1年前のきょう未明、全国各地での反対行動のなかで、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法が成立した。

 「違憲法制」との批判に対し、安倍首相は「これから粘り強く説明を行っていきたい」と語った。だが、その後の姿勢はその言葉とはほど遠い。

 野党5党が国会に提出した廃止法案の審議に与党は応じなかった。夏の参院選でも首相ら与党幹部の言及は限られた。

 一方で、自衛隊は安保法による新任務の訓練を始め、政府は着々と運用に動きだしている。

 この1年、北朝鮮は核実験やミサイル発射を重ね、中国の軍拡や海洋進出も続く。日本周辺の情勢をみれば、安全保障環境は厳しさを増している。

 だが安保法の違憲の疑いは、1年たったからといって晴れるわけではない。参院選で与党が勝っても、廃止を訴えた野党が負けても合憲にはならない。

 安保法については違憲訴訟が続いている。自衛隊は世論の後ろ盾を欠いたまま任務の遂行を求められる。そんな事態は避けねばならない。

 なぜ「違憲」なのか。国会審議をおさらいしておく。

 政府は一貫して「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」との立場をとってきた。2年前に一転して「行使できる」と唱え始めたときの論拠は、集団的自衛権と憲法との関係を整理した1972年の政府見解だ。

 ところが、この見解の結論は「集団的自衛権は行使できない」なのだ。その文章を変えることなく、解釈を百八十度ひっくり返した。

 理由を問う民進党の小西洋之参院議員らに、内閣法制局長官は「(見解の中に行使容認の)法理としては当時から含まれていた」などと答えた。

 けれど、72年以降の歴代政権も内閣法制局幹部も「行使はできない」と答弁し続けてきた。昨夏の週刊朝日の取材に、72年当時の幹部は「これを根拠に解釈改憲なんて夢にも思っていなかった」と語っている。

 政府の説明は説得力を欠く。

 安保法の成立時に、安倍首相は「時がたてば間違いなく理解は広がっていく」と述べた。

 だが、朝日新聞の今春の世論調査では、安保法が憲法違反と思う人は50%、違反していないと思う人は38%。安保法に賛成の人は34%、反対は53%。国民は納得していない。

 政府が安保法の運用に向かうなか、臨時国会が26日に始まる。憲法審査会でも他の委員会でもいい。与野党は安保法を改めて論じあうべきだ。