こんにちは、おっさんです。
ちょっと忙しい一週間を過ごして、久しぶりに映画を見る時間を作れました。 明日も行けるといいんだけど、どうにか時間捻出できるといいなぁ。
さて、本日は『レッドタートル ある島の物語』です。
スタジオ・ジブリが8年を欠けて完成させたという映像作品となり、全編にわたってセリフが基本的に存在しないなど、挑戦的な映像作りが話題となっているみたいですね。早速レビューしていきたいと思います。
http://piacinema.xtwo.jp/contents/google/flyers/T01a_169398.jpg
幻想文学の系譜に連なる作品
幻想文学というジャンルの文学作品群が存在します。
超自然的な事象など、現実には起こり得ない、架空の出来事を題材にした文学の総称。幻想的な文学作品。
定義は様々ですが、ストーリーを描く大衆的な文芸に対して、神秘的な、あるいは幻想的な芸術性に特化して描写する作品、と考えればいいでしょうか。 芥川龍之介や谷崎潤一郎、泉鏡花など、数多くの作家がこうした作品群を残しています。
単純に不思議な情景を描写することが目的ではなく、その根底に流れる普遍的なテーマを追求しているジャンルでもあります。
本作においても、何が起きているのか、なぜそうなったのかは一切説明がありません。
ただ、その幻想的な世界観で「いのち」の価値をただただ追求する映像美がある、不思議な心地よさが得られる作品であり、一種の幻想文学の系譜に連なる作品だと考えればいいでしょう。
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マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督について
本作の監督である、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットはオランダに生まれ、スイスで銅版画等に用いられる表現技法のエッチングを学んだあと、イギリスでアニメーション製作に携わったという異色の経歴の持ち主。
1994年の『お坊さんと魚』、2000年の『岸辺のふたり』などで高い評価を得ています。とくに『岸辺のふたり』は第73回アカデミー賞の短編アニメ賞を受賞した他、英国アカデミー賞でも短編アニメーション部門を受賞している監督です。
この『岸辺のふたり』、わずか8分の映像なのですが、これに描かれた独特の美的感覚がジブリ関係者の目に止まり、本作のオファーに繋がったとのこと。その感覚は本作中にあふれていて、何が起きているのかは分からないが、とにかく美しい何かを見ている、という不思議な感覚を与えてくれました。
また、絵本の制作も手掛けており、絵本作家テオとともに共同制作した絵本『オスカーとフー』は、日本でも評論社から発行されたとのこと。たしかにこの作風は絵本に向いている気がします。 多感で感受性の高い子どもに、なにか大事なことを教えてくれる、そんな本を作ってくれそう。
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『レッドタートル』のストーリーについて
本作のストーリーについて、出来る限りネタバレ無しで書いていこうと思います。 というか、バレに当たるようなネタを読み取れない、というか、本当に何が起きていたのかは、正直見終わった今でもわからないのです。なのでネタバレ無し、で分類しました。
本作は嵐の場面から始まります。
主人公はその嵐の中で遭難しもみくちゃにされ、やがてひとつの島にたどり着きます。なぜ嵐にあったのか、海の上で何をしていたのかは一切語られません。おそらくは本作のテーマにおいて不要、ということなのでしょう。 この島ですが、ウミガメの産卵地やカニ、海鳥など多様な生き物が住む穏やかな島として描かれています。
水場、当面の食料の確保に成功した主人公は、島に自生していた竹類の枯れ木を材料に筏を作って脱出を試みますが、何度やっても失敗。どうやら海中から何者かに妨害されている様子。 3度目の失敗の際、主人公は赤いウミガメに出会うのです。
その出会い以降、映像は一気に幻想的な雰囲気を帯びていきます。 夢か現か、海岸に現れては消える楽団、海に掛かる橋等々。
そしてあの赤いウミガメに海岸で再び出会い、物語は再び流転することになります。
その後に描かれているのは一つの家族の形。文明もない、他に誰もいない、だから言葉のない世界で、家族の営みと愛情が描かれるのです。ときには致命的な災害にも出くわしますが、その家族は奇跡的にそれも乗り切ることに成功します。
やがて子どもは独り立ちの時を迎え、主人公も穏やかな余生を過ごすことになります。 そして最期の時を迎えたとき、あの赤いウミガメが再びスクリーンに現れ、スタッフロールが流れ始めます……
挑戦的なシナリオ
上記の通り、ストーリーは幻想的な性格を帯びており、細かい説明は一切ありません。
なにかのエピソードがあり、それを乗り切って、ただただ日々の営みを過ごしていく。
そして、作中には一切の台詞がありません。そこにあるのは自然の音と主人公たちの息遣い。BGMを除けば「生き物が生きていくときに必然的に聞こえる音」以外がないという徹底ぶりに、気がつくと見入ってしまっていました。
今思い返しても不思議なシナリオというか、映像美の極致だったと思います。
ジブリといえばわかりやすい冒険譚を軸にシナリオをつくるスタジオですが、この作品にはそういった脚色要素は一切なく、ただ必要なシーンを愚直に時系列に合わせてつないでいった、という素朴とも言えるような作り。 その中に幻想を混ぜ込んで、映画を見ているうちに気がつくとこの世界に取り込まれるような不思議な感覚が襲ってきます。
“楽しい”ではなく、“面白い”あるいは“興味深い”と感じさせてくれる作品でした。
終わりに
久しぶりにこういう作品を見た気がします。
昨今の映画ってエンタメ性というか、エンターテインメントとしての完成度がイコール映画としての面白さみたいなっ評価のされ方をしていたことが多かったと思うのですが、元来映画ってそういうものだけじゃなかったはず。
そういう映画の可能性をもう一度確認しよう、というジブリの攻めの姿勢が感じられる作品でした。
ただ、ジブリ映画を期待していくと多分何が起きているかわからないうちに終わっててポカーンとするんだろうな。ちょっと前のフランス映画とか、全体的に静かで、テーマだけを感じさせるような映画が好きな人には見ていただきたい作品ですね。
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