変化していく家族の“カタチ”(イメージ)

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 結婚と恋愛は別だ。結婚しても婚外の誰かを愛することはある――そんな婚外での恋愛、つまり不倫を認め合う「放し飼い婚」を実践する驚くべき夫婦が存在するという。

 「放し飼い婚」は、社会学でいう「オープン・マリッジ」と呼ばれる形態だ。複数の異性と交際、その複数交際相手もこの関係を容認するという「ポリアモリー(複数愛)」の発展型である。

 さて、これまでポリアモリーの実践者から話を聞くことは極めて難しかった。実践者である30代後半女性はその事情についてこう話す。

「同性愛はまだまだ偏見の目に晒されているとはいえ、東京都渋谷区などのパートナー証明書発行のように社会の理解が進みつつあります。SMやスワッピングといった特殊性癖も、眉をひそめられることはあっても単なる個人の性癖で片付けられるもの。しかし、複数愛は『モラルの欠如』『倫理観がない』と厳しく批判されます。だから言えません」

 こうした背景から、光が照たることのなかったポリアモリー実践者の実態について、放し飼い婚夫婦とその交際相手から話を聞くことができた。

「ママの彼氏のタナカさんとエグチさん、パパの彼女のユウコさん。コウタ君……小学5年でタナカさんの息子さん。私とは姉弟みたいなもんやねん。仲良くしてるわ!」

 こう屈託無く話すのは高校1年のミナちゃんだ。今月のある金曜日夜、彼女が暮らす兵庫県芦屋市の一軒家でパーティーが行われていた。この日は彼女の母で専業主婦のアヤコさん(43)の誕生会だという。その席に彼女の両親の“恋人”がお祝いに駆け付け、その子どもまで同席していた。。

 アヤコさんの夫で会社経営者のリョウスケさん(49)が語る。

「若い頃、妻も私も正直モテました。真剣に好意を寄せて下さる方をお断りするのは辛いね……と、交際中、よくふたりの話題に出たものです。そのうえで、人間とはわがままなところがある。日常接するパートナーとは違った愛をもらいたい、与えたいこともあるという話も出ました。それを認め合うという訳です。交際相手の人数分、愛が増えます。幸せですよ」

 放し飼い婚を実践するにあたって、リョウスケさん・アヤコさん夫婦は、3つの条件を設けている。

・交際相手は互いにきちんと紹介しあう
・紹介していない、報告していない相手との交際は認めない。離婚原因となる
・交際相手とのセックスではコンドームを必ず着ける

「それさえ守っていれば私たち夫婦の間では何も問題はありません。娘が産まれてからは、交際相手のお子さんも含めて家族ぐるみでのいいお付き合いをさせて頂いています。私たち夫婦が忙しいときは、どちらかの交際相手に娘の面倒を見てもらったこともあります」(アヤコさん)

 今では夫婦互いの交際相手も含めた“親戚”のような付き合いだという。

 アヤコさんには、現在、ふたりの彼氏がいる。そのうちタナカさんは“一番手”、エグチさんは“二番手”と序列がついている。これはアヤコさんのなかでの優先順位で、夫のリョウスケさん、タナカさん、エグチさんの順だ。二番手のエグチさんが語る。

「ご主人や、一番手のタナカさんでも受け止められない何かを受け止めるのが僕の役割です。順位というか序列をつけてもらったほうが、かえって自分の役割がわかっていいです」

 ポリアモリー実践者の間では、一番手の序列がつく交際相手と何らかの事情で別れた場合、二番手が一番手に昇格することは、「あまりない」(リョウスケさん)ようだ。

 あくまでも二番手は二番手の役割に徹しなければならない。もっともアヤコさんとの関係では二番手のエグチさんも、他の交際相手女性からは一番手とされていたり三番手とされているという。

「夫婦でも、ステディな交際相手でも、1対1だと、背負うものが重過ぎます。でも複数の異性と同時進行の交際では背負うものが分散されて軽くなります。夫婦間の些細ないざこざも気にならなくなり、かえって相手(夫)に優しくなれます」(アヤコさん)

 最後に戻ってくるところは家であり、互いの配偶者という条件の「放し飼い婚」。現在の日本社会の倫理観、価値観とはかけ離れているが、歴史的には日本のみならず、海外でも多々あったもののようだ。そう考えれば、案外、人間的本能と歴史に裏打ちされた“由緒正しきもの”といえるのかもしれない。

※本文中、仮名はカタカナ

(フリーランス・ライター・秋山謙一郎)