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石川

命の重さ 人形に込め 闘病経験、中能登の菊谷さん

「ストラップや人形が交通事故が減るきっかけになればうれしい」と話す菊谷久江さん=石川県中能登町高畠で

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交通安全願い贈り続ける

 石川県警七尾署に今月上旬、交通安全を呼び掛けるストラップと、おじいさんとおばあさんのかわいらしい人形が届いた。作ったのは同県中能登町に住む菊谷久江さん(65)。5年前から毎年、ストラップと人形を贈り続けている。(松村真一郎)

 きっかけは八年前に患った重い病だった。一九七七(昭和五十二)年に同じ町の泰明さん(68)と結婚。泰明さんの実家の「きくや写真館」を夫婦二人で営み、長男と長女も誕生。幸せな暮らしを送っていた。

 ところが、二〇〇八年五月、両足の付け根にしこりができた。病院で診てもらうと、医師から予想もしなかった言葉を受けた。「末期の悪性リンパ腫です。このままだと一、二カ月ももたないでしょう」。病巣は全身に広がっていた。頭が真っ白になった。「覚えてないけど、涙があふれて体が震え、周りの人に慰められていたと聞いた」

 翌日から闘病生活が始まった。抗がん剤治療で髪の毛は抜け、食欲も落ち、体重は十キロほど減った。それでも、泰明さんは毎日、忙しい日でも見舞いに来てくれた。「家族の支えがあったからこそ、つらい闘病生活に耐えられた」

 病院での一日は長い。そこで始めたのが手芸だった。もともと小物作りが好きで、毛糸の人形や折り紙を作っては、ベッドの横に飾ったり、他の患者に配ったりしていた。「作ったものをあげると喜んでくれてね」。笑顔を見ると、張り詰めた気持ちが楽になった。

 半年後に退院。その後も二年間は、半年ごとに一カ月間の入院が必要だったが、三年目からは年に一回の検査で済むまでに回復した。一度は危ぶまれた人生を再び歩むことができるようになった。

 「誰かの役に立ちたい」。一瞬で命を落とす交通事故を減らしたいという思いも重なり、趣味の手芸を生かした人形作りを思い立った。人形は小さく折った紙を組み合わせる地道な作業。犬やカエルなど毎年異なるデザインを工夫し、ストラップも合わせると一年がかりだ。

 功績をたたえられ、一四年十月に七尾署から感謝状を受けた。「これからも続けたい。来年は何を作ろうかしら」。頭の中は早くも次の作品について考え始めている。

 人形は署の窓口に飾られ、ストラップは二十二日、同町井田のアル・プラザ鹿島で行われる町女性協議会の交通安全啓発活動で配られる。 

 

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