住んでいる地域が突然、豪雨や地震などに襲われる。その時、住民を守る最前線となる市町村の役場で何が起きるか。

 台風10号に見舞われた岩手県岩泉町は、9人が亡くなった高齢者施設の周辺に避難勧告を出していなかった。担当職員は、近くを流れる川の水位が勧告基準を超えたことをパソコンで確認していた。しかし、ほかの電話対応に追われて町長に報告できなかったという。

 そんなバカな、と誰しも思うだろう。だが、他のまちでも同様の事例が報告されている。

 ちょうど1年前。茨城県常総市のある地区では、避難指示が伝わらぬまま鬼怒川の堤防が決壊した。市の依頼で、大学教授らが関係者にインタビューし、検証報告書を6月にまとめた。

 浮かび上がったのは、業務の激増に追いつけない災害対策本部の混乱ぶりだ。

 中核となるべき防災の担当課は、聞こえにくかった防災無線の問い合わせなど約2千本の電話に手をとられた。「地理はわかっているから」と本部に大型地図は掲げられず、被害の全体像の把握に後れをとった。職員の役割分担も不明で、場当たり的な対応が繰り返された――。

 思わずため息が出るが、自分が住む自治体ではあり得ない話だと言い切れるだろうか。

 ひとたび大きな災害がおきれば、住民への情報伝達や避難所の開設、受け入れなど、自治体は一度に多くの仕事をかかえ込む。一段落した後も、罹災(りさい)証明の発行業務などが続く。

 しかし、職員数が200人以下というところがいまや全国の4割を占める。岩泉町は183人、熊本地震に襲われた南阿蘇村は165人。多くの場合、その職員らも被災する。庁舎は壊れて使えないかもしれない。

 役場も機能不全に陥るという想定に立って、日ごろから対策を練っておく必要がある。

 課や係の垣根を越えて仕事を担い、総力戦でのぞむのは言うまでもない。都道府県庁や周辺自治体、ボランティアの協力もあおがねばならない。事前に協定を結び、実務に即した訓練を積んで、組織を動ける状態にしておくことが欠かせない。

 政府は、市町村の機能が低下しても大事な仕事は続けられるように、業務継続計画の作成を求めている。だが、整備したのは4割にとどまる。小さな自治体ほど人手やノウハウの不足が障害になっているといい、丁寧な支援が求められる。

 災害大国日本。過去の混乱に学び、備え、次の混乱の回避につとめたい。