これまでの放送

2016年6月2日(木)

街路樹が倒れる そのワケは?

阿部
「街を歩いていると、こんな思いがけない危険に遭うかもしれません。」

私たちに潤いを与えてくれる街路樹。
しかし…。
突然倒れるなどして、歩行者が巻き込まれる事故が各地で起きています。

広島県では、倒木により、50歳の女性が死亡。




 

川崎市では、ケヤキの大木の枝が落下。
幼い女の子が頭の骨を折る大けがを負いました。



 

自治体の中には、本格的な調査や対策に乗り出したところもあります。
その結果、倒木のおそれがある街路樹が予想以上に存在することが分かってきました。


 

樹木医
「下手すると倒れる。」



 

なぜ今、街路樹が危険な存在になっているのでしょうか。
そして、有効な対策はあるのでしょうか。

阿部
「国の調査によると、日本全国に街路樹は675万本あります。
街路樹が盛んに植えられたのは、高度経済成長期です。
道路の整備にともない、排気ガスなどに対する『環境対策』や『景観の美化』。
そして、火災の時に延焼を食い止める『防災』などの目的で植えられました。」

和久田
「どんな木が多いかと言いますと、1位はイチョウ、2位はソメイヨシノなどのサクラ、3位はケヤキです。
専門家によりますと、それぞれの寿命は数百年、70年、150年と言われています。
しかし、植えられてから、まだ40〜50年にもかかわらず、各地で街路樹が倒れるなどの事故が起きています。
木の老朽化が早く進んでいるのです。」

阿部
「一体、なぜなのでしょうか。
そこには、街路樹ならではの理由がありました。」

予想を上回る 街路樹の老朽化

およそ7,000本の街路樹を管理している高知市です。
去年(2015年)11月9日、市街地の道路脇にある街路樹が、風もないのに倒れる事故が起きました。


 

田上幾太郎(おはよう日本)
「午後1時過ぎ、こちらに植えてあった街路樹が突然倒れました。」



 

高さ5メートルのプラタナスの木。
幸い、ケガ人はなかったものの、建物のガラスを直撃しました。



 

地元住民
「急に倒れてびっくりした。
倒れることない、あまり。」

地元住民
「怖いですね。
もし自分が通った時だったらと思うと。」
 

このプラタナスは、植樹されて40年ほど。
根元が腐り、幹の中に空洞ができていました。
市は、植えてから25年以上経つ街路樹の緊急点検を実施しました。
その結果、倒木のおそれがある木が、185本も見つかったのです。

 

高知市職員
「中が空洞になっている木が予想以上に多かった。」



 

市は、倒木のおそれがある木の多くを伐採しました。
街路樹は、環境対策などのため、新しい木に植え替えるのが原則ですが、作業はあまり進んでいません。
予算が足りないからです。
高知市が、街路樹の維持管理にかける予算は、年間およそ1億円。
ほとんどは枝を切ったり、消毒したりする費用に使われます。
予想より早く街路樹の老朽化が進んでいるため、植え替えの予算を捻出できないのです。

高知市 都市建設部 みどり課 濱田泰広課長補佐
「普通はこんなに倒れること、切ることはないので、なかなか1年間では植え替えられないというのはある。」


 

全国各地で起きている倒木事故。
なぜ寿命より早く、老朽化が進んでいるのでしょうか。

街路樹の老朽化 そのワケは?

樹木医 板倉賢一さん
「(木の)肌がぼろぼろ。」



 

長年、全国で街路樹の診断を行ってきた、樹木医の板倉賢一さんです。
老朽化を早める原因は、主に2つあると指摘します。



 

まず、植えられた環境が木の成長を阻害していることです。
街路樹は、道路や排水溝などに囲まれ、自由に根を張れず、十分な栄養を吸い上げることができないと言います。


 

樹木医 板倉賢一さん
「私(が木)だったら逃げるね。
こんな所に植えられちゃったら、(木は)逃げようがない。」


 

そして2つめの原因は、キノコなどの菌が寄生しやすいことです。

樹木医 板倉賢一さん
「これがベッコウダケというキノコ。」

街路樹は、歩行者が根を踏んだり、自転車を幹に立てかけたりして、傷が付きやすいと言います。
その傷から菌が入り込み、根や幹を腐らせるのです。
 

樹木医 板倉賢一さん
「(木が)スカスカになる。
こいつ(キノコ)にやられるとスポンジみたいになる。
どんどん木の寿命は落ちていく。
それは間違いなく、その通りになる。」

始まった倒木対策 街路樹の再生は

市民の安全、そして維持・管理コストの両面を考え、思い切った対策に乗り出した自治体もあります。
10万本以上の街路樹を管理する名古屋市です。


 

これまでは、市内全ての街路樹について、健全な状態なのか、治療や伐採が必要なのかを調査。
1本1本、対応を行ってきました。
しかし、コストも掛かる上、倒木のリスクを完全に無くすことはできません。
 

そこで、市は去年、「街路樹再生指針」を打ち出しました。
アオギリなど、高度成長期に植えられた木の多くを伐採。
代わりに、ハナミズキなど、コンパクトな木に植え替えることにしました。

 

名古屋市 緑政土木局 緑地維持課 川崎淳裕課長
「今までの管理だけでは、せんてい(枝切り)中心の管理だけでは限界。
ひとつの街路樹の転換期を迎えた。」


 

市は、作業を行う土木事務所に新たな方針を伝えています。

「アオギリより、一回り小さい高木に(植え)変える。」

ハナミズキは、制約された環境でも根をしっかりとはり、菌への耐性も比較的強いことから、倒木のリスクが少ないと言われています。
さらに、コスト面でもメリットが。
アオギリなど成長の早い木は、毎年剪定が必要で、1本あたり年間およそ2万円の維持費がかかります。

一方、ハナミズキの植え替えは、1本およそ20万円ですが、成長が遅いため、10年程は剪定する必要が無く、長期的にはコストが抑えられると市はみています。


 

「我々が日頃苦しんでいる、維持・管理費のコスト縮減ということが、10年単位で取り組むことができる。」



 

名古屋市は、今後5年間で、およそ5,000本を植え替えることを目標にしています。
予算を大きく増やさずに、倒木への対策を進められるのか。
他の自治体から注目が集まっています。

 

阿部
「街路樹の問題は、限られた予算の中で対策を迫られているという点で、高度成長期に作られ老朽化した公共インフラと同じ課題を抱えています。」

和久田
「こうした中、国は、各自治体がどのように街路樹などを管理しているか調査し、今年度末をメドに維持管理に関する指針をまとめるとしています。」