その中でも、ファンと球団が一体感を持つことができる、赤のデザインの威力は見逃せない。
目で見えるもの、記憶に残る装置としてのデザインが効果的に展開されている。赤というカラーデザイン、カープ坊やというキャラクターデザイン、カープ女子というネーミングなど、球団がコントロールしていないものも含めて、市民参画の形で自然発生的にデザインが生まれ育っているようにも見え、それは素晴らしいことに思える。
プロ野球チームの価値は勝敗以上に、いかに地域が誇れる市民の財産になっているかどうかが重要であると、改めて感じさせてくれるのである。
鉄道が地元に親しまれるためには
鉄道も同じく地域に親しまれる市民の財産であってほしい。今から3年前、広島地区に約30年ぶりに新製投入する車両の設計を始めるときに、そのような思いを抱いた。
というのは、それまでの広島地区には国鉄時代の古い車両しかなく、必ずしも地元からは親しまれている状態ではなかった。地域に親しまれることを目的としてはいたものの黄色一色の電車は、広島が愛する色ではなかったのだろう。ネット上では自虐的に「末期色」とも呼ばれていたようである。
しかしこれらの利用者の想いは、非難だけではなく、自分たちの鉄道はこうあってほしいという親しみを裏返した表現でもあったのだろう。
約30年ぶりに新車投入が決まった時、経営トップからは、「広島エリアにとってのJR」、「JRにとっての広島エリア」はなんであるかを、よく考えるように言われた。広島駅に行ってみるとそこには、東京や鹿児島に向かう新幹線の大きな看板が掲げられ、在来線ネットワークの駅という印象を持ちにくかった。
記憶に残らないものは、親しまれることはない。そこでまずはネットワークを知ってもらう仕掛け、車両を知ってもらう仕掛け、それらをトータルにデザインすることが必要であると考えた。そしてそのデザインワークを地元のGKデザイン総研広島とパートナーを組んで取り組んだ。広島の、広島による、広島のためのデザインである。