永青文庫は、中世には室町幕府三管領の一角を占め、江戸時代には旧熊本藩主を務めた、細川家に伝わる歴史資料や美術品を扱う博物館。1950年、16代当主の細川護立(もりたつ)により、同家の敷地跡に設立された。
本展では、2階から4階まで3つの展示室を使い、細川家と関わりの深い刀剣や武具、それらにまつわる資料を紹介している。もともとは細川家の事務所として使われていたというモダンな館内に、石川も感銘を受けた様子。扉や階段の手すりなど、当時の面影が残るポイントに足を止めながら展示室に向かった。
繊細で奥深い、刀装具に見入る
「刀装具の世界─肥後金工と細川家─」と題され、2階の展示室に並ぶのは、刀の鐔(つば)の数々。手を守るため、刀身と柄の間に挟み込んで使う武具だ。細川家が治めた熊本の「肥後金工」は、布目象嵌をはじめとする繊細な細工を特徴とする。
橋本の「軽くてかさばらない鐔は武士のお土産としても喜ばれ、肥後金工は江戸でコピー商品が出回るほど人気がありました」という解説に、石川は「現代でいうスマホケースみたいですよね。人気の商品はすぐに類似品が出回るところも同じ」と独自の視点でコメント。繊細な職人技に熱心に見入っていた。
文化人の家系・細川家のコレクション
3階では、「細川家の武器武具の記録」「宮本武蔵と細川家」として、資料や調度品のほか、細川藩に仕官していたと伝えられる宮本武蔵に関連する武具を紹介している。『御甲冑等之図』(家中拝領品目録)に描かれた、長い角が付いた「変わり兜」を見た石川は、「すごく派手! これでは戦場で目立ってしまいそうですが...」と質問。橋本が「下克上の戦国時代は、戦場での手柄が大きな褒美や出世を決定づけます。派手な兜を身につけると自分が狙われるリスクは高くなるけれど、手柄を挙げたのが誰か、確実に特定できますから」と解説した。
また、「幽斎と古今伝授」のコーナーでは、「歌仙兼定」を愛用した細川忠興(ただおき)の父・幽斎ゆかりの国宝の「古今伝授の太刀」こと《太刀 銘 豊後国行平作》(平安〜鎌倉時代)を展示している。橋本が「艶やかな地鉄や、のびやかで独特のカーブが魅力的。実は私のイチオシです」というこの刀には、石川も思わず足を止め「かっこいい!」。
武将ながら一流の教養人でもあった幽斎。和歌の奥義「古今伝授」を継承していたため、関ヶ原の戦いでは石田三成方の大軍に囲まれ籠城を余儀なくされながらも、後陽成天皇の勅命で命を救われた。この刀は、講和の記念に勅使であった烏丸(からすま)光広に贈られたものだと聞き、「思った以上に壮大な歴史の物語があるんですね。見た目もかっこいいし、もし刀剣乱舞にこの刀が出るならこの役もやりたいな(笑)」と想像を膨らませていた。
いよいよ「歌仙」にご対面!
4階は永青文庫の創設者である細川護立のコレクションを集めた「細川護立と刀剣」、そして「歌仙兼定」を含む「細川忠興の愛刀と肥後拵」のコーナー。いよいよ石川界人と「歌仙兼定」こと《刀 銘 濃州関住兼定作》(室町時代)が対面する。
橋本によれば、忠興が嫡男の側近36人を手打ちにしたという伝承を持つことから、和歌の名手「三十六歌仙」にちなんで「歌仙」と名付けられたというこの刀。「ゲームの収録時から名前の由来のストーリーを聞いていて、伝説上の刀というイメージが強かったので、実際に対面することができて驚いています。出身地である文京区のこんなに近くにあったなんて、不思議な縁を感じました」と感慨深げに心境を語った。
実際の刀に対面し、擬人化されたキャラクターを演じている石川はどのような印象を受けたのだろうか。「『刀剣乱舞』の歌仙兼定は風流を愛する雅なキャラクターなので、他の刀に比べて渋い雰囲気は意外ではありました。でも、収録中のアニメ版(『刀剣乱舞-花丸-』)では、洗濯などの地味な仕事も好きという設定なんです。太刀などに比べて小回りがきくつくりなど、刀の実用的な部分は、彼の性格に反映されているのかもしれないです」。
『刀剣乱舞-ONLINE-』に出演するまで、日本史や刀剣にあまり関心を持ったことがなかったという石川だが、「刃文の違いや反り具合といった細かな違いを目にしたり、刀がつくられる工程について聞いて、刀剣のかっこよさや鑑賞のポイントがわかりました。細川家にまつわる様々なストーリーも小説のなかの出来事のようで面白く、日本史にも興味をもつきっかけになりました」という。「アニメのアフレコ現場でも自慢したいです(笑)」と、モチベーションが高まった様子だった。彼が演じる風流なキャラクターには、文化人を多く輩出している細川家のイメージが投影されているのかもしれない。
連日賑わいを見せている本展の会期は、10月2日まで。文京区、『刀剣乱舞-ONLINE-』を制作するニトロプラスとコラボレーションしたパネル展示などのイベントも、近隣で同時開催されている。
PROFILE
いしかわ・かいと 声優。1993年東京生まれ。主な出演作に『境界のRINNE』(六道りんね役)、『僕のヒーローアカデミア』(飯田天哉役)、『ハイキュー!!』(影山飛雄役)など。2014年、「第8回声優アワード新人男優賞」受賞。ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』、アニメ『刀剣乱舞-花丸-』(2016年10月2日よりテレビアニメ放送開始)で歌仙兼定役を担当している。
はしもと・まり ライター、編集者。2016年より永青文庫副館長。1972年神奈川県生まれ。著書に『京都で日本美術をみる 京都国立博物館』(集英社クリエイティブ)など。『美術手帖』2016年1月号「村上隆」特集では監修を担当した。
会場:永青文庫
住所:東京都文京区目白台1-1-1
開館時間:10:00~16:30(入場は16:00まで)
休館日:月
入館料:一般 1000円 / 大高生 400円 / シニア(70歳以上) 800円 / 中学生以下無料
URL:http://www.eiseibunko.com/
*「2.5次元文化」を特集した『美術手帖』2016年7月号では、『刀剣乱舞』の舞台版を取り上げ、「三日月宗近」役を演じた俳優・鈴木拡樹らのインタビューも掲載している。
(撮影=稲葉真、ヘアメイク=菊池由美、取材・文=編集部)