観点からも望ましく、技術革新を促し、街づくりとも相性がいい。

 温暖化対策を大きな軸に、企業や自治体、市民による多様で息の長い挑戦を促す。そんな構想力が政府に求められている。