巷のダイエット法はよく「筋肉を鍛えれば基礎代謝が増えて痩せ体質になれる!」などと言います。しかしこれを「それは嘘。筋肉量増大の基礎代謝アップなんてたかがしれてる」と捉えている人も多いと思います。どっちが本当なのでしょうか?
実際には、この「筋肉量増加による基礎代謝アップ効果」について、「大した影響はない」とする否定説と「それなりに効果がある」とする肯定説があります。じゃあ私たちは一体どうとらえておけばいいのか?両方の説を簡単に確認しながら考えてみたいと思います。
筋肉による基礎代謝ってどれぐらい?
有名なのはElia(1992)の研究で、体の器官・組織の安静時代謝率を調べたものがあります。基礎代謝が横になった状態で測る消費カロリーであるのに対して、安静時代謝はイスに座った状態で測る消費カロリーで、基礎代謝の1.2倍ほどの値になります。Eliaの研究結果を表にすると、それぞれの期間・組織での安静時代謝率はこうなります。
器官・組織 | 1kgあたりの安静時代謝率 |
---|---|
肝臓 | 200kcal |
脳 | 240kcal |
心臓 | 440kcal |
腎臓 | 440kcal |
骨格筋 | 13kcal |
脂肪 | 4.5kcal |
その他 | 12kcal |
ちなみに2012年の研究で、このElinの数値を改めて評価した研究もあります。間接熱量測定やMRIを使って測定した結果、肥満女性の場合はEliaの数値と少し離れたが、肥満でない女性の場合は大方一致したといっています。これを見ると骨格筋は1kgあたり13kcalに過ぎず、腎臓などの器官と比べると大分小さいことが分かります。簡単に考えると、例えば筋肉が5kg増えたとしても消費カロリーが65kcalしか増えないということですから、そう考えると「筋肉を鍛えて基礎代謝を増やせば痩せ体質になれる!」というのは間違いではないけどちょっと大袈裟に言い過ぎかな、という感じがします。
否定的な研究と肯定的な研究
しかし他の研究を見てみると、レジスタンストレーニング(筋トレ)による基礎代謝アップ効果に否定的な研究だけでなく、肯定的な研究もあることが分かります。
否定的な研究で有名なのはEric T. Poehlmanら(2002)による研究で、肥満でない女性に半年間レジスタンストレーニングをしてもらった結果、除脂肪体重(脂肪以外の体重)が平均1.3kg増加したにもかかわらず、1日あたりの消費カロリーには特に目立った変化がなかったといっています。
逆に肯定的な研究としてはDolezalら(1998)の研究があり、健康な男性に10週間のレジスタンストレーニングを行ってもらったところ、基礎代謝を高める効果があったといっています。結果を見ると、除脂肪体重1kgあたり約50kcal増加したようです。
国立健康・栄養研究所の田中茂穂氏はそのホームページ内で、筋肉と基礎代謝の関係についてこう話しています。
「筋肉だけが増え、筋肉1kgあたりの代謝量が変わらないのであれば、基礎代謝量は13kcal増えるということになるはず。しかし筋肉だけでなく内臓や神経、骨など全て含む除脂肪量でみると、筋トレによる除脂肪量1kgの増加につき基礎代謝量は50kcal近く増える傾向にある。ただし50kcalという数値はいくつかの報告を大雑把にまとめたものにすぎないので、「13kcalよりは大きそうだ」くらいに考えておいたほうがよいように思える」
過度な期待は禁物か
以上のことを考慮してまとめると、「筋肉を鍛えれば基礎代謝アップはある程度望めるだろうが、あまり過度な期待はしないほうが無難」といったところではないでしょうか。少なくとも「筋トレで基礎代謝を上げれば寝てても太らなくなる!」などということはあり得ません。実際、筋肉量が多い人でも食べ過ぎればわりと簡単に太りますからね。
巷のダイエット法は「筋肉を鍛えて基礎代謝を上げ、痩せ体質になろう!」とやたら煽りますが、ダイエットにおける筋トレの主目的はあくまで「筋肉の減少を食い止め、しなやかで美しい体を作ること」です。基礎代謝アップの効果は「おまけでついてきたらラッキー」ぐらいに思っておくとちょうどよい気がします。