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第10話 強者ゆえの抑圧・2
大将軍ヒルダの「手足を拘束されたい」という願望は、今までレントが催眠をかけてきた人々にはなかったものだった。
彼女は強すぎたがゆえに、誰かに負けるということへの関心を募らせてしまったのか。そういった理屈を考えるよりも、今は彼女の願望を満たすべく、必要な道具を調達する。
部屋を出て、隣室で控えていた迎賓館に勤める部下の女性を呼び、レントは道具を持ってくるように頼んだ。
「長く、細い縄を持ってきてください。4本ほどあるといいですね」
「かしこまりました。レント様、蝋燭や鞭などは必要ないでしょうか?」
「い、いや。そこまでの責め苦を加えるつもりはありませんよ」
「っ……そ、そうですね、そこまでするのは、よほど倒錯した趣味をお持ちの場合のみですね」
縛るだけでも倒錯しているとレントは自覚しつつ、部下が持ってきた縄を受け取り、再びヒルダの客室に入室する。
「……こ、こんな格好で待たせるとは……私にこんな屈辱を与えて、どうするつもりだ……っ」
「そんなに顔を真っ赤にして、喜んでいるじゃないですか。もっと素直になっていいんですよ」
ヒルダはベッドの上に、バスローブのままで正座をさせられ、後ろ手にレントの持ち合わせていたハンカチで縛られていた。
前に突き出した胸を隠すこともできず、バスローブの前を閉じることも禁じたため、露わになった深い谷間を隠すこともできない。そして何よりこの姿では、立ち上がれば絶対に下着が見えてしまう。
「ヒルダさんは、黒が好きなんですか?」
「っ……そ、それがどうしたというのだ。いつも黒だったら、騎士としてふさわしくないというのか?」
「いえ、すごく色っぽいと思っただけです。僕も理性の化け物というわけではないのでね」
拘束せずに対峙すれば、素手でも男性の騎士を圧倒するだろう大将軍が、レントが近づいてくるのをただ待つことしかできずにいる。
ヒルダは戸惑いを顔に出しつつ、正座をしたままベッドサイドに立つレントを見た。彼は縄を置くと、それをどうするかと考えた後で、ヒルダの瞳が力を取り戻し始めていることに気づいた。
「……僕に屈したいと言ってましたが、それは全力で抵抗して、それでも僕に組み敷かれたいということですか? 手を縛られた状態でも、それは大変そうですね」
「レント殿の実力を伝え聞く分には、手の自由を奪えば、私の抵抗を封じることなど、赤子の手をひねるようなものだろう……しかし私には、まだ足が残っているぞ」
催眠が効いていても、大将軍としてのプライドまで完全に奪われたわけではない。強気なことを言うヒルダを見ていると、レントの中にこれまでとは違う感情が生まれる。
(俺の中にも、強気な女将軍を屈服させたいという気持ちはあったようだな……しかし、見た限りすごく筋肉がついてるわけじゃないが、抵抗されると怪我をさせてしまいそうだ)
レントの習得しているランス流剣術は、剣士は武器の扱いだけでなく近接戦闘全てを学ぶ必要があるとしており、格闘術も習得する範囲に含まれている。
だが全力で格闘するよりは、レントはヒルダのつやめいた肌に傷をつけないためにも、使える方法は使っておくことにした。こちらを油断なく見つめるヒルダに手をかざし、眠りの魔法を発動する。
「っ……う……け、剣士が、魔法を……魔法剣士だというのか……っ」
すでに催眠にかかっていたことに、ヒルダはまったく気が付いていない。レントの習得した魔法は催眠だけではなく、古代語魔法の中では基礎に含まれる眠りの魔法など、多岐にわたっていた。
ヒルダは魔法に抵抗する術を持っていたが、しかしレントの魔法の効果が勝り、ついに睡魔に屈して、ベッドの上に横たわる。
起きた時には、ヒルダの願望を叶えられているといいが――そう思いつつ、レントは細いながらも、強靭さを感じさせるヒルダの手首を手に取り、細い縄を決してほどけないように巻き付け、結び始めた。
◆◇◆
「……ん……」
ヒルダは眠りの魔法が効いている間に、自分がレントに捕らえられ、どことも知れぬ部屋に幽閉され、彼の責め苦を受ける夢を見ていた。
夢の中で、ヒルダは両腕を鎖で吊られ、足も広げられたままで、枷を嵌められて固定されていた。その状態で、口には猿ぐつわをつけられ、身動きが取れない状態で、レントが持っているものを使って――
「っ……!?」
そこまで思いだそうとしたところで、ヒルダは自分の現在の状態を自覚した。
ベッドの端にある、四本の支柱。そこに縄が縛りつけられ、両腕と両足を広げられたままにされている。
バスローブがかろうじて胸を覆っているが、下着は隠すこともできず、男性に一度も見せたことがないというのに、足の間にはレントがあぐらをかいて座っていて、ヒルダの姿を頬杖をついて観賞していた。
「なっ、何をっ……このようなこと、許されてなるものかっ……」
「何を言ってるんです、あなたがこうして欲しいと言ったんじゃないですか。本当はどう思っているんです?」
「わ、私は……だ、大将軍として、どのような責めを受けても、屈するわけには……っ」
「まだ建前を言う元気は残っているということですね。分かりました、時間をかけて素直にさせてあげますよ」
「す、素直に……一体何をすると……言うのだ……っ」
レントの縛り方は、そういった行為に手慣れているのではと思うほど、ヒルダの自由を完全に奪っていた。
力を入れて引っ張っても緩まず、足も広げられたままで、閉じようとしても閉じられない。その足の間にレントが座っている状況は、ヒルダに貞操の危機を強く意識させた。
(し、しかし……この男、縛り上げるまで体に触れた様子がない……いや、もう好き放題にされているのか……そ、そんなことになったら、私は……私はっ……)
「おや……どうしたんですか?」
「……き、聞かないで……」
ヒルダはもじもじと足を閉じたそうにする。騎士としての気丈な口調が消え、すでに彼女の『女将軍』としての矜持が折れかけているのだとレントは理解する。
「本当に無理やりにされたいんですね。じゃあ、そうしてあげるのが僕で良かった。あなたみたいに綺麗で優秀な女性を、他の男性に好きにされるのは、あまりいい気分がしない」
「……そ、そんなおためごかしはいらない。私は決して……くっ……屈し……ない……っ」
「もう、はっきり言うこともできないじゃないですか。でもまだ頑張るというなら、僕は止めませんが……」
「っ……な、何を……っ」
レントはヒルダを縛り上げた後に用意した羽箒を両手に持つ。それをヒルダの内腿に近づけると、ヒルダはそれだけで耐えかねて、ベッドを動かしそうなほどに体を跳ねさせた。
しかし迎賓館のベッドの作りは、大将軍でも容易に壊せるようなものではなく、四本の支柱はビクともせず、ヒルダの手足を拘束したままでいた。
そのうちにヒルダは全身にしっとりと汗をかき始める。その息が荒くなり、抵抗の意志が失われてきたことに満足を覚えつつ、レントは次の段階に進もうとする。
「……ま、待てっ……」
「そろそろ見せてもらいましょうか……もうバスローブは必要ありませんからね」
「そ、そんな……っ……!」
レントはバスローブの前を、片方ずつ開いていく。ヒルダはとても見ていられないというように目を逸らし、常に甲冑に包まれてきた豊かな胸が、ついにレントの目にさらされた。
(こんなことを望んでいるなどと、なぜ私は、こんなに……こんな嗜好をしていると知れたら、周りにどれだけ蔑まれることか……そ、それでも……それでも……どうして、続けて欲しいと思うのだろう……)
ヒルダの心臓は壊れそうに高鳴り、羞恥のあまりに感情の抑制がまったくできなくなっていた。
涙ぐんでレントを見つめ、ヒルダは何かを言おうとする。しかしそれは言葉にならず、荒く吐息をつくことしかできない。
「まるで少女のようですね。ヒルダさんにも、こんな可愛いところがあったんですか」
「わ、私は……可愛く、など……こんな格好をさせておいて、よくそんなことを言う……っ」
「すみません。でも僕は、あなたの願望を満たしてあげたいだけです。さあ、続けさせてもらいますよ」
「っ……」
優しい口調で語り掛けていながらも、レントの目には確かな熱があった。
その目で見つめられると、自分が求めてきた強者に屈したいという思いをかなえてくれるのは、目の前にいる少年のような顔をした青年なのだという思いが湧く。
ヒルダはレントを見つめるうちに、わずかに残った理性を少しずつ溶けさせていった。
――『我は其の求めに応じ、其は我が命に従う。意のままに動くものなり』――
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