経済・財政
ドイツ銀行の株価急落は何を意味しているか? ユーロ圏を覆った暗雲
金融緩和と銀行経営の関係
真壁 昭夫 プロフィール

銀行経営を圧迫する金融政策

注意したいのが、2014年6月からECBがマイナス金利政策を導入した結果、国債の利回りが大きく低下し、ユーロ圏全体の銀行の収益力が弱まってきたことだ。

9月8日のECB理事会では、ドラギ総裁が今後の追加緩和に対する明確な指針を示さなかった。それが市場の失望を呼びドイツなどの国債利回りを急上昇させた。この時、ユーロ圏の銀行株は反発した。そこには、マイナス金利の深掘りや量的緩和の強化など、さらなる金利低下=銀行の収益減につながる金融政策が当面は見送られたという、投資家の安堵があったと考えられる。

しかし、依然としてユーロ圏の景気動向は不安定だ。銀行の経営状態が悪化し、企業の景況感や消費者心理が後退すれば、ECBは何らかの追加緩和を打ち出すだろう。

それは国債の利回りを低下させ、銀行の収益を追加的に圧迫する可能性がある。その結果、投資家のリスク許容度は低下し、民間投資家の協力を得て不良債権処理を進めるイタリア政府の取り組みも行き詰るかもしれない。

そうしたリスクがユーロ圏、そしてグローバルな金融システムに与える影響は軽視すべきではない。ドイツ銀行を筆頭に世界の大手行は、相互の資金取引などを介して密接につながりあっている。つまり、単一国の金融システム不安は、短期間のうちに世界経済全体の問題に発展する恐れがある。

このように、景気支援のために進められてきた金融緩和が行き過ぎると、銀行の経営が悪化し、経済に悪影響が及ぶ懸念がある。これはユーロ圏に限らず、わが国などにも当てはまる。

本来であれば経済・金融システムの安定を司る金融政策が、個別行の経営リスクを高め、間接的に経済の混乱につながるリスクを孕みつつあることは冷静に考えるべきだ。