福島原発凍土壁 効果の見極めが急務だ
東京電力福島第1原発の汚染水対策が行き詰まっている。地中に氷の壁を築いて地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」の効果が、運用開始から半年たっても表れていないのだ。この間、敷地内のタンクに保管している放射性汚染水は増え続けている。
政府と東電は、凍土壁の効果の見極めを急ぐとともに、代替策についても検討を始めるべきだ。
福島第1原発の原子炉建屋には、山側から大量の地下水が流入し、溶けた核燃料に触れるなどして高濃度の放射性汚染水が発生している。これを食い止めることが、廃炉作業で当面の最重要課題となっている。
東電は、建屋に流入する前の地下水をくみ上げて流入量を減らす対策などを進めてきた。
これに加え、流入を断ち切る抜本的な対策として計画されたのが、凍土遮水壁だ。1〜4号機の建屋の周囲約1・5キロに1568本の凍結管を打ち込み、氷点下30度の冷却液を循環させて氷の壁を築き、地下水の流入を防ぐ狙いだった。
今年3月に海側から凍結を始め、6月からは山側の大半で凍結させた。ところが、汚染水の発生量は1日約400トンで、ほとんど減っていない。地質の関係で地下水の流れが速く、凍結できない部分があるのだ。8月の台風で、凍結部分の一部が溶ける事態も生じている。
東電は未凍結部分に特殊なセメントを注入する工事を実施中だ。遮水効果は今後高まると主張するものの、8月に開かれた原子力規制委員会の検討会では専門家から「計画は破綻している」との意見も出た。
政府と東電は、2020年に建屋内の汚染水処理を終える廃炉工程表を掲げている。しかし、凍土壁が順調に機能することが前提で、実現は危ういと言わざるを得ない。
凍土壁は土木工事でよく使われるが、福島第1原発ほど大規模なものは前例がない。うまくいくかどうか不安視する意見が、当初から専門家の間にもあった。
それでも「遮水性能が高い」ことなどを理由に、政府と東電は凍土壁の実施に踏み切った。政府は、汚染水対策で前面に出るため、建設費として345億円の国費を投入した。国費投入の失敗を認めたくないとの思いから、政府と東電は凍土壁の実現にこだわってはいまいか。
処理後の汚染水をためるタンクの容量は約100万トンあるが、89万トン分は既に使われている。遮水壁計画が破綻する前に、タンクの増設工事を急がなければならない。粘土などを使って地中に遮水壁を築く工法などの採用も、再検討の余地がある。
凍土壁ありきの汚染水対策は、見直すべき時にきている。