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【鳩山由紀夫元首相大いに語る(上)】民主党政権時代の分裂騒動を振り返り、「あれを見て国民はこの政党ではダメだと確信を持ったと思います」

【鳩山由紀夫元首相大いに語る(上)】民主党政権時代の分裂騒動を振り返り、「あれを見て国民はこの政党ではダメだと確信を持ったと思います」

産経新聞のインタビューに応じた鳩山由紀夫元首相。民主党政権時代の反省などを大いに語った=9月14日、東京都千代田区(伴龍二撮影)

 「民進党は、保守リベラルの色を出せ!」。旧民主党の鳩山由紀夫元首相が14日、産経新聞のインタビューに応じ、民進党の蓮舫新代表に対する期待のほか、国政選挙での野党共闘や原発政策、日中、日露関係など日本が取るべき針路について直言した。詳細は次の通り。(政治部 清宮真一)

 --安倍晋三政権の1強体制が続いている

 「昔、(英国首相だった)サッチャーさんがおっしゃっていましたけど、政治がうまく機能するためには強い野党を持たなければならない。二大政党を、(政治の)緊張感を高めるためには野党がしっかり強くなければならないということをおっしゃっていましたが、その通りだなと思っています。今の状況を見てね」

 「私から見れば、安倍政権、憲法に対してなんぼのもんだという感じでしてね。自分がやれば、それが憲法なんだというくらいの気持ちに高揚しているように見えるんです。だから、変えてしまえという気持ちを持っておられるんだろうと思います。わたくしも憲法改正論者ではあるんですけれども、方向性は違うので賛同はできませんが、安倍政権をここまである意味、彼らの思い通りに、あるいは日本会議の思う通りにかもしれませんが、リードさせてしまっているというのは、野党の大きな責任だと思います。きっかけを作ってしまった私にも責任があると自覚しています」

 「私が首相を辞めてから…2010(平成22)年ですから、そこからたって、まだこういう野党の存在というものが国民に見えてこない。対抗軸というものを作るべき時に、対抗軸が見えていない。むしろ共産党のほうがきちっと見えているという状況は、私からみると、非常に寂しいですね」

 「国民は白けてしまうと思う」 

 --7月の参院選では、32の改選1人区で野党が統一候補を立てて自民党候補と争った。野党共闘の評価は

 「野党共闘もそれなりの効果はあったと思います。ただ東北、北海道ですよね。そこでは非常に効果があった。よく見れば、東北、北海道というのは農業地域で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に反対するというか、農業者がこのままの政治ではいかんということで、野党を応援した。統一ならば応援しやすいということで勝利を得たんだと思いますけどね。だから、非常に限定的だったというふうに思います」

 「効果がなかったとは言いません。私が申し上げたいのは、統一というものを目指すんだったら、その前に、こういう日本にしたい、国民のみなさんにこういう社会を作るから、こういう考え方で行くから、そのためにこの指止まれで一緒にやろうじゃないかという機運を作れば、自然と国民の共感が得られると思うんです。ただ生き残りのために、みたいな話になると、どうしても国民は白けてしまうと思います。今の安倍政権のままでいいというのだったら別だけど…それなら対抗軸を作る必要はないんですけど。対抗して新しい政治の流れを作りたいというのであれば、どういう新しい流れなのか。あるいは安倍政権に対して、ここははっきり違うぞという柱を3つ4つ、きちんと示しきれば、わたくしはもっと国民の共感が得られたと思いますしね」

 --代表選で蓮舫氏ら3候補は、野党共闘に関し、民進党が示す政策や国家像に他の野党が共感するかどうかだと言っている。そこの考えは近いのか

 「民進党が何をやりたいかという軸が、私にはまだ見えていないんですよ、十分に。いやいや、これからの代表選の中(※インタビューは代表選投開票前日の14日)で見えてくるのかもしれませんけども。まず、三者の違いが最初のころはよく分からなかった。それ以上に、今の政権に対して、例えば原発問題についてどう違うのか。憲法問題はどう違うのか。それから(沖縄の在日米軍)基地問題はどうかというところをもっとはっきりしていくことができているのかどうかと思うんです。どうもそこのところが曖昧で、政権を取ったというところでTPPも、菅(直人元)首相の時に言い出したものだとか。原発も菅さんのときに起きた事故だとかですね、いろいろそういうものがあるだけに野党になりきれていない。そういうところがありますよね」

米軍普天間飛行場の移設「大変失敗した」 

 「国民の意思はもっと別のところにあるんです。(沖縄県宜野湾市の米軍)普天間(飛行場)の話は(名護市)辺野古で、私も大変、沖縄のみなさんにはご迷惑をかけて、怒りを買って、大変失敗したと思います。しかし失敗している私が今、沖縄のみなさんにどういう風に思われているかというと、どこの地域よりも沖縄のみなさんが私に優しい。それは、間違ってしまったことに、やろうとしたことができなかったことに、当然けしからんことだけども、沖縄のほうを向いてくれたよねと。沖縄の県民に対してちゃんと目を向けてくれているのかというところが、今の民進党に(ない)。安倍さんにもないですけど。安倍さんが強引すぎるところが、とても許せないところもありますけども、野党がどういう主張をしているかというところが、どうもはっきりと見えていない。私に責任があることは自覚しながら申し上げています。今の沖縄県民のみなさんの気持ちに、もっと理解を示す努力をする必要があると思います。今、沖縄では民進党という声を聞かないですよ、全く。存在しているの、という感じに思われている」

 「一事が万事、沖縄の問題はそうだけど、全国的に民進党が伸び悩んでしまっているところは、わたくしはそこにあると思っていまして。確かに、政権を経験しましたよ。しかし、ずっと政権を経験していた自民党が野党になると、極めてはっきり、与党に対抗して違いを際立たせますよね。国民のみなさんに選択肢を与えることがわたくしは大事であると。一言でいうと、産経新聞さんとは違うかもしれませんが、保守リベラルの色を出せということを強く主張したいですね。与党であったことの責任感を今も感じすぎているということですよね。そこはある意味、必要なことかもしれませんよ。国民はもっと分かりやすい政治を求めていると思いますね」

 --前原誠司元外相は代表選で自らを「戦犯」などと反省している

 「その過ちを認められたということは、いいことだと思いますよ。前原君も今までの考え方をかなり変えたというふうにうかがっています。それこそ沖縄の問題にもっと向き合おうよというお気持ちになっているとお聞きしますし。あと(慶応大学経済学部教授の)井手(英策)先生にご指導いただいたらしいですけども、『All for All』(みんながみんなのために)とかおっしゃっていますし、そういう発想が今までの前原君の、内政に対する考え方とだいぶん変わってきたというふうに思いますから。ですから、間違ったときには間違いを認めて、それこそ与党時代に考えていたことが間違っていたと認めて、それを正すという努力をすればいいかと思いますよ。ただ、わたくしは2009(平成21)年のマニフェストは、根本的にそれを見直さなければいけないと思っていないんですよね。玉木(雄一郎衆院議員)君は『こども国債』とかおっしゃっていますけど、子供に焦点を当てるとか、命を大切にするという政治はわたくしは大事だと思うし、その原点みたいなものは、(蓮舫氏ら)3人もある意味で、理解されているのかなと思いますけどね」

原発再稼働「民進党以上に、もっと厳しく」

 --安倍政権の対抗軸として原発政策を挙げた

 「原発は、できるだけ早い時期にゼロにすべきだと思います。ですから再稼働などというものは、よほどのことがない限りすべきではない。完全に安全だという場所が日本にはどうも存在しないように私には思えます。活断層の上に日本列島がある。本来なら、熊本などは大きな地震が起きないだろうと思われていたところで、実際には大変な地震が起きている。どこでも大きな地震が起きないとはかぎらない。それに対する備えとか、避難のしかたとか、本当にできているのかというと、どうもそうは思えない。少なくとも私にはそう思えるものですから」

 「それから現在の福島の状況ですよね。福島は、東京五輪でかき消されているように思えてなりません。まだまだ、福島で苦しんでおられる方はたくさんおられます。同時に汚染水の処理も全然できていないし、基本的には垂れ流されている部分がある。これは、全部が全部をくみ取れないから仕方ないんだという話はあるかもしれませんが、それでも海を汚している話です。アンダー・コントロールとは、とても言える状況ではありません。まさに小泉(純一郎元)首相がおっしゃった通りのことだと思います。元首相ですけど」

 「ですから、事故が起きたときの処理がいまだに極めて不十分で、しかもそこで起きていることをつぶさに見ると、既得権の取り合いみたいなことで、本当に必要なことがなされていないから、一番、不利益を被っているのはそこにもともと住んでおられた方々ですよ。もっとその方々のために、どうやったらできるだけ早く元に戻れるような環境になるのか。そのためには除染をどうすればいいのかということを(きちんと検討すべきだ)。どうも環境省がうまく働いていないようですが。本気で役所のエゴみたいなものを取り去って、行ってもらわないと福島だけでなく、日本中がどんどん汚染されてしまうんじゃないかと私は心配しています」

 「『完全に大丈夫だ』という状況とは、ほど遠いにもかかわらず、やっぱり原発は必要なんだからね、というふうに安易に再稼働させるのは私は反対です。ですから民進党以上に、もっと厳しく原発政策は行うべきだ。一方で自然エネルギーをもっと急速に展開させなければならないのに、北電(北海道電力)もどこもそうなんでしょうけども、ある一定以上は引き受けられないという。買い取らないというんでしょう。むちゃくちゃですよ。全部引き取りますよというくらいやらないと。何を考えているのか。完全に世界から遅れていますよね。世界では、自然エネルギー、風力が原発を超え、太陽が原発を超える。そこまで来ているんですよ、全体では」<

 《鳩山氏は眼前の机を小さく指でたたき、いらだちをにじませる》

 「日本は全くそうじゃない。原発は今、ほとんど動いていないから。火力なんでしょうけど。その意味でもっと厳しく検証すべきであって、アンダー・コントロールといって(東京五輪を)招致したわけですよね。それが今、大変になっていますよね。大変な問題になっています。既得権の奪い合いで、あらゆるところに利権争いがあって、利権で物事が決まってしまう世の中になっていること。そのことによって国民に、偏ったところに利益はいくんでしょうけども、多くの国民に不利益が与えられてしまう状況は、野党がよほどしっかりメスを入れないといけないと思います」

 --代表選で、そこはあまり論戦の対象になっていない

 「3人があまり違わないからだと思いますが(苦笑)。本当はもっとこういう問題、私は基地と原発、2つが大きなテーマで、3人が国民に訴えながらやり合ってもらいたいと思います。ところが、民進党の方針にみんな従うというだけの話なんじゃないですかね。もっと違いがあっていいですよね」

 --代表選の論戦では、3候補の主張がだんだん収斂されていった感じだ

 「国民のみなさんからすると、関心が出ないということになっちゃうでしょ。私が、菅さんと横路(孝弘元衆院議長)さんと代表選を戦ったときは、改憲、護憲…みたいに、結構激しくやっていました。そのくらいやっていたほうが、メディアでたたかれたこともありましたけど、国民のみなさんから見れば議論しているなということが伝わるわけです」

 --そして決まったら、きちんとまとまるかということだ

 「そうですよね。政策で、論争してもらいたいですね。…持ち上げて涙を流した方もおられたようですが」

旧民主党政権時代の分裂「前代未聞で致命傷」

 --政権末期に党が割れたことについて前原氏が謝罪した

 「私は政権党が分裂するのは前例未聞だと思うんですよね。ああいうふうに大きく。政権党は政権を維持しなければならない。そのためには意見の相違があっても、好き嫌いがあっても一緒にやっていこうねと、いざというときには求心力が働かなければならないけれども、最後まで遠心力で追い出してしまったでしょう。あれを見て、国民のみなさんはこの政党ではダメだというふうに確信を持ったと思います。ま、それ以外にもいろいろあったと思いますけど。国民のみなさんだって、いろいろな考えを持っているわけですから。その人たちを政治が統治していこうとすれば、考え方や好き嫌いでケンカして分かれて、こっちの人たちのためだけでいこうとすれば、そういうのを見せてしまったら、国民はぞっとしますよね。野党の場合は意見の違いで分かれるということは、政権を取っていないのであり得ると思いますけど、政権与党が分裂騒動を起こしたということが、私は民主党にとって致命傷だったと思うね。それに対して間違っていたと理解して、ならばどうするかということで、例えば前原君が代表になったらもう一度、(生活の党と山本太郎となかまたち代表の)小沢(一郎)さんに一緒に協力を求めるということが当然、あってしかるべきだと思いますね。そこまで多分、考えておられるんじゃないかなと期待しますけど」

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