人の発達について研究する学者はたくさんおり、各自がそれぞれ専門とする切り口で研究を行っています。
スイスの心理学者ジャン・ピアジェは、子供の認知機能(思考)に関する発達理論を提唱した人物で、質問と診断による臨床的な研究方法を確立したことでも有名な人物です。
ピアジェが唱えた発生的認識論は、子供の認知機能の発達を知る上で様々な気づきを与えてくれるもので、その考え方は教育をはじめ多くの分野で今もなお息づいています。
この記事では、ピアジェの発生的認識論に見る人の発達について、紹介します。
ピアジェの発生的認識論(発達段階の理論)とは
発生的認識論とは、心理学者ジャン・ピアジェが提唱した、人の認知機能(思考)は、環境との相互作用によるもので、段階的に発達していくものではなく、転換点(認知機能が質的に変化する時期)があると考える理論です。
発生的認識論では、人は、もとから持っているシェマ(認知の枠組み)を介して、周囲の物事を把握すると考えます(同化)。
そして、人の認知機能は、もとから持っている枠組み(シェマ)では対処できない状態(不均衡)にさらされた時、元の枠組みを修正・変化させて(調節)、対処可能な状態(均衡)へともっていくことで発達していくと説明されています。
また、認知機能が発達すると、頭の中である行動をイメージ・再生し、それを行うことでどのような結果がもたらされるかを想像できるようになる(操作)という説明もあります。
発生的認識論で出てくる単語の意味(シェマ、同化と調節、均衡化、操作)
- シェマ(認知の枠組み)
- 同化と調節
- 均衡化
- 操作
どれも日常生活ではあまり聞かない独特な言葉なので、簡単に紹介しておきます。
シェマ(シェム、認知の枠組み)
シェマとは、人が環境と相互作用する時に用いる認知の枠組みのことです。
簡単に言うと、自分の周囲の物事を把握するための知識や行動です。
新生児期から乳児期は、原始反射など生まれ持った反射や感覚的な運動がシェマの中心ですが、環境との相互作用を繰り返すことで絶えず変化し、より複雑なものになっていきます。
同化と調節
同化とは、人が環境に適応するための機能で、周囲の物事を、もともと持っているシェマに取り入れていくことです。
言い換えると、シェマ(認知の枠組み)に基づいて、周囲の物事を把握することです。
例えば、赤ちゃんは、いつもお世話してくれる人が黄色くて細長い物をくれた時に、もともと持っている「ママ」、「バナナ」というシェマに基づいて、「あ、ママがバナナをくれた。」と認識します。
調節とは、もともと持っているシェマでは対処できない場面に直面した時に、シェマを修正・変化させることです。
ある出来事が、もともと持っているシェマで理解できない(解決できない)時に、シェマを変えてその出来事を認識するということです。
例えば、バナナというシェマを持たない赤ちゃんにとって、ママから差し出される黄色くて細長い物は、単なる得体のしれない物体ですが、「バナナ」というシェマを取り入れてシェマを修正することで、バナナという食べ物を認識できるようになります。
シェマは、同化と調節を繰り返すことによってより複雑に発達していくものです。
均衡化
均衡化とは、同化と調節の繰り返しによってシェマを追加・修正することで、ある物事について安定して対処できる状態にもっていくことです。
均衡化を繰り返すことで、周囲の物事に対して安定して対処できるようになり、また、シェマをより高次なものに変化させて、ある物事に対してより高次な認識をできるようになります。
操作
操作とは、行動を脳内でイメージとして内在化し、行動から生じる結果を想像することです。
つまり、ある行動を頭の中でイメージ・再生し、ある行動がどのような結果を生むかを想像するということです。
ピアジェの発生的認識論における認知機能発達の4段階
ピアジェの発生的認識論では、操作のレベルに応じて、人の思考(認知機能)発達を大きく4つの段階に分けています。
- 感覚-運動期
- 前操作期
- 具体的操作期
- 抽象的操作期
感覚-運動期(生後0歳~2歳頃)
感覚-運動期とは、感覚(見る、聴く、触るなど)と運動(つかむ、つまむ、噛むなど)によって外界を把握、認識する段階です。
年齢で表すと、生後0歳~生後2歳頃までです。
乳児期前期の頃は、隠された物が消えてしまったと誤解します(物の永続性を理解していない)が、乳児期後期ころから見えなくなっただけだと理解できるようになります。
例えば、いないいないばあで遊んだ場合、乳児期前期だとパパママがいなくなったと思ってキョトンとしますが、乳児期後期になると、「顔が見えなくなっただけで、すぐまた見せてくれる。」と理解するようになります。
また、物事をイメージ(表象)で考える力もついていきます。
前操作期
前操作期とは、外界の認識が感覚と運動(活動)から操作へ発達していく過渡期です。
延滞模倣(ある行動を時間が経ってから真似すること)、ごっこ遊び、絵を描くといった行動が可能になる時期です。
年齢的には生後2歳~生後6歳(小学校入学前)頃です。
言葉を使って考える力、物事を概念として捉える力、推理する力も芽生えてきますが、基本的には感覚に左右される直感的な思考が多く、自己中心的です。
例えば、自分が感じたことは他人も同じように感じていると思ったり、物の見た目が変わると量や数も変わったと考えたりします。
具体的操作期
具体的操作期とは、具体的に理解できる物事については論理的に考えることができるようになる時期です。
年齢でいうと、生後7歳~生後11歳頃です。
物の見た目が変わっても数や量などが同じであると理解できる(保存の概念の獲得)ようになり、物の簡単な性質や共通点に基づいて考えることもできるようになります。
また、自分と他人の考えや感じ方が違うことを理解し、ある物事を違う視点から見て、そこで得た情報をまとめて適切な判断を下せるようになります(脱中心化)。
例えば、特定の性質を持つ物をグループ分けしたり、立体模型を別の角度から見た時の見え方を推理したりできます。
一方で、抽象的な物事になると論理的に考えられなくなるのもこの時期の特徴です。
抽象的操作期
抽象的操作期とは、具体的な物事にとらわれず、抽象的に考えることができるようになる時期です。
生後11歳頃以降に抽象的操作期に入ると考えられています。
仮説に基づいて結論を出したり、ある結果を生み出すための過程を系統的に調べたり、物事の変化が連続的・複合的に起きていることを理解したりできるようになります。
まとめ
ピアジェの発生的認識論の基礎を紹介しました。
発生的認識論の知見は、知育のカリキュラムや知育遊びの方法、知育玩具などで活かされているので、知っておくとより適切に知育に取り組むことができるはずです。
発達の4段階については、近いうちにより詳しい内容を紹介したいと思っています。