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マスター:朱月コウ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/12


みんなの思い出

1
1

オープニング

●身持ちが堅いと崩したくなる
「この辺りにね……」
 キャンプ場。二人っきり。
 友人五人で言った今年最後になるであろうキャンプは、とても快適だった。
 というのも、夏休みも終わりごろだからか他の客が全然居なくて、ほぼ貸し切りだったからだ。
 男女混合。付き合っている彼女も一緒に来た。
 だが、今隣に居るのはその彼女の友人だ。
 すぐ近くに彼女が居るのに二人っきりというのは、少しばかり心苦しかった。
 そんなこの女性はそんな事は気にしていない様子で話を続ける。
「『黒馬の王子様』ってのが出るんだって。知ってる?」
「いや……」
 どうしよう。気まずい。
「何かね、女の子が一人っきりになったところに現れて、黒い馬に乗せて連れてっちゃうんだって!」
 気まずいのは自分だけかもしれない。
 何故かって、先程からこの女性、いやに密着してくる。
 何か気に入られてしまったのだろうか。
 だが、そう簡単に流されようとは思わない。
 後々面倒になるのが目に見えている。
「もしそうなったら……守ってくれるかなぁ?」
 屈んだまま、上目遣いで顔を覗き込まれた。
 正直一瞬危なかった、が、ここで負ける訳にはいかない。
「あ、あぁ……うん」
 と自分でも情けない返事が出てしまった。
 いや、これで良い。
 それで見限ってくれた方が早く済む。
「あ、そろそろ戻ろうか?」
 女性の言葉は待たなかった。
 一刻も早く、彼女の元へ戻りたかったのだ。
 早々に立ち去ろうと足を進めた男が数メートル程歩いたところで、彼は聞き慣れない音がするのに気付いた。
 あの女性が何かしてるのか?

 そういう訳では無かった。
 振り返らずとも、女性が小刻みに震えた声を発しているのが分かったからだ。
「う、後ろ……!」
 彼女の言葉にハッとし、男は背後を振り向いた。
 不快な鼻音、地を蹴る堅い足音……馬?

 夜を更に黒く塗りつぶしたような、二本の角が生えた黒い馬。
 そしてそれに跨る黒い鎧の西洋風の騎士。
 まさにこの女性の言う『黒馬の王子様』。そのものが目の前に悠々と立っていたのだ。

 男の思考は恐怖と同時に打開策と疑問で支配される。
 噂では黒馬の王子様とやらは女性が一人きりの時を狙うんじゃないのか?
 いや、それよりも女性がヤバい。
「……こっちに……早く! 何とか引きつ……」
 言葉を言い終わる前に、黒馬の足が動いた。
 しかし、その先は女性では無い。
 彼女をすっ飛ばして、何故か男の元にやってきたのだ。
(「……え……」)
 様々な疑問は、頭の中でも言葉で表せなかった。
 考える暇も無かった。
 男は、鋭利な角で腹部を貫かれていたのだから。

●男を貪る黒の馬
「黒い馬……ね」
 久遠ヶ原学園の一室で、青年、澄凪翔はノートを捲っていた。
 何処にでもあるような市販のノートに見えるが、彼の周りを見るとそれが十冊以上は重なって置かれている。
「あぁ、あった。やっぱり聞いた事があるよ……名前の響きからして聞いた事はないかな? ユニコーンっていう伝説の生物」
 そう言われると、一度は聞いた事があるかもしれない。
 伝説の一角獣。
 しかし、今回目撃されているのは角が二本だったと報告があったが。
「うん、ユニコーンが良く聖獣と伝えられているに対して、もう一つの邪悪とされている二角獣……バイコーン」
 翔は大き目の袖を捲り直し、真剣な顔つきで説明を続けた。
「簡単に言うと、こいつが狙うのは男性だ。それも貞節……って言って良いのかな。要は妻以外の女性に関心を示さない、純真な男性を好んで貪り喰うとされてる」
 飽くまで一説である。
 が、その特徴がほぼ一致している事から、翔はこの生物に結び付けたようだ。
「馬じゃないとも聞くけどね。それに騎乗する騎士に関しては聞いた事もないな」
 ふむ、と鼻の頭に指を押し当てた翔は自分の資料と報告された情報を見比べた。
「この男性が狙われた次に、女性も被害にあってる……か。どうやら、優先順位が高いだけで女性が狙われない保証はないんだね。例えば、女性だけで遭遇した場合も間違いなく襲われるだろう……残念がるのかな」
 苦笑しながら冗談を飛ばすと、改めて姿勢を正した。
「妻も居ない、彼女も居ない、そんな男性だったら狙われ易いんじゃないかな」
 では、逆に多数の女性を引きつれている様な男性だったら?
「女性を排除しようとする……かな? まぁ、この天魔に伴侶がいるかどうかの察知能力なんて無いだろうし、恐らくその場の状況で襲い掛かって来るだろう」
 つまり、予想される優先順位は……一人きりの男性、一人きりの女性、あとは人数の少ないグループから、となるのかもしれない。
「一男性としては見過ごせないね。身震いするよ。攫われた後はどうなっちゃうんだろうね」
 ともかく、被害が都心から離れてるうちに撃退してくれ。
 そう締めて、翔はノートを閉じた。


プレイング

ちのうしすうがたかい・雪室 チルル(ja0220)
高等部2年4組 女 
心情:
「うぎぎ……重体じゃなきゃあたいが一番乗りなのに……」

目的:
敵を撃破

準備:
・作戦
囮役と奇襲役に別れて行動。
囮役はキャンプ場の中心でキャンプを張って敵をおびき寄せる。
その間奇襲役は潜行ないしコテージに隠れて待機。
敵が登場したら奇襲役は全員で攻撃を仕掛ける。
その後馬対応と騎士対応に別れて行動。
それぞれが合流しないように注意しながら行動する。

・準備
戦闘終了後に備えて救急箱を用意。

行動:
・基本
奇襲役馬対応として行動。
重体で行動するので基本的には無理をしないで行動。
主に遠隔攻撃によるバックアップを中心に行う。
また、ダメージが重なるようであれば無理せず回復スキルを使用する。

・対馬
基本的には重体なので注意を向けずにちまちまと遠隔攻撃ないし射程のある範囲攻撃。
攻撃機会があるのなら奥義などを使用して一気にダメージを稼ぐが、
重体なのであまり無理をせずに行動をすることを最優先。

・対騎士
馬を撃破後に狙っていく。
基本的には馬と同様の手法で攻撃を仕掛けていくが、
装甲の硬さを考慮し、必要に応じて魔法武器にきりかえて攻撃をすることも考慮する。

赫華Noir・黒百合(ja0422)
高等部1年3組 女 

※アドリブ可

○心情

きゃはァ、今回はお馬さん退治ねェ…ぶち殺したら馬刺しにでもしましょうかァ♪

○行動

可能なら事前に仲間達と作戦、行動内容を確認
差異がある場合は行動修正を行う

仲間との連絡手段を事前に確保
敵の出現状況など逐次連絡、報告を行い連絡を密に行う

馬対応

コテージなど囮から離れた位置に潜伏(他の仲間と一緒に
敵が出現した場合は行動開始
なお、万が一にも自分達の方に現れた場合は仲間に連絡した後に迎撃行動を行う

「眷属殲滅掌」は常時使用
戦闘になった場合は「アンタレス」使用(ロンゴ〜装備
ユニコーンと黒騎士を同時に攻撃する
通常攻撃はロンゴ〜で薙ぎ払う様に攻撃を加え、火力に任せて叩き潰す
敵が長距離に居る場合は〜G3装備に切り替えて対応
逃走する場合も想定して、敵の行動は常時観察
逃走する様な気配があれば回り込んで移動経路を塞ぐか、遠距離攻撃を加えて妨害する

突進力を考慮して馬の直線経路は危険と判断
直線状に無防備に立たない様に注意、また周囲警戒を厳にして横槍や奇襲に警戒する

生命力が30%以下になった場合は「吸血幻想」使用
敵の攻撃は「防壁陣(敵の攻撃に合わせて2種類のバックラーの緊急活性化を使い分ける」


階段を上りし者・ミハイル・エッカート(jb0544)
大学部4年9組 男 
彼女以外の女に目もくれない純真な男といえば俺だ!
黒騎士の中身は女だろう
残念だったな、俺には優しくて美人で可愛くて料理が上手くて素晴らしい彼女がいる!

・準備
BBQセットはキャンプ場でレンタル
食材はスーパーで調達
肉たっぷり
野菜は少し
だがピーマン、お前は許さないぜ

・行動
囮役
コテージから10mほど離れた場所で仙也とBBQ
ふっ、男二人か・・
なにか物悲しいものを感じる
好みの焼き加減になるまでじゅーじゅー育てる
俺が育てた肉は渡さないぜ
デザートはプリンだ
敵をおびき出すためにノロケ話でも聞かせるか?
「俺の彼女はまさに女神だ、天使だ、聖女だ、俺の太陽だ!!」

黒騎士出たら
「出たな、黒騎士。お前、中身は女だろう?男じゃないよな?」
敵味方問わずホモに迫られ追いかけられることが多い俺
人語が通じるかどうかは分からんが聞いてみたかった

初手、バイコーンにスタンエッジ
味方の合流まで時間稼ぎ
以降、攻撃先は黒騎士
敵の攻撃の間合いに入らず、自在花火でバイコーンも巻き込んでドッカン
味方は巻き込まず
自在花火が回数尽きたら黒騎士を通常攻撃で撃ちまくる

仙也の庇護の翼にありがたく守ってもらう

バイコーンが逃げそうになれば再度スタンエッジ
「おいこら、そこの馬。イケメン置いていくつもりか。どこにも行かせないぜ」

討伐後、黒騎士の顔を見てみたい
女・・だよな?
他の女に興味があるわけじゃない、敵はホモじゃなかったという安心が欲しいだけだ

バラクラバー・Robin redbreast(jb2203)
高等部2年2組 女 
ふぅん、バイコーンなんていうのがいるんだね(はじめて知った)
天使も、色々と調べてサーバントを作っているんだね

ミハイルと仙也がコテージのすぐ近くで囮をしてくれるから
あたしはコテージに隠れておくよ

サーバントが現れたら、すぐに駆け付けるね
基本は黒騎士の方を狙って行くよ

はじめの5ターンは、グローリアカエル&スタンエッジという射程の短いスキルを、闇渡りを使って再移動して距離をとって安全を確保するよ
(紙防御だからね)

グローリアカエルでレート差攻撃、スタンエッジでスタンさせる、を交互に行うよ
黒騎士は鎧を着ているから、魔法攻撃のうえ、死角から接近して、膝裏とか首のあたりとか、関節部の鎧の継ぎ目を狙っていくね

闇渡りの効果が切れたら、接近しない遠距離範囲攻撃(識別可)のファイアワークスで、バイコーンと黒騎士を纏めて攻撃していくよ

みんなと連携をとるようにしながら
あとはキャンプ場を荒らさないように気をつけて戦うよ
平地の草原とかに誘導したり押しこんだりて戦えればいいね

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部1年8組 女 
「なあにが黒馬の王子様だ。黒馬といえば拳王さまだろう。これ常考。」
などと苦情をいうのは我らがメカ撃退士のラファル。本日は親友の不知火あけびと共に合体技を試すべく依頼に参戦だ。
偽の噂で女より先に男を狙うなんてせこい天魔に呆れを通り越してバカなんじゃねーのっておかんむりも甚だしいありさまだ。まあ、こいつらに限らず悪魔全般にはムカついているんだが。

仲間と連携。
囮役はエカちゃん事ミハイルと逢見に一任してボッチキャンプする彼を遠巻きに見張る襲撃役。
親友のあけびちゃんとともに「光学迷彩」による潜行と草むらに伏せる事で待ち伏せ実施。

敵が現れたら馬から攻撃実施。将を射んとすればまず馬からの故事にのっとって瞬殺する。
トップガンフレームにて機械化は実施済み。
地面すれすれにロケットアンカーパンチ紅蓮龍爪を射出。馬の足をからめ取った後の微細振動で麻痺を付与。足止め。

続いてあけびちゃんの韋駄天斬りに合わせて自身も「魔刃〜」を叩き込んで馬を瞬殺する。
完全な合わせ技は初めてなのでしくじって後々のトラウマにならないように俺自身の方からタイミングを確実に合わせて必ず成功させる

徒歩になった黒騎士が奥の手を隠していることも想定して、再度「光学迷彩」で姿を隠し死角に滑り込み、「謳技〜」にてとどめを刺す。

戦後は合わせ技についてあけびちゃんに好評し褒めて成功体験をしっかりとものにしてもらう。
その後はキャンプの続きでもしようか

巫・夜桜 奏音(jc0588)
大学部3年10組 女 
敵撃破

敵が出てくるまでキャンプをしている仲間の近くのコテージに隠れておく
「男を狙うサーバントですか、また物好きな敵もいたものですね」
「まずは囮役の方に敵をおびき寄せてもらいましょう」
敵が出てきてたら合流したら馬の前面から馬と騎士の攻撃を予測回避で体を低くして横に抜けるように回避しつつ、そのまま馬の顔に下方向から脳を揺らすかのようにしてコレダー
敵の動きが鈍った所をそのまま流れるように横から薙刀で薙ぐようにして片側の足2本を月読で刈り取る
「まだ、攻撃は終わりませんよ」
攻撃後、後ろに抜けて敵の視界の死角をつき、今度は後ろから反対側の足を月読で刈る
騎士の標的になる場合はに一端引き全体を見通し、味方の攻撃と時間差になるようにして、敵がよけにくいように攻撃(状況に応じて先に攻撃か後に攻撃かを決める
馬の機動力を奪ったら、体勢を立て直される前に敵の攻撃を避けながら接近し、馬の心臓あたりにコレダー
「この敵に心臓があるかは知りませんが、これはどうですか」

馬撃破後は、騎士が残っているなら騎士の死角から敵の懐に入り、鎧の隙間か鎧にひびなどの損傷がある部分に向けて攻撃
もし鎧がかけて中が見えているならそこからコレダーで中の敵を攻撃
「鎧で攻撃は通りにくいですが、ここからならきっといけるはずです」

野菜の魔術師・逢見仙也(jc1616)
高等部2年4組 男 
(野菜と野菜と野菜が)焼けましたよー


BBQしながら待つ
二角馬が攻撃したら対処
ミハイルさんに来れば庇護の翼で庇う

受け止めたら騎士の方へスタンエッジ

すいませんお宅の馬に食材ダメにされたんですが?どうしてくれるのか(冤罪に近い+分かってた癖に…)
とりあえず、くたばれ。

以後スタンしている際
強化付与されてないなら魔導号令
されていれば石縛風を使用して行動妨害しつつ鎖で騎士を攻撃
スタンしていなければ再スタン付与
必要に応じて味方を庇護の翼で庇いつつ戦闘

可愛がり(ぶちのめし)終えたら生きてるなら馬へ

回数切の際
号令→祝福(回復+付与)
スタンエッジ→サンダーブレード(麻痺)
八卦石縛風→ファイアシュート(能力低下)
庇護の翼→ブレスシールド(防壁で守備試す)

終了後は怪我人を回復スキルで治療後、BBQ再開
肉を使い切る
経費で落ちますか?(無茶言うな)

せめてユニコーンなら角で杯作るのに
そも騎手なんて…そうか婿探しか(

北風を身に纏い・不知火あけび(jc1857)
高等部2年1組 女 
黒馬の王子様?
騎士とは思えぬ所業だよ!
それに侍の方が格好良い!

目的
黒馬と騎士の撃破

準備
仲間と連携協力
コテージや林の位置を確認
隠れられる場所の目星を付け、遁甲を使いBBQする二人の近く(1Tで駆けつけられる距離内)に隠れる
ラル(ラファル)と技連携の打ち合わせ

戦闘
騎士と馬が現れたらBBQの二人に注意を引いてもらい潜行状態で急接近
不意打ちで馬に雷死蹴し麻痺に
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってね」
馬の足止め後、騎士は仲間に任せ馬退治
常に敵の攻撃対象を確認する
騎士・馬が私を狙う場合は回避専念に切り替え

馬との戦闘
迅速な撃破を目指す
馬なら突進や踏みつけが来るはず。首の向き・進行方向をよく見る
騎士の攻撃に注意しつつ作戦通りラルと連携し挟撃
馬に韋駄天切りを同時撃ちする
「連携ならこっちも負けてないよ!」
挟撃が成功しても油断しない
馬の脚を狙い羽断ち。騎士の足を奪う
騎士組馬組の攻撃の邪魔にならないよう攻撃したら少し下がる
声の合図も積極的に

馬がバステから回復し私達から逃げようとするなら雷死蹴で追う
届かない時は弓で羽断ち
絶対に逃がさない

馬撃破後
騎士がまだ倒れていないなら援護に参加
侍と騎士との対決には興味はあるけど、この敵は騎士とは認めてないから遠慮なくバステ攻撃!
雷死蹴で麻痺に
スキル数0→影縛りにして束縛

戦闘後
BBQ、続きやる?



リプレイ本文

●肉と野菜と黒い馬
「焼けましたよー」
 快晴の元、立ち昇る煙と共に逢見仙也(jc1616)は受け皿を探す。
 時折そよ風が吹いて気持ちが良い。
 スーツを着込むミハイル・エッカート(jb0544)も、一晩たっぷり漬け込んだようなワインレッドのネクタイをわざわざ外さずに済むというものだ。
「おー……って、仙也」
 風上に移動しながらミハイルは仙也の紙皿に目をやる。
 玉ねぎ、キャベツ、人参に南瓜。
「……野菜ばっかだな」
 一応言っておくと、食べられない訳では無い。ミハイル自身も多少ではあるが用意して来ている。
 だが、ミハイルは仙也の受け皿にズイッとトングを突き出す。
「……何です?」
「ピーマン」
 お前だけは許さない。
 知ってか知らずか……いや、仙也のことだから知ってはいそうだが。
 まぁ、口にしなければ良いのだ。
「やだなぁ、食べさせたりはしませんよ。仮にミハイルさんの皿にピーマンが乗っていたとしても、それは僕のせいじゃありません」
 などと、コテージを背に具材を網の上に乗せ続ける。
 無論、これもただ虚しき男二人のバーベキューではない。
 その周囲には、既に二人の周辺を中心に目を光らせている者達が居た。

「男を狙うサーバントですか、また物好きな敵もいたものですね」
 コテージに身を隠す夜桜 奏音(jc0588)もその一人。
 仮面に素顔を隠す黒騎士、それを乗せる黒い馬。
 ごつい鎧に身を包む騎士が男を掻っ攫う光景は、中々想像し難いかもしれない。したくない。
 同じ場所に身を潜ませるRobin redbreast(jb2203)はその馬、バイコーンという名を初めて聞いたらしく、しかしそう思わせるような様子には見え難い。
 瞬きしなければ人工物とも思えそうな翡翠の瞳は、肉と野菜の交わる煙を纏う二人を見つめ、同じ個所を見る黒百合(ja0422)は釣られに来る獲物を待ち侘びていた。
「今回はお馬さん退治ねェ……」
 獲物と嬉遊するつもりか、妖しく笑う黒百合はRobinとも別の笑みを絶やす事は無い。
 かと思えば、隣では歯ぎしりが聞こえて来そうなくらい歯を食い縛る雪室 チルル(ja0220)の姿も見える。
(「うぎぎ……重体じゃなきゃあたいが一番乗りなのに……」)
 傷の具合を鑑みればこの選択は致し方なき事。
 いつもの如く真っ先に向かえば勿論ただでは済まないだろう。

「なあにが黒馬の王子様だ。黒馬といえば拳王さまだろう。これ常考」
 一方でコテージ外にも、自身の光学迷彩により草むらと見事に同化したラファル A ユーティライネン(jb4620)が待機していた。
 意識していない者からすれば、草むらがぼやいている様に聞こえるかもしれない。
「ラル、今回の戦闘だけど……」
 草と木の影に武者袴の身を隠し、同じく景色の中に潜行する不知火あけび(jc1857)は男性二人から目を離さずにラファルへと話し掛ける。
 それを言われて悟ったらしく、ラファルは相変わらずのぶっきらぼうだが自信を感じさせる言葉で返した。
「おーう。アレだろ? 任しとけって。あけびちゃんからぶっ放しちまいな」

 画策する二人の気持ち。未だ奴らが出て来る空気は無い。
(「ぶち殺したら馬刺しにでもしましょうかァ」)
 心躍らせる黒百合と共に、コテージ側も機会を待つ。
 逸る気持ちを抑えるように、奏音は一言放った。
 打ち倒す、その為にも。
「まずは囮役の方に敵をおびき寄せてもらいましょう」


 その頃、広がる草原の中にミハイルの熱い自慢が轟いた。
「俺の彼女はまさに女神だ、天使だ、聖女だ、俺の太陽だ!!」
 誘き出す為とは言え、間近で聞かされる仙也はどう反応すれば良いものか。
 囮としての行動ならば「では僕も」と名乗り出るのが得策かもしれない。その続きを譲る相手が居ないのが惜しいが。
 それ故か、ミハイルの彼女自慢も止まる事は無かった。

 優しくて。
 美人で。
 可愛くて。
 料理が上手くて。
 素晴らしい彼女。

 多分本人がこの場に居れば赤面待ったなしではないだろうか。
 ここまで言われれば認めざるを得ない。
 ミハイルの想い。そして純情な愛を。
 すると、一陣の風が背の低い草々を波打たせた。
 今までおおよそを生返事で返していた仙也が、背後の音に振り返った。
「ミハイルさん」
 合っているようで何処か不釣り合いな蹄の音。
 重なって聞こえる金属の擦れ合う音。
 目の前に広がる湖からゆっくりと反転したミハイルは、それがあけび達のものでも、Robin達のものでも無い事は察しが付いた。
 鼻息荒い二本角。対照に沈黙を守る堅固な黒の外套。
 その黒の鎧は、草原を一気に駆け抜けるとミハイル一直線に突進。
 だが、傍らで広げられた仙也の庇護に阻まれると、弾かれたように旋回して馬上の騎士が大剣を二人へ向けた。

「出たな、黒騎士。お前、中身は女だろう? 男じゃないよな?」
 光纏に染まった銃を構え、前方を闊歩する黒騎士へミハイルは訊ねる。
 が、相手も沈黙を破りはしない。
 代わりに鎧の向こうの眼差しが、返答としてジッとミハイルに向けられた。
「倒して見てみろ、ってことですかね」
 仙也の掌で電気が弾けた。
 一呼吸、直後に文字通り電撃の影が飛び交う。
 十メートル程の距離に在ったコテージからはRobinが飛び出し、黒騎士の目前と自身の足元にとぷんと影を落とすと、林の中より切り離されたラファルのワイヤーランチャーから放たれたクローアームが地を這ってバイコーンの足を狙う。
 その中、ワイヤーに紛れて迫る雷光の紫が一瞬見えた。
 加減が難しかったか、ワイヤーは上手く足には絡みつかなかったが、直接当たった馬の身体にアーム部分が掴み掛かった。
 逆の側面をあけびの刀が一閃。
 到達の間際に力を抜き、無駄を失くした剣閃がバイコーンを斬り裂き、アームから起こる振動と共に、黒馬の身体を鈍らせる。
 ミハイルが電撃を放出すると、バイコーンはけたたましい鳴き声を上げてその場に崩れ落ちる。
 同時に崩れた黒騎士へ仙也は間合いを詰め、物言わぬ兜に向けて言い放つ。
「すいません、お宅の馬に食材ダメにされたんですが?」
 それは先程の庇護の翼を広げた時だ。
 見れば確かに受け皿ごと地面に打ち捨てられている。いや、これに限って言えば何とか救えたとは思うのだが。
 電撃を叩きこまれた黒騎士は同じく膝を突き、すかさず、バイコーンの顔面側へ回り込んだ奏音の掌底が落ちる馬面の下顎を捉えた。
 叩きこまれた掌、放電。
 瞬間にして視界を逆転させたバイコーンに向け、黒百合は槍を大旋回させると地面に突き立て、燃え盛る火炎の渦を解き放つ。
 その後方では、今自分の動ける移動範囲のギリギリまで立ったチルルが氷結の和弓から矢を放ち、荒れ狂う炎を掻き分け砲撃となった氷の一閃を払った。
 たまらず振るい落とされた黒騎士は、直後に妙な危機感を覚え、注意だけ払った。
 その足元、黒騎士の影と混じり存在する一つの黒。
 やはり、正解だった。その場に居続ける事がどれだけ危険であったか。
 地に纏わりつく闇から、更に深い闇を纏って放たれたRobinの弾丸。
 穿たれた鎧はそこに無感情の殺意を垣間見た。
 影を伝って現れたRobinは命中した事を確認すると、再び影へと身を落とす。
 そうして元の位置へと戻れば、今度はミハイルの自在花火が二体のみ目がけて撃ち込まれる。
 景気の良い爆発音だ。派手に飛び散ってくれる。
 だが、黒騎士とてそこまで呆けてはいない。
 馬が駄目になったとしれば、自身の足で迫るのみだ。
 この身体さえ動けば、の話だが。
 先の駆け抜け様にあけびはすぐに反転、二体が動けぬ様子を見て取ると、バイコーンへ迫る中で相棒に目配せした。
「連携ならこっちも負けてないよ! ラル!」
 一呼吸、その瞬間だけ吐息を零して地を蹴れば、向かう先の林からも金色の髪が空を切る。
 火花裂き、蹴った土に音を残し。軌跡に散りしは紫の花弁。
 水平に構えたあけびの軍刀が、彼女の身体ごと疾空一閃し、入れ違いに交錯するラファルの魔刃が、あけびとほぼ同時にバイコーンの身へと到達。
 あけびが置き去りにした真空の風は斬撃の音と化してバイコーンの身を斬り刻み、刃と同時に送り込んだラファルのナノマシンが斬撃直後にバイコーンの内側を滅ぼしていく。
「将を射んと欲すれば」
「まず馬を射よ、ってね」
 壮絶な嵐の後、静かに奏音は薙刀を向けた。
 刃を煌めかせるは太陽の光。
 太陽の陰にまた月光も有り。
 降り注ぐ月光の欠片は、奏音の薙刀へと収束する。
 そうして輝く薙刀に手を添えた奏音は、振り払った薙刀から月の力を解き放ち、バイコーンの前脚から直線を走らせた。
 重ねて、チルルの氷砲が地を裂いてバイコーンの身体を撃ち抜き、ミハイルと黒百合、火花と劫火の祭りが二体を巻き込んで踊る。
 あけびが羽断ちならぬ足断ちによって二度目となる脚への斬撃を受ける間、ラファルは光学迷彩を展開して潜行。
 ようやくバイコーンが意識を取り戻せば、背で声が聞こえた。
「まだ、攻撃は終わりませんよ」
 奏音が付きの光を解放する。バイコーンの、後ろ脚へ向けて。
 前後の脚を失ったバイコーンは最早立ち上がる力も無く。
 哀れにも自慢の二本角を見せつける事無く、最後に一鳴きだけすると、血だまりの中に伏せたまま痙攣を終わらせた。

 同時に気絶をかましていた黒騎士。これは一度目の月の光。
 混じって放たれたRobinの電撃に、黒騎士は再び意識を落とした。
 仙也が湧き起こす号令、噴出する水のような力で周囲及び自身の魔力を高めた横で、チルルの放った氷砲がバイコーン目がけて駆けていった。
 最後の月光がバイコーンを絶命させると、光を飲み込みながら黒騎士へ放たれたのは、Robinによる闇の弾丸だった。
 それによって黒騎士の鎧が後方にぐらつけば、その方向からミハイルの花火と共に黒百合が飛び掛かり、肉体操作した牙を鎧に立てる。
 Robinが狙った箇所もそうだったが、この鎧、決して継ぎ目が無い訳でも無ければ、隙間も有る。
 そこへ黒百合は牙から毒を流し込み、鎧を足蹴りにして飛び退く。
 さて、彼女の毒には幻覚物質が含まれている訳だが、無抵抗な様子を見る限りきっと黒騎士もこれに侵された事だろう。
 騎士の視る夢は絶望か快楽か。
 この場に敵対する者達が皆、美男の王子にでも見えたろうか。

 答えは聞いちゃいない。

 仙也が舞い上がらせた砂塵によって身を固めさせられると、いよいよ眼前へ迫ったチルルの両手から形成されるは氷の剣。
「っけえぇぇ!!」
 天高く突き上げられた氷剣が内包しきれぬ冷気を放ちながら、黒騎士の身へ振り下ろされる。
 鉄球にも似た、それ以上の衝撃が兜から垂直に走り、散った氷の礫を纏ってミハイルの銃弾が撃ち込まれる。
 その銃弾から電撃が発せられたように見えたが、これはRobinの放出したものだ。
 銃弾、電撃、加えて連撃にあけびの雷遁が黒騎士を襲う。
 こうした攻撃の数々から生まれた数ある死角。その内の一つに彼女は潜む。
 描かれた星は五芒星。
 ラファルが動くと同時に、その星が乱れた。瞬間。
 銅鑼を砲撃したような音が、辺り一面に広がった。
 その姿誰一人見る事叶わず。
 黒騎士の堕ちたその背後に、ラファルは悠然と降り立ったのだった。


「やー、良かったぜ。ナイスあけびちゃん」
「ラルこそ! 決まって良かったよ」
 戦闘後に、ラファルは早速あけびに対して好評を述べた。
 敵の動きを封じたタイミングで放てたというのも、技の成功率をあげたかもしれない。
 仙也が自分の傷を癒す中、ミハイルは黒騎士へと屈む。
「ミハイル、何してるの?」
 Robinがそちらを見れば、彼は兜に手を掛け、力を込めているようだ。
「こいつの……! 取れん……! 素顔を拝んでやろうとな」
 最初にも質問したが、黒騎士が女かどうか確認する為だ。
 誤解はしないで欲しい。他の女に興味が有る訳では無く、そっちのケに狙われていなかったという安心感が欲しいだけなのだ。
「あたいも手伝うわ!」
 そう言って、チルルも兜の出っ張りを掴んだ。
「固ってぇな。ラファル、そっち持っててくれ」
 頷くラファルが黒騎士の身体を押さえつける。
 先に首が取れそうだ。
 すると、まるで蕪が抜けたように勢い良く黒騎士の兜が外れた。
「あら……」
 先に声を出したのは奏音。本気かどうか、馬刺しに使えるか話し合う黒百合と仙也も何事かとそちらを振り向く。
 覗き込んだ面々がどう声を掛けてやるか悩む中、Robinはおっとりとした口調で口を開いた。
「ミハイル、これ」
「よし」
 Robinの声に食い気味に、ミハイルは黒騎士へ踵を返してサングラスを押し上げる。
「よし……俺達は何も見なかった、良いな」
 有無を言わせぬ彼に、あけびはやっと声を掛ける事が出来た
「バーベキュー……続きする?」
「する」

 戦いのせいか時々コンロが上手く機能しない分は、仙也のトーチで炙り焼きに。
 この時を見越して買った肉が、油をしたたらせて口へ運ばれるのを待っている。
 光沢と網目の付いた厚めの肉をタレに染みこませ、鉄串に通した肉野菜もその頃には鮮やかさに少しだけの焦げ目を付けていた。
「肉焼けたよー」
「待てあけび、それは俺が育てた肉だ!」
 ミハイルとあけびの間で静かにゴングが鳴る。
「まだ残ってんだからそう焦んなって」
「賑やかねェ……」
 鉄串を頬張るラファルと、それを鑑賞する黒百合。今、酒缶が零れたのは取り合う二人の身体がチルルの頭上を掠めて台に当たったからだろう。
「そう言えばァ……結局見られたのかしらねェ」
 先程離れていた黒百合は、黒騎士がどうなったのかを確認しないままに終わった事を思い出す。
「あぁ、それでしたら」
 仙也は語る。
 焼け爛れたような皮膚。目も口も開付いているか定かではなく、兜一杯に収まりきらない程肥大化した顔。
 最早人の形としての原型を留めてはいない。一様に抱いた感想は。
「まぁ女……には見えませんでしたね」
 化物……。
 プリンを手に取るミハイルはその光景を思い出した。
 女なら良かった。男だったほうがマシだったかもしれない。
 ミハイルは、今更ながらに最初に向けられたゾッとするような眼差しも思い出すと共に、パンドラの箱を覗いたような気がした。
(「化物にも好かれちまったか……?」)
 そう思いながら、デザートのプリンを一口。
 もしかしたら、新たな境界線に臨んでしまったのかもしれない。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:5人
MVP一覧
 ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
 北風を身に纏い・不知火あけび(jc1857)
重体一覧
 −

ちのうしすうがたかい・
雪室 チルル(ja0220)

高等部2年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部1年3組 女 鬼道忍軍
階段を上りし者・
ミハイル・エッカート(jb0544)

大学部4年9組 男 陰陽師
バラクラバー・
Robin redbreast(jb2203)

高等部2年2組 女 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部1年8組 女 鬼道忍軍
巫・
夜桜 奏音(jc0588)

大学部3年10組 女 アカシックレコーダー:タイプB
野菜の魔術師・
逢見仙也(jc1616)

高等部2年4組 男 ディバインナイト
北風を身に纏い・
不知火あけび(jc1857)

高等部2年1組 女 鬼道忍軍


依頼相談掲示板

黒馬と来たら拳王様だよな(相談
ラファル A ユーティライネン(jb4620)|大学部1年8組|女|鬼道
最終発言日時:2016年09月03日 21:21
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月01日 08:21


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