.


マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/12


みんなの思い出

1
1

オープニング




 埼玉県越谷市に結界が展開されており、その中に、悪魔小娘ジェルトリュード(jz0379)のケッツァー治療院が存在する。
 撃退士たちが学園に持ち帰った情報と、ヘルくじらの目撃情報箇所は、一致した。

 恐らく、越谷市民33万7千人は、ディアボロ化、もしくはジェルトリュードのパワー源にされてしまったと思われる。
 ヘルくじらで人狩りを行い、人質を更に補充していることからも、推察できる。

 結界は透明な赤っぽい壁で覆われており、V兵器で壊して侵入することが可能だ。

 だが、撃退士の先遣隊の報告によると、結界のすぐ外側、ジェルトリュードの占領地域は、荒れ果てていた。
 ぬいぐるみのように可愛い、しかし凶暴なディアボロが跋扈し、一般人の大半は、逃げ出すか殺されており、ゴーストタウンのようであった。
 ここをくぐり抜けないと、越谷結界には近づけない。

「ケッツァー治療院を叩きましょう」

 斡旋所秘書のアリス・シキ(jz0058)はそう言って、報告書に再び目を落とした。

「ここがございます限り、ケッツァーのかたがたをどんなに追い詰めましても、治療されてしまいますわ」





 敵情報を整理しよう。


 悪魔小娘ジェルトリュードは、音使い、のようだ。
 コードレスマイクを通して、通常攻撃(超遠距離・範囲)を仕掛けてきた。

 歴戦の撃退士たちも一撃気絶のダメージだったのに、全く耳が聞こえない一般人が、軽傷で済んだこと。
 そして、耳を負傷し、聞こえが悪くなった撃退士の1人が、軽めのダメージで済んだこと。
 以上から、耳を塞ぐことによるダメージ軽減という策は、有効そうに思えた。

 但し、耳栓にも色々ある。人の声の周波数を拾うものは、ダメージ軽減効果がないかもしれない。
 ダメージ軽減のためにはしっかりと耳を塞いだほうが良さそうだ。

 しかしその場合、仲間同士の連携が取れなくなるというリスクも負うことになる。
 同時に、ディアボロの不意打ちを受けやすくもなる。

 また、<アウルの鎧>が効かなかったという報告があがっている。
 物理でも魔法でもない攻撃はあり得ない。よって、何らかの理由があるものと推察される。
 これはまだ、解明されていない。

 
 ジェルトリュードは、他にも、バステ付与スキル、範囲攻撃スキルを持っていることが分かっている。
 バステ付与スキルは【腐敗】と【封印】が同時にかかる代わりに、ダメージは一切ない。
 超遠距離・範囲スキルであることもわかっている。
 このスキルが使われるとき、ホルンの音が聞こえる。

 範囲攻撃スキルについては、赤い光と音楽が空から降りてきて薙ぎ払われた印象だけだ。
 こちらも超遠距離から飛んできたと推察される。

 他にも色々ありそうだが、撃退士にわかっているのは、今のところそのくらいだと思われる。

 あとは、紅茶好き、ぬいぐるみ好き、可愛いもの好き、ベリアル様大好きな、小生意気なツンデレ小娘というくらいか。
 ベリアル様を持ち上げるだけで、色々喋ってくれる、チョロいところも持ち合わせた、おつむの残念な悪魔だ。
 自称、ナースではなく、アイドルだそうである。
 仲間を癒し支えると言っていたから、支援スキルや回復スキルもあるのかもしれない。

 不思議なことに、ヴァニタスの類を一切連れていない。
 この理由もまだ明らかにはなっていないが、自身の強さを過信している可能性は否めない。





 ケッツァー治療院。

 ジェルトリュードの漏らした情報によると、越谷結界の中にあるらしい。
 そこは現在は、守りが堅く、今はケッツァー会員証と合言葉がないと、入れないようになっているそうだ。
 恐らくディアボロに、警備もさせていると思われる。
 だが、撃退士なら、力ずくで侵入することは可能だろう。

 ここは、例えばアルファール・ジルガイア(jz0383)を筆頭に、ケッツァーメンバー全員にとって、要となる施設のひとつだ。
 何しろ高度な魔術的回復機材が揃っているらしい。
 どんなに深手を負おうと、病気になろうと、ジェルトリュードがここで治してくれるのだから。

 と、ジェルトリュード本人は言っていた。本人の弁なので、真偽のほどは不明である。


 先遣隊の調査により、越谷市立病院跡が怪しいのではないかと、既に候補は絞られていた。
 周辺の守りが堅く、近づくと鉄槍や銃弾が飛び出す壁の罠などが幾つもあり、警備らしきディアボロも多く散見されたと報告がある。
 流石に敷地内までは行けなかったが、ジェルトリュードの言葉を信じるなら、ここであろう。
 彼女が嘘をついている可能性もあるので、敢えて「推定」としておくが、まず「確定」と言ってもいい。ともかく、侵入に成功すれば判明することだ。
 8階建ての建物は、城壁ごしに見上げると、丸っこく可愛らしい、外国のお城のように変貌していたという。


 そして、結界があるということは、当然ゲートもあるということだ。
 それについては、まだ一切情報は出ていない。
 越谷結界の中に侵入し、探索をする必要があるだろう。
 だが、今回はそこに割ける人員はいない。残念ながら次の機会に持ち越しである。





 占領地域・支配地域を徘徊する、ディアボロの群れについて。

 ジェルトリュードが作ったものは、どれも可愛いぬいぐるみのような姿をしている。
 切りつけると、裂けて綿がはみ出すところまで、本物のぬいぐるみのようだ。

 戦闘能力を持たない運搬用ディアボロを好んで使うようだが、戦闘用の凶暴なものも、結界周辺には揃っているらしい。
 パワーやスキルなどは不明。可愛い外見に和んでしまわないよう、注意が必要だ。





「今回の任務でございますが、結界内のケッツァー治療院を機能停止させていただきたいのです」

 アリスは集まった撃退士たちを見つめた。

「占領地域のディアボロ掃討、および結界内部・推定治療院前までの手引き、陽動は、別チームの撃退士さんたちが行いますわ。皆様は少数精鋭の潜入部隊として動いてくださいませ」

 きりりと別動隊の撃退士たちが頷いてみせる。任せてくれと言わんばかりだ。

「くれぐれも、悪魔さんの妨害には、ご注意くださいませね」


プレイング

鋼の意志を貫く者・浪風 悠人(ja3452)
大学部3年11組 男 

【心情】
(まだ、何かあるはずだ…)
空気の振動を肌で感じ、耳以外への異常に警戒する

【目的】
治療院の破壊

【準備】
耳に綿を詰めその上から耳栓をしてその上をテープで密封する
更に魔装で抑えて完全防音を作る

【行動】
耳が塞がっているので手振り身振りで状況を伝える(声が通じるだろう相手には口頭で
基本は前衛の後ろについて行く形で同行し、戦闘が始まれば敵と周囲の動きをみて間合いを取り、攻撃して行く

敵の配置が一列に複数いる形の場合は味方を識別して封砲を放ち、ばらけている形の時は自分が少し前に出てコメットを仲間が範囲に入らない位置に落としてより多くの敵を攻撃するようにする
その後通常攻撃で撃ち漏らしを倒す

前衛が負傷した際は回復のために下がって貰い自分が前に出て後ろへ攻撃を通さない様にする

非実体の攻撃にはクリアワイヤー、それ以外はロセウスをシールドで緊急活性化

周囲を見ながら進み、地図・案内板等残ってないか探す
あればそこから治療室がありそうな場所を絞って探索しオペ室か検査室のあるフロアが怪しいと推測

悪魔には特に反応せず
但し声以外の攻撃や耳以外の異常が無いか警戒
マイクか喉か口を狙って攻撃して歌うのを妨害する

施設と思しき場所では封印時以外は範囲攻撃を撃てるだけ撃ち破壊後発煙手榴弾を投げて撤退
気絶時は根性使用

炎と舞う癒し手・キサラ=リーヴァレスト(ja7204)
大学部2年5組 女 
・心情
……とても…危険な…依頼になりそう…ですが…頑張ります……

・準備
阻霊符(常時展開
光信機(イヤホン接続する

・行動
仲間と一緒に仲間とは連携して行動
可能なだけ仲間中衛に位置し仲間を神の兵士の圏内に入れておく

仲間がトラップを見つけ解除する時は援護

仲間の支援と回復特化で行動
仲間が負傷した際は生命力半減以上でライトヒール使用し回復させる

敵の範囲攻撃等で仲間が数名巻き込まれて生命力が一気に落ちた場合は
一度下がって貰い纏めて癒しの風使用し回復

仲間や自身に攻撃が被弾すると思ったら
仲間>自身の優先度でアウルの鎧を使用し支援

自身も攻撃が必要だと感じた時は中衛の位置からログジエル使用しログジエルで射程ギリギリから攻撃支援する
「……援護…します……」

ジェルトリュードと遭遇するまではサガ様に周囲状況説明を光信機使用し流す
遭遇したら光信機の電源を落とす

LHは残量0で隙を見てヒールに換装し使用
必ず敵と味方の攻撃の隙を見つつ自身に攻撃が被弾しない隙を見つつ換装

獲物追う狩人・浪風 威鈴(ja8371)
大学部3年10組 女 

【心情】
 「壊し…きる…邪魔なんて…させない…」

【目的】
ケッツァー治療院の破壊



【行動】
<地形把握>で罠が仕掛けられそうな場所を探し見つけ次第<サーチトラップ>で罠があるか探りなが歩く。
罠を発見したら解除出来るか調べ出来そうなら罠の解除をしていく
敵が見え仲間が攻撃し始めたらスナイパーライフルSB-5の射程ギリギリまで下がり仲間の撃ち漏らした敵に〈クイックショット〉で攻撃していき


影に潜みて・サガ=リーヴァレスト(jb0805)
大学部7年2組 男 
「さて、首尾よく行くか…?」

アドリブ可
密閉型ヘッドホンを用意
阻霊符常時使用
ただし透過使用者居れば
透過タイミング解れば
その時のみ解除

ジェルトリュードの攻撃は
音波を利用した物で
その性質から耳から入った音が
内部で威力を発揮した為に
アウルの鎧を無効化したと想定
イヤホン接続可能な光信機を借り
光信機と接続したイヤホンをつけて
そのイヤホンごとヘッドホンで耳を密閉し
イヤホンからの音しか聞こえない様にし
光信機越しに味方と会話できるようにしつつ
ジェルトリュードの攻撃を防ぐ
「まだ未知数な敵が相手だ、色々試すと考えれば悪くないだろう」

基本味方と共に行動
罠等ある場合
解除中の味方を護衛したり
罠を避ける等して
なるべく安全かつ穏便に進む
「気付かれるまではなるべくな」

敵と交戦時
単体相手は
通常攻撃で味方と共に攻撃
複数相手は
一度敵から少し離れ
敵の注意なるべく逸らし
H&Sにて潜行
潜行後は敵死角に回り込み
敵複数狙えるタイミングで
夜想曲かCG使用
CGは味方を巻き込まずに
使用可能な時に使用
CG不可なら夜想曲で攻撃
「レートを生かさずとも、私達ハーフ悪魔には悪魔殲滅掌と言う技があってな?」
「影に紛れて討つのは得手の中の得手でな」

ジェルトリュードと対する場合
光信機越しの伝達を防ぐ為
光信機を切る
攻撃を防げた場合
すぐさま反撃し仕掛ける
「その癪な声は途絶えさせてもらおうか」

撤退時
強行突破なら
残スキルを全て使用し
追撃の敵を払う

焔潰えぬ番長魂・天王寺千里(jc0392)
大学部5年10組 女 
「てめぇらが行く病院はねーんだよ!」


厳重な罠で張り巡らされた病院に突入して回復装置をぶっ壊す作戦だが、
無数のディアボロと悪魔が待ってるみたいなんで邪魔者に遭ったら即座にぶっ飛ばして中に入っていく。
敵はとことんぶっ潰すに越したことはねーけど、状況が状況なんで回復装置ぶっ壊すのが優先。

病院の周りにいるディアボロにライフル乱射して突破口を開く。
近づいて来たら刀でぶった切る。
中に入ったらインフィにトラップを見つけて貰いとことん解除。
建物の中で阻霊符を発動。
小細工が通用しねぇのなら力ずくで薄い壁をぶっ壊して奥に進む。
敵が来たら撃つなり斬るなりとにかくぶっ潰す。
集団には「発勁」で2スクエアごと吹っ飛ばす。
押しては引く戦法で囲まれるのを防ぐ。
悪魔対策の耳栓は細工を加えて完全防音仕様に改造。意思疎通はジェスチャーで。
回復装置の場所は人目につきにくい地下室とか霊安室あたりに目星をつけておく。
悪魔に遭っちまったら「闘気解放」と合わせて「薙ぎ払い」をぶち込む。
仲間が引きつけている目を盗んで回復装置を探し、見つけたら斧でガンガンぶち壊す。
斧は悪魔から逃げる時に持ち替えて移動力稼ぎ。
仕事が終わったら元の道か、壁を壊して脱出。
「悪ぃがこいつはスクラップにさせてもらうぜ。残念だったなお嬢ちゃん!」
「回復したけりゃ魔界の病院に行けよ。いい道具揃ってんだろ?人間様の病院を勝手に使っちゃカッコつかねーな」


いつだって冷静沈着・御剣 正宗(jc1380)
高等部2年3組 男 
【目的】
・ケッツァー治療院にある魔術的回復機材を破壊する。
・ディアボロを排除する。

【準備】
・ジェルトリュードの攻撃に備え、「耳栓」を用意する。
・光信機が使えないなど、いざという時に備え、撃退士やアリスへ連絡できるよう携帯電話を用意。

【行動】
・極力全員と行動する。主に前衛に出てディアボロを相手にする。
・大量のディアボロがいる場合は、味方を巻き添えにしないように「封砲」を使用する。
・敵に隙がみれた場合は「スマッシュ」を使い、敵を攻撃。
・空を飛ぶ敵には「陰陽の翼」で飛行し、戦う。
・他の撃退士が危険と判断した場合、身を徹して庇う。自分の命より仲間の命を再優先で守る。
・例え傷を負いすぎて危険だと判断しても絶対に諦めないで行動する。
・ジェルトリュードが音に関する攻撃をすると判断した場合、光信機から耳栓を装着し、防御する。
・手が開いてる場合、罠解除を手伝う。罠がどうしても解除できないと判断した場合、力押しで破壊する。
・魔術的回復機材を見つけ次第、攻撃して破壊。使えるのであれば「スマッシュ」と「封砲」を使い、力強く派手に破壊する。
・脱出の際、高い場所に抜け道があった場合「陰陽の翼」で飛行し、とべない撃退士を運ぶ。もしもまだディアボロがいた場合、囮になる。

【心境】
「戦闘ならボクにまかせて…」
「こういう時は力押しに限る…」
「ボクだって、できることはある…!」

アドリブ歓迎です



リプレイ本文




 結界の中は、薄赤い天空から日差しがぼんやりと差し込む、奇怪な雰囲気だった。
 別動隊に導かれ、一行は推定・ケッツァー治療院――越谷市立病院跡の前まで、やってきた。
 高い城壁に囲まれ、城壁の上を守る鉄条網の向こうに、可愛らしいお城が建っている。

 入口はすぐに見つかった。悪魔はここを通るのだろう。
 だが、門はかたく閉ざされている。正規の「ベリアル様FC会員証」と合言葉がないと、開かれないようになっているのだ。

 門番らしきディアボロが、彫像のように佇んでいる。
 撃退士の姿を認めると、ぎりぎりと向きを変え、得物を構え、ゆっくりと台座から降りてきた。

 同時に、城壁が変形する。入口だった場所を次々と壁が塞いで、通せんぼをする。

「てめぇらが行く病院は人間界にゃねーんだよ!」
 天王寺千里(jc0392)が、集まりつつあるディアボロ達に、ライフルを乱射して、突破口を開こうとする。
「回復したけりゃ魔界の病院に行けよ。いい道具揃ってんだろ? 人間様の病院を勝手に使っちゃカッコつかねーな」

 ライフル乱射を受けたディアボロ達は、ぬいぐるみ様の体のあちこちから綿をはみ出させながら、それでも襲い掛かってくる。

「戦闘ならボクにまかせて‥‥」
 御剣 正宗(jc1380)は、小太刀二刀・鷹狼を抜き放つと、渾身のエネルギーを溜め、振り抜いた。
 黒い光の衝撃波が、右側から襲ってくるディアボロの群れを直線状に薙ぎ払った。
 <封砲>である。

 左側からも続々とディアボロが現れて、襲ってくる。
 正宗と同様、浪風 悠人(ja3452)が同じように<封砲>を放った。

 左右から挟撃してきた雑魚ディアボロたちは、2人に薙ぎ払われて、焦げた綿の塊になる。
 それを踏み越えて、次々と雑魚ディアボロ達が現れる。

「気付かれるまではなるべく穏便に、と思っていたのだがな‥‥」
 サガ=リーヴァレスト(jb0805)は、妻であるキサラ=リーヴァレスト(ja7204)と共に、トラップ解除役の浪風 威鈴(ja8371)を守っていた。

「別動隊が‥‥囮や陽動を引き受けてくれています‥‥ので‥‥既に気づかれていると‥‥思います‥‥」
 キサラが言うように、派手な戦闘が、結界内のいたるところで行われている。
 結界の主が、撃退士の襲撃に気づいているのは、間違いないだろう。

 電気のこぎりのような音を上げる、愛刀・神風丸を振り回し、千里が警備ディアボロに詰め寄る。
「来いよ! とことんぶっ潰してやるぜぇ!」





 ジェルトリュード(jz0379)の歌攻撃に備え、皆の装備は厳重だ。


 悠人は、耳に綿を詰め、その上から耳栓をして、更に上からテープで密封している。それを魔装プルソンヘルムで押さえ、完全防音状態を作っている。
 仲間とはジェスチャーで交信予定だ。


 キサラは、イヤホン式の光信機をつけ、いざとなったら両手で耳を塞ぐ寸法だ。
 光信機は彼女の夫・サガのものに接続されている。


 サガは、密閉型ヘッドホンを用意し、イヤホン式の光信機をつけた状態で被っていた。
 ジェルトリュードの攻撃は、音波を利用した物であり、その性質から、耳から入った音が内部で威力を発揮した為に、悠人の<アウルの鎧>を無効化したのだろう、と想定していた。

「まだ未知数な敵が相手だ、色々試すと考えれば悪くないだろう」

 密閉型ヘッドホンのお陰で、光信機から聞こえてくる妻の声しか聞こえない。
 キサラは、サガに、状況の説明などを伝え、音を遮断しているリスクを減らそうと努めていた。


 千里も、悪魔対策として、耳栓をロウで固めて完全防音仕様に改造していた。
 仲間との意思疎通はジェスチャーで行う予定だ。


 正宗も耳栓を携帯していた。今は光信機をつけているが、ジェルトリュードと遭遇した際に付け替えるつもりだ。


 問題は、威鈴である。彼女は、防音については、何の対策もしていなかったのだ。
 心配した夫・悠人が救急箱から脱脂綿を取り出し、妻の耳に詰めようとする。

「壊し‥‥きる‥‥邪魔なんて‥‥させない‥‥」

 完全防音状態の悠人には聞こえなかったが、威鈴は城壁の向こうに僅かに見える城を、ただただ睨み付けていた。





 わらわらと湧いてくる雑魚ディアボロを退けつつ、一行は迷路状になった城壁を進む。
 警備ディアボロは、前衛の正宗が<スマッシュ>で攻撃し、千里が神通丸を振り回して撃退する。


 <サーチトラップ>で、威鈴が前方の城壁に隠された穴を見つけた。
 前を通ると何かが飛び出してくる仕掛けのようだ。そう言えば、先遣隊が「近づくと鉄槍や銃弾が飛び出す壁の罠などが幾つもあった」と報告していた。

 罠を解除するため、隙だらけになった彼女を、サガとキサラが守る。

 サガは大剣・漆黒の日輪で、キサラはログジエルで、威鈴を守って雑魚ディアボロと応戦する。
「‥‥援護‥‥します‥‥」
 真剣な面持ちで、引き金を引くキサラ。2人は、ぬいぐるみのような可愛い外見に騙されてはいけないと心の中で繰り返し、大剣を、弾丸を、容赦なくディアボロにうち込み続けた。

 数でおしてくる雑魚ディアボロを引きつけ、すっと【潜行】し、死角に回ってから<氷の夜想曲>を放つサガ。
「影に紛れて討つのは、得手の中の得手でな」

 そして、仲間を巻き込まない範囲で<クロスグラビティ>を叩き込む。

「レートを生かさずとも、私達ハーフ悪魔には<悪魔殲滅掌>と言う技があってな?」
 累々と焦げたディアボロが積み重なっていく中、サガはにやりと微笑んでみせた。
「これを活性化させてある以上、冥魔眷属への威力があがっているのだ」


「罠解除‥‥成功‥‥」
 威鈴が呟いた。その声は誰にも届かないが、立ち上がった威鈴の、安堵した様子に、誰もが悟った。

「進もう」
 悠人が妻の頭を撫でて、迷路を進むごとに、徐々に徐々に近づいてくる城を、睨み付けた。
 今では病院の面影もない。メルヘン世界に出てくる丸っこいお城、そのものだった。





「あーもう! イライラするわね!!」
 ジェルトリュードは、城の屋上から、一行が迷路状の城壁を進んでくるのを、見下ろしていた。

「鎮まれ、あたしの銀の邪眼! 何だって害虫如きに、このあたしの結界(ワールド)を踏みにじられなければならないのよ。奴らがあたしの城に入り込んできたら、贖罪させてやるわ。そう、心から信じるしかない“世界の真実”というものを、思い知らせてあげるのよ‥‥それが‥‥あたしからの宿命の答え‥‥ふふ、喉が疼くわ」

 あたたかい紅茶をゆっくりと飲み干し、ジェルトリュードは屋上に設置された玉座を見た。
 そこには、悪魔的魔術回復装置の本体である、宝石のようなきらきらした結晶体が、輝いていた。

 教訓:何とかと猫は、高いところを好むらしい。





 一行が、迷宮のような城壁を抜けるまで、かなり手間取った。
 城壁のそこかしこに罠が仕掛けられており、威鈴の<サーチトラップ>は底をついた。
 しかし、似たようなものが多かったため、スキルが尽きたあとも、見つけ次第解除は可能だった。

 だがほぼ全員が音を遮断しているため、罠の発動音に気付かず、鉄槍や銃弾の洗礼をうけてしまう者もいた。
 総合的には大したダメージではなかったが、【毒】が塗ってあるものもあり、地味に一行の足を鈍らせた。

 そこへ、雑魚ディアボロが数でおしてきて、面倒な戦いとなった。
 戦闘後は、どちらから来たのか方向感覚がわからなくなり、来た道を戻っていたこともあった。


 だが。


 漸く目の間に、城の入口が見えていた。
 可愛らしく丸っこい、西洋の城か、遊園地に設置されている城のような見た目。


 一行は用心深く、中に入り込んだ。





 結界内は、概ね、電気が止まっているものだ。
 もとは大きな病院だったお城の中も、薄暗く、壁には悪魔的照明(かわいい)が焚かれており、童話の世界に入り込んだようだった。

 言ってしまえば、魔女の城に攻め込んだようなものだ。
 ピーンと院内スピーカーが動きだし、魔術的に、ジェルトリュードの声を運んでくる。

『悪魔的に優しきものにしか侵入を許したことのない、あたしの城にようこそ。歓迎なんてしないわよ。一切容赦しないから、ゆえに、さっさと出て行って欲しいところね』

 小憎らしいが可愛いジェルトリュードの美声が響いた。

「‥‥」
「‥‥」

 勿論、防音対策バッチリのメンバーには、何も聞こえていない。
 キサラも光信機のイヤホンごしに、うっすら何か喋っているらしいなー程度にしか聞こえていなかった。


 悠人は、薄明りの中、周囲を見ながら進み、地図・案内板等が残ってないか探した。
 ‥‥あった。
(治療室がありそうな場所を絞って探索しよう。手術室か検査室のあるフロアが怪しいんじゃないかな)

 手術室は3F、検査室は地下1F〜3Fに存在する。
 悠人は案内板を指さして、皆に(ここを探索してみよう)と意思を伝えた。

 千里がジェスチャーで案内板を示す。
(回復装置の場所は、人目につきにくい地下室とか霊安室あたりじゃねぇか?)

 とりあえず、地下も回ることには千里も同意し、探検が始まった。


 さて、襲ってくる警備ディアボロを数体倒し、軽傷を回復しながら、実際に行ってみてびっくり。

 まず手術室。
 扉そのものが綺麗になくなっていた。
 数ある検査室も同様だ。

 ジェルトリュードには、人間界の医療知識などわからなかったうえ、電気が止まっているせいで、最新鋭の医療機器は、邪魔なオブジェにしか思えなかったのである。
 邪魔でしかないオブジェがいっぱい転がっていて、しかも動かすのが面倒とくれば、部屋ごとなかったことにすればいい。
 そんな安直な考えがあっさりと読み取れた。

 霊安室らしきものも見当たらない。
 地下は、放置されたまま、新たなる壁に塗り込められてしまったように見えた。


 では、悪魔回復用の魔術装置は、一体どこに?

 A)新棟のどこか
 B)4F以上の病棟のどこか

 → 一行は、警備ディアボロの動きをみて、Bルートを選択した。





 可愛らしく丸っこい螺旋階段をのぼりながら、一行は緊張感を高めていた。
 上からやってくる警備ディアボロをいなし、協力して撃退しながら、少しずつ進んでいく。


 4Fに入ると、天井がくりぬかれ、最上階まで突き抜けた、大きなパイプオルガンがあった。
 鑑賞席の代わりに、ベッドが並んでいる。ここが悪魔的治療室なのだろうか?

 ぐるりと4Fフロアを歩き回る。

 魔女がかき混ぜていそうな、大きな深鍋が火にくべられるようになっている部屋が見つかった。棚には、病気に効くと言われている薬草や、小動物を干したもの、よくわからない薬の材料みたいなものも揃っていた。

 フロアをざっと見ても、魔術装置らしきものは、パイプオルガンくらいしか無い。これが魔術装置なのだろうか?
 一行は、自信がもてなかった。魔術装置の端末にも思える。
 くりぬかれた天井の向こう、屋上から、何か強い力を感じるのだ。


「?」
 途中でキサラが立ち止まった。
「‥‥ホルンっぽい音が‥‥した‥‥ような?」
 キサラがサガに光信機で伝える。

 螺旋階段を見上げると、何ということだろう。
 上階に、小さく見えるジェルトリュードが、小憎らしい顔を向けて、ホルンを抱えていた。
 あの、バステ付与スキルを使ったのだ。

 全員に【腐敗】と【封印】がかけられている。
 ジェルトリュードの姿を認め、キサラは慌てて、光信機のスイッチを切った。

「‥‥音の攻撃が‥‥来そうです‥‥」

 両手で耳を塞ぐキサラ。
 同じように、耳を塞ぐ威鈴。夫の詰めた脱脂綿は、耳に入れっぱなしだ。

「さっきの放送、聞こえたかしら? あたし、あんたたちの宣戦布告をわざわざかってあげて、饗宴の贄と捧げたわよね。よくもまあ、人様の城に堂々と入り込んでくれるじゃないの。害虫と喚(よ)ばれるに相応しい行動、即ち悪魔的な“禁呪”のひとつをあんたたちは犯しているのよ」

 ジェルトリュードの半分意味不明なセリフも、皆には殆ど聞こえていない。

(彼女には歌わせない!)

 悠人が、『不幸を司る者』という意味の英字が十字架と共に刻み込まれている黒い銃を取り出し、ジェルトリュードのコードレスマイク目がけて、撃つ!

 辛うじてジェルトリュードに、攻撃を避けられた。

「その癪な声、途絶えさせてもらおうか」
 サガが、大剣・漆黒の日輪を煌かせ、螺旋階段をかけあがる。

 威鈴がスナイパーライフルを構え、射程ぎりぎりからジェルトリュードを狙う。
 千里もアサルトライフルを構えた。

「あたし、遠くにいる奴から狙うことに決めてるのよね。悪魔騎士道に忠実なのよ。わかるかしら? わかんないわよね、害虫じゃあね」

 ジェルトリュードはマイクを手に、歌い始めた。
「容赦なくいくわよ!」

 だが、耳を封じた一行にとって、対策は万全だ。両手で耳を塞ぐため、威鈴がスナイパーライフルを手放さざるを得なかったのは、やむを得ないだろう。

 それでも、脳を揺さぶられる感覚に襲われる。完全防音でも、脳震盪を起こしそうだ。

「皆様‥‥下がって‥‥<癒しの風>を‥‥あ」

 キサラが回復をしようとして、【封印】が続いていることに気づく。
 どうしよう。威鈴は苦し気に膝をついている。第2波が来たら、彼女は倒れてしまう。

「妻の安全のためにも、ここは通してもらいますよ」
 6Fフロアへとじりじり近づき、悠人が黒い銃で再びジェルトリュードのコードレスマイクを狙う。

「こういう時は力押しに限る‥‥ボクにだって、できることはある‥‥!」
 冷静に様子を窺っていた正宗が、機をみて走り出した。天使の羽と悪魔の羽、アシンメトリな翼を寝かせて、空気抵抗を最低限に抑え、螺旋階段を駆け上る!

 サガ、千里も正宗に続き、ジェルトリュードの意識を、キサラと威鈴から引き放した!

「遠距離が得意ということは、近距離が苦手だろうか?」
 サガは6Fフロアで足を止め、大剣・漆黒の日輪でジェルトリュードに殴り掛かる。

「この程度の痛み、何てことないわ」
 傷を負いながらも、ジェルトリュードは歌と赤い光を放った。広範囲攻撃だが、巻き込まれたのはサガと悠人のみ。サガは耐えきれず崩れ落ち、悠人は急いでぐったりしたサガを抱え上げた。
 すぐにキサラのもとへサガを運ぶ。


 サガ達が小娘の注意を引きつけている間に、全力で正宗と千里は屋上へと達していた。

 輝く玉座、パイプオルガンに繋がれた魔晶石。これが魔術装置の源だ。間違いない。

「悪ぃがこいつはスクラップにさせてもらうぜ。残念だったなお嬢ちゃん!」

 斧でガンガンぶち壊す千里。
 正宗も、派手に魔晶石に攻撃を加えた。

 あっけなく、魔晶石は割れた。
 薄紅色の光があふれ出して、結界内の冥魔眷属たちの傷を癒し、空気に溶けて消えていった。

「何てことしてくれちゃったのよ!」

 真っ赤になって怒るジェルトリュードを残し、一行は素早く撤退した。

 城外へ出てから、キサラが残された回復スキルを精いっぱい使って、皆の傷を癒す。
 悠人は、撤退の際、パイプオルガンの椅子に、黒猫のぬいぐるみ、苺のショートケーキ、紅茶、そして『約束の品です』と書かれたカードを入れた箱を置いておいた。





「回復の魔晶石、壊されちゃったわ‥‥」
 どうしよう。これでは重体相当のケッツァー仲間を癒せない。
 ジェルトリュードには、重体を回復させるスキルはない。
 ひとり城の中で地団駄を踏んでも、どうにもならない。

 ふと、悠人の残していった大きな箱に目を留めた。罠かと最初は疑ったが、開けてみてジェルトリュードは目をぱちくりさせた。

「何よこれ。お詫びってわけ? 『約束』?‥‥ま、いいわ」

 ショートケーキを口に運び、紅茶を飲んで、彼女は「まずッ」と呟いた。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:大成功面白かった!:2人
MVP一覧
 −
重体一覧
 影に潜みて・サガ=リーヴァレスト(jb0805)
   <悪魔小娘の反撃を受け>という理由により『重体』となる

鋼の意志を貫く者・
浪風 悠人(ja3452)

大学部3年11組 男 ルインズブレイド
炎と舞う癒し手・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

大学部2年5組 女 アストラルヴァンガード
獲物追う狩人・
浪風 威鈴(ja8371)

大学部3年10組 女 インフィルトレイター
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

大学部7年2組 男 ナイトウォーカー
焔潰えぬ番長魂・
天王寺千里(jc0392)

大学部5年10組 女 阿修羅
いつだって冷静沈着・
御剣 正宗(jc1380)

高等部2年3組 男 ルインズブレイド


依頼相談掲示板

質問卓
浪風 悠人(ja3452)|大学部3年11組|男|ルイ
最終発言日時:2016年09月09日 19:40
相談卓
御剣 正宗(jc1380)|高等部2年3組|男|ルイ
最終発言日時:2016年09月09日 13:18
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月05日 22:13


リプレイ投票

このリプレイが面白かったと感じた人は下のボタンを押してみましょう!
投票1回につき1ポイントを消費しますが、1回投票する毎に1,000久遠プレゼント!
あなたの投票がマスターの活力につながります。

現在のあなたのポイント:0







推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ