特集:夏に備える家づくり

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

日本の夏、もはや「エアコンなし」がダメな理由
夏に備える家づくり(6)

(2/2ページ)
2016/6/28 6:30
保存
印刷
その他

■日本の夏と冬はどちらも結構厳しい

 フランス・パリは意外と湿潤で、1年を通して乾球と湿球の差は小さい。しかし、夏でも乾球温度が低く涼しいので、対流・放射といった発汗以外の方法で十分に放熱ができるから快適である。冬はそれなりに冷え込むが、ちゃんと暖房設備が充実している。賃貸アパートでも暖房18℃までは家賃に含まれるなど、快適に暮らすことは「当然の人権」と認識されている。

 フィンランド・ヘルシンキとなると夏は温度が低いので、もっぱら冬の厳しい寒さ対策が最重要となる。こうした「冬に専念」できる地域では、建物も冬仕様で造られている。しっかりした家に守られて、寒い冬も室内で快適に過ごすことができる。

 さて、我が日本の東京を見てみると、世界の中でも厳しい夏と冬が「両方」あるという、かなり難しい気候であることが分かる。夏は乾球温度が高いだけでなく、湿球温度は23℃以上と湿潤で「蒸し暑い」。冬はパリと大差ないほど冷え込み、しかも乾球・湿球の差が大きめで乾燥ぎみでカラカラなことが分かる。このように、夏と冬のどちらも人間にとって厳しい日本。夏冬の「両面作戦」を強いられてきたことが、日本の家の性能向上の足かせになってきたことは否めない。

■「温度を下げる」か「湿度を下げる」

 夏に強いはずの人類といえども、高温多湿な湿球温度が高い気候は厳しい。放射・対流などの乾性放熱を増やすためには「乾球温度を下げる」こと、発汗による湿式放熱を増やすためには「湿度を下げる」こと。少なくともどちらかができなければ、放熱手段は八方ふさがり。もはや、打つ手がないというのが人体の本音である。

 エアコン以外の様々な冷房手段が提案されている。しかし正直なところ、温度と湿度をキチンと下げることができる経済的な機器は、“悪名高き”エアコンをおいて他にない。日本の気候の厳しさを直視して、毛嫌いせずにエアコンを有効に省エネに利用する方法を考えた方が良さそうである。

■高齢者は熱中症のリスクを忘れずに

 温度・湿度の調整は、単に快適か不快かの問題では済まない。2014年の夏に救急車によって搬送された熱中症患者は、全国で男女合わせて1万人以上に及んでいる。最高気温の上昇とともに人数は増加し、患者の33%は住宅内で発生している(図3)。

図3 2014年の全国における熱中症の発生状況。住宅において高齢者が熱中症になるケースが多いことが分かる(出典:国立環境研究所環境健康研究センター 熱中症患者情報速報平成26年度報告書)
画像の拡大

図3 2014年の全国における熱中症の発生状況。住宅において高齢者が熱中症になるケースが多いことが分かる(出典:国立環境研究所環境健康研究センター 熱中症患者情報速報平成26年度報告書)

 特に高齢者は、体の温熱感が鈍くなっており、また発汗能力が低下している場合もあるので危険。室温の上昇に気付かないまま倒れるケースが相次いでいる。

 むやみにエアコンを危険視する風潮は、こうした健康や命のリスクを犯している。ヒートアイランド現象や地球温暖化により近年の気温は上昇傾向にあるとされ、夏の暑さはさらに厳しくなる可能性が高い。日本の夏の手強さを再認識し、必要と感じた時には無理せずエアコンをつけることをお忘れなく。

前真之(まえ・まさゆき) 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。

(書籍『エコハウスのウソ[増補改訂版]』の記事を再構成)

[参考]「エコハウス」と聞いて思い浮かべる住宅のデザインや暮らし方の多くが、真の省エネにはつながっていない。東京大学で省エネ住宅を研究する気鋭の研究者が、実証データやシミュレーション結果をもとに、一般ユーザーや住宅関係者が信じて疑わない“エコハウスの誤解"をバサバサと切っていく。初版発行後に明らかになった新たな知見や、2020年の「省エネ基準義務化」などについて大幅に加筆した。

エコハウスのウソ[増補改訂版]

著者:前 真之
出版:日経BP社
価格:2,484円(税込み)

特集:夏に備える家づくりをMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

  • 前へ
  • 1ページ
  • 2ページ
  • 次へ
保存
印刷
その他

電子版トップテクノロジートップ

関連キーワード

エアコン家づくり

日経BPの関連記事

【PR】

【PR】

特集:夏に備える家づくり 一覧

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

図3 最近の住宅では南面に全く庇がない場合をよく見かけるが(左上)、8月、9月の太陽高度が低くなる時期には大量に日射が侵入するので内カーテンでは防げない(右上)。横からの強烈な西日は樹木程度では防ぎきれない場合が多く(下)、きちんとした外部での遮蔽が必須となる(資料:前真之)

熱対策やっかいな屋根 高反射塗料などで多層防衛

 今年の夏も関西地方を中心に猛暑が続いた。できれば、暑さから解放されて涼しい家で過ごしたいものだが、省エネに詳しい東京大学大学院准教授の前真之氏は、「夏偏重の省エネ対策」を疑問視する。南面の日射遮蔽を…続き (9/13)

リストラすべき内部発熱 効果絶大「LED化」

 省エネ住宅の説明では、「夏の断面図」を目にすることが多い。だが、省エネに詳しい東京大学大学院准教授の前真之氏は、「夏偏重の省エネ対策」を疑問視する。2回にわたり、住宅内の温度が上がる理由を前氏に解説…続き (9/6)

強い日差しの下、タオルを頭にのせ歩く子どもの姿も(18日午後、東京・銀座)

日本の夏、もはや「エアコンなし」がダメな理由

 何かと目の敵にされるエアコン冷房。それでは、エアコンなしで人間は夏を乗り切れるのだろうか。エアコン冷房は、ただのゼイタクなのだろうか。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している東京大学准教授…続き (6/28)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

日経産業新聞 ピックアップ2016年9月16日付

2016年9月16日付

・JBCC 25社と組み監視カメラ使うソリューション開発
・植物の成長2倍早く 上智大が確認
・自動変速で攻めの走り ホンダ二輪が進化
・ソーダニッカ 中国・広州に石化樹脂の営業拠点新設
・シンフォニアテクノロジー 植物工場向け設備に参入…続き

日経産業新聞 購読のお申し込み
日経産業新聞 mobile

[PR]

関連媒体サイト