ネットメディア誤報 「影響力」自覚を
高校生が訴える自らの貧困生活を報じたNHKニュースについて、あるインターネットメディアが「やらせ」「捏造(ねつぞう)だ」などと報じ、その後に事実誤認だったとして謝罪した。このメディアの社長は毎日新聞の取材に「ネット上の書き込みを丸ごと信用してしまった。チェック体制が甘く構造的な問題があった」と説明した。
ただ、記事がネット上に拡散して高校生への攻撃を後押しした側面もある。ネットメディアが徐々に影響力を強める中、その責任も重くなっている。
NHKは8月18日の「ニュース7」で、神奈川県の高校3年の女子生徒が経済的理由から専門学校進学を諦めたと県のイベントで語る場面や、母と2人で冷房なしのアパートで暮らしていることを紹介した。これに対してネット上では、貧困生活を疑問視し、高校生とNHKを非難する書き込みがあふれた。
ネットメディア「ビジネスジャーナル」は同月25日、「女子高生の部屋にはエアコンらしきものがしっかりと映っている」と報じ「NHKのコメント」も載せた。同月31日に「お詫(わ)びと訂正」を出して「エアコンはなかった」と記載し、NHKに取材していなかったことも明らかにした。
2012年にスタートしたビジネスジャーナルは無料でネットに記事を配信し、月平均3000万ページビュー(PV)を獲得している。運営する「サイゾー」の揖斐憲(いびただし)社長(44)は取材に「NHKから指摘されて発覚した。あまりにもお粗末だった」と述べ、石崎肇一(はじめ)編集長を更迭する方針を示した。NHKには「高校生に直接謝罪したい」とも伝えているという。
揖斐氏によると、編集長ら社員3人が30人程度の外部執筆者の原稿を受け取り、1日10本程度の記事を配信してきた。「記事量とチェック体制のバランスが欠けていた。コストをかけずにPVを稼ぐため、記事本数で賄おうとする無料ネットメディアの構造的問題もある」と話した。
記事を書いた20代男性は昨年秋にサイゾーと契約し7本程度の記事に携わったが、内部調査で他の記事に問題は見つかっていないという。揖斐氏は男性について「契約前に取材や記事執筆の経験はなかったが、コメントを捏造するとは疑っていなかった」と語った。
ニュースに登場するイベントを主催した神奈川県の小島厚・子ども家庭課長は「学校には『高校生はまだ(直接謝罪を受ける)時期ではない』と伝えている。本人に判断を求めるのは酷な状況だ」と述べた。【青島顕、加藤隆寛】