米国はシリア問題でロシアにぶざまな譲歩を強いられてきた。だが、先週の米ロ合意はシリアの一般市民にいくらかの安息をもたらした。12日夜に1週間の停戦が正式に発効して以降、暴力は著しく減ったと伝えられている。協力に向かうためのこの暫定的な措置が、シリアの崩壊への道筋に小休止以上のものをもたらせるかどうかは、ロシア側が合意をどれだけ真剣に履行するかにかかっている。
合意の中心は、シリア領内のイスラム過激派に対してロシアと米国が共同で空爆を行うという前例のない計画だ。攻撃対象は過激派組織「イスラム国」(IS)と、最近までヌスラ戦線として知られていたアルカイダ系の反体制派組織だ。その一方で、ロシアはシリア空軍の動きを抑えることも約束した。シリア空軍は反体制派支配地域で、たる爆弾やクラスター爆弾、白リン、塩素ガスを見境なく使って多数の一般市民を殺害している。
アサド政権と反体制派が停戦条件を順守すれば、包囲され、空爆にさらされてきた地域に援助機関が緊急支援物資を届けられる余地が生まれる。だが、この部分では不吉な兆候が表れている。14日の時点で反体制派もアサド政権も、支援物資を積んでアレッポへ向かおうとするトラックの車列を止めている。双方が支配を二分するアレッポでは、戦火でがれきと化した町に多数の市民が閉じ込められている。
計画される空爆の開始前にアルカイダ系組織から離反するよう米国に迫られているシリアの反体制派は、当然ながら懐疑的だ。5年前にアサド大統領の圧政に対する蜂起が始まって以来、欧米は反体制派を必要な武力で支援する姿勢を全く示してこなかった。その結果、反体制派の中でイスラム過激派が力を増した面もある。反体制派は最近、ひどい苦しみをもたらしたロシア軍の支援によるアレッポ包囲を破ったが、その先頭に立ったのはイスラム過激派だ。
反体制側の穏健派は現在、連携してきた最も有力な武装勢力との関係を断つよう求められている。その見返りは、どうみても当てにならない同盟諸国による支援の継続だ。
現段階で、モザイクのように入り組んでいる武装勢力を現場で区別することが可能であるのかも疑わしい。危険なのはロシアがヌスラ戦線の追跡を装い、米国が支援する他の反体制派勢力をさらに弱体化させることが可能である点だ。
ロシアの真意は、警戒するのに十分な根拠がある。だが、一般市民の苦しみを和らげる戦闘停止はどのようなものであれ、それ自体は歓迎される。停戦の定着を期待できるかどうかは、大半の当事者の利益が一致することにかかっている。
■中東での存在感示す
ロシアは停戦の実現を主導し、中東において無視できない大国という地位を改めて示した。ロシアは当面、アサド政権をシリアで最も強力な存在として維持できる。これはロシアが介入したそもそもの理由だ。一方、米国はISとの戦いに全勢力を束ねている。だが、それでもシリア内戦を終わらせる力にはならない。持続可能な解決には、アサド大統領の支配を終わらせ、多数派であるイスラム教スンニ派の代表を含む暫定政府を樹立することが欠かせない。だが、それはまだ遠い先のままだ。
ロシアはこの1年、残忍な政権を救い、戦況を政権優位に引き戻すことで内戦の行方を操ってきた。いまロシアに求められるのは、和平の構築にも影響力を行使できると示すことだ。
(2016年9月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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