潜入!闇のマーケット 中国“スーパーコピー”の衝撃
日本製品を脅かす 中国“スーパーコピー”
今回、G20の議長国を初めて務め、大国としての存在感を高める中国。
その足元で日本企業を脅かす模倣品、偽物商品の進化が止まりません。
潜入!中国 闇市場 “スーパーコピー”の衝撃
日本のアニメや漫画が大人気の中国。
おもちゃの量販店には、ガンダムやワンピースといった日本製のキャラクター商品が所狭しと並べられています。
中でも人気なのが、今年(2016年)中国で映画が大ヒットした「聖闘士星矢」のフィギュアです。
正規品の値段は1万円から2万円。
しかし、その半額以下で取り引きされていた商品があります。
本物と区別がつかないスーパーコピーです。
大量のスーパーコピーは、どのように出回っているのか。
製造の中心地とみられている広東省の広州市。
さまざまなコピー商品が売られている模倣品市場です。
50以上ある店舗の中に日本のキャラクター商品を取り扱う店も複数ありました。
その中に、聖闘士星矢のフィギュアを見つけました。
しかし、箱しか置いていないと言います。
番組スタッフ
「欲しいんだけど。」
店員
「欲しがってもないよ。
今はないのよ。」
スーパーコピーはどこにあるのか。
私たちは日本のメーカーが行っている現地調査に同行することにしました。
調査会社 調査員
「顔は映さないでくれ。
バレたら調査に支障をきたすから。」
調査員は客を装い、模倣品の業者に接触。
写真を撮って当局に通報しています。
調査のターゲットは闇の問屋です。
最近は摘発を逃れようと、問屋以外には商品を置かなくなっていると言います。
調査会社 調査員
「店に来ていますか?
あとで行きますよ。」
この日、調査員が向かうのは、半年以上前から目をつけてきた闇の問屋です。
特殊なカメラを使って撮影します。
問屋があったのは、広州市内の古い雑居ビル。
人の出入りはほとんどありません。
店に入ろうとすると、店主が目的を訪ねてきました。
店主
「業者の人?」
調査会社 調査員
「今度、お店を出したいんだ。」
目につきやすい所にあったのは、オリジナルらしき商品。
一方、その横の棚では、オリジナルの半額以下の商品が売られていました。
番組スタッフ
「この2つの棚の商品は同じ?」
店主
「違うよ、本物は1か所の工場で作っているけど、これは部分ごとに工場を分けて作っている。」
調査員が商品を入手して戻ってきました。
調査会社 調査員
「これはバンダイの商品を完全に模倣したものだ。」
オリジナルとそっくりですが、調査員はこれがスーパーコピーだと言います。
このキャラクター商品を製造している大手玩具メーカーです。
この日、現地から送られてきたスーパーコピーを分析しました。
玩具メーカー 製造担当
「本当にそっくりにできている。
微妙に見ると違いますけど、パッと見は分からない。」
玩具メーカー 製造担当
「こっちが3年前、こっちが今の模倣品。」
こちらは3年前の模倣品。
部品のすべてがプラスチックで作られていて、素人目にも、模倣品と分かります。
一方、こちらはスーパーコピー。
本物と同じく、およそ50%の部品が金属で出来ていました。
さらに、塗装も格段に進化していました。
3年前は単色だけで、仕上げも荒いものでしたが、スーパーコピーは複雑な模様の細部に至るまで高い技術を感じさせる仕上げになっていました。
玩具メーカー 製造担当
「こういう色のここの際とかは結構ポイントだったけど、もう模倣品でもきっちり塗ってるから。」
なぜ、高い技術に裏付けられたスーパーコピーが急速に広まっているのか。
その実態に詳しい人物に接触することができました。
この男性は、海外ブランドの模倣品ビジネスに関わっています。
模倣品業者
「これは香港で買った正規品だ。
自分用にはニセモノは買わないよ。」
男性が見せてくれたのは、スーパーコピーの製造に使われているという3Dプリンター。
今、インターネットで手ごろな値段で買うことができます。
3Dプリンターを使えば、見た目は本物とほとんど変わらない形を比較的短時間で再現できます。
模倣品業者
「出入りしていた工場でも3Dプリンターを見たことがある。
作れないものなんてないよ。」
さらに、スーパーコピーの裏には、高度な技術を持つ人の存在があると言います。
海外企業の工場が経済の減速で、次々に閉鎖。
技術者たちが流出しました。
その一部が、スーパーコピーに手を染めているというのです。
模倣品業者
「引き受けてくれる工場はどこにでもある。
このビジネスに参加する人はどんどん増えているよ。」
今や、オリジナルと変わらないクオリティーを持つスーパーコピー。
中国国内だけでなく、海外にも広がっていると見られています。
バンダイ 法務・知的財産部 岡崎高之さん
「スーパーコピーは消費者の人が間違えて買ってしまうという事もある。
『こちらでいいよ』という選択肢として選ばれる可能性があるので、対策をどうやって進めるかというのは、非常に難しくなっていると思う。」
中国“スーパーコピー” 日本企業のシェアが奪われる
こちらは経産省などから借りたスーパーコピー品 コピー品はこれまでもあったが、スーパーコピーがスーパーであるゆえんはどのあたり?
石井さん:スーパーというのは、ほとんど真正品と同じレベル。
技術的には、ほとんど同じレベルまで到達しているためにスーパーコピーというわけですが、この5年で中国の模倣品の技術レベルが急速に向上しています。
(それはなぜか?)
全部が全部ではないんです。
全体の2割ぐらい、これは被害を受けた日本企業の皆さんがそのあと調査しますと、およそ2割は真正品と同じレベルだという評価をしてるんですね。
(模倣品全体のおよそ2割は、模倣された本家も見分けがつかないほどの品質のコピー品?)
そうです。
いくつか理由があるんですが、1つは中国の技術水準が上がってるんですね。
これは日本の企業、あるいは欧米の企業が中国を生産地として工場を作り技術移転をし、その結果がここになって出てきた。
これが1番目の理由ですね。
2番目は使う素材が非常によくなってきた。
特に塗料ですね。
キャラクター商品の場合には塗料が非常に重要なんですが、これが非常によくなったと。
3番目が3Dプリンターにあるとおり、デジタル技術がこの模倣品につながってるんです。
こういうこともあって、この5年で非常に水準が上がってきて、非常に深刻な問題になってます。
正規品と見分けがつかないほどのコピー品 販売する値段はどうなのか?
石井さん:模倣品はすべてが高いレベル、スーパーコピーではないんです。
中国製の模倣の非常に難しいところは、約2割は真正品と同じレベルなんです。
ところが、下のほうには非常に粗悪な模倣品もあるんです。
いちばん高いレベル、真正品と同じ水準のものですと同じ価格、あるいはせいぜい半値ぐらい。
非常に低いほうは10分の1以下の価格。
これらがそれぞれのマーケットで流通すると。
2割は品質も本物と見分けがつかない、価格は物によって真正品と同じになる コピーではなく中国ブランドをつけることはしないのか?
段さん:中国ブランドを作りたいと思いますけれども、ただ、それは短時間でできないものですね。
信用と歴史が必要ですから。
中国の企業は、いわゆる改革開放以降にやっと成長してきましたが、全体の歴史はまだまだ足りないと思いますね。
(技術は高まったが、中国企業の信用や歴史はまだ積み重なっていない?)
そうですね。
ある調査によると、日本には100年以上の歴史ある企業が2万1,000社あるんですよ。
中国では、150年以上の企業はわずか5社というふうに言われていまして、そうすると、やっぱり中国ブランドは簡単に作れないと思います。
(技術はコピーできても、信用はすぐにコピーできるものじゃないということが見えてくる)
石井さん:逆に言いますと、日本の企業がこういう偽物・模倣品に対して非常に神経質になるのは、その信用に傷がついてしまうわけですね。
せっかく長い時間かけて、日本の企業はよい商品をブランドと一体で、日本はおろか世界に供給してきたわけですけれども、これが傷がついてしまうのを非常に恐れるわけです。
長年、模倣品大国と言われてきた中国ですが、今、知財強国という方針を宣言して模倣品を撲滅させる姿勢を強めています。
その背景には、ドローンやスマートフォンといった製品で中国のブランドが世界的ブランドとして育ちつつあり、こうした企業の成長を後押ししようというねらいがあるのですが、中国政府の思惑どおりにはいかない事態が起こっています。
脱“ニセモノ” 中国・独自ブランドの模索
中国・深センです。
かつて模倣品の都と言われたこの街は、今、ハイテク産業の中心地となっています。
地元政府は、模倣品の撲滅を徹底する方針を打ち出しています。
模倣品の製造に関わっていた人などに、独自ブランドの商品開発を促すためオフィスや実験を行えるスペースもあります。
実際に、製品の自主開発に成功した人も出てきています。
呉燁彬(ご・ようひん)さんです。
呉さんは、かつてアメリカのアップル社のデザインに似せたパソコンやタブレット端末などを作っていました。
法律違反に問われたことはありませんが、模倣品の発明王と呼ばれていたこともありました。
電子機器メーカー社長 呉燁彬さん
「“模倣品の発明王”は過去の呼び名だ。
気にはしないけれど、うれしくはないな。」
呉さんが経営する工場で今、作っているのは、自主開発したカーナビゲーション。
動作性のよさが評価され、オリジナルの商品として多くの販売店と取り引きしています。
電子機器メーカー社長 呉燁彬さん
「他の中国の企業もやるべきだよ。
模倣品に将来はないからね。」
呉さんの今の夢は、4年後の株式市場への上場。
新たな商品の開発を日夜進めています。
電子機器メーカー社長 呉燁彬さん
「自分の商品を世界中の人々が使えるようになって、誇らしく感じている未来が見えるよ。」
ついに中国製品までも!? “スーパーコピー”の衝撃
国を挙げて模倣品のイメージを払拭し、独自ブランドの確立を目指す中国。
しかし、皮肉な事態が起きています。
3年前に起業した中国のベンチャー企業です。
電動二輪車メーカー副社長 斯莉アさん
「こちらはわが社の定番商品です。」
体重をかけて動かす電動式の二輪車を開発。
年間16億円を売り上げています。
独自に開発したという体の重心の変化を感知するセンサーの性能が高く評価されています。
商品につけられた企業のロゴ。
世界中にこのブランドを浸透させたいと考えています。
電動二輪車メーカー副社長 斯莉アさん
「お客さんのニーズは世界中で非常に高く、商品の認知度も上がっています。
人気商品になるのは、開発の時から分かっていました。」
ところが、この商品のスーパーコピーが次々と現れたのです。
「これも中国製?」
「通販で売っています。
中国製のはずです。」
広州市の模倣品市場でも、ロゴのない本物そっくりの商品が並んでいました。
番組スタッフ
「正規品はありますか?」
店員
「ここにあるのはオリジナルのブランドです。
そのブランドロゴが欲しければ、それも作れますよ。」
この企業では、オリジナルの性能の高さをアピールする動画を作るなど対策を打ちましたが、新たなコピー商品は後を絶ちません。
電動二輪車メーカー法務担当 李露さん
「安い模倣品を作る業者がいて、中国が中国を傷つけているんです。」
模倣品の存在によって、ブランドの信頼性が損なわれる事態まで起きています。
この日、日本の販売代理店が中国の本社を訪れました。
海外で、模倣品が火災事故を起こした影響などで、オリジナルの売れ行きが悪くなったと訴えたのです。
日本の代理店 社長
「コピー品が多くて、日本は商品が売れない状態。
事故とか故障が多くなると、今度、正規品が悪いねという話になるから。」
企業は、当局へ対応を要請し訴訟も行っていますが、ブランドを守るための根本的な対策は見つかっていません。
電動二輪車メーカー法務担当 李露さん
「お客さんに私たちの理念や商品の良さを知ってもらうことで本物を買ってもらいたい。
分かってもらえると信じています。」
模倣品が世界のブランドに被害をもたらしてきた中国。
自国のブランドが傷つけられる事態に動揺が広がっています。
上海交通大学 董正英 副教授
「模倣品対策にかけるコストのせいで、企業は利益を減らしています。
さらに長期的には研究開発やイノベーションに投資しようという企業が無くなってしまうおそれがあるのです。
模倣品は中国の長期的な経済発展に大きなマイナスの影響をもたらすでしょう。」
中国・貧富の格差が“スーパーコピー”の裏側に
視聴者からのツイートでは“そもそも中国ではどうしてコピー商品がまん延しているのか、日本では考えられない”という根本的な質問もあるが?
段さん:中国経済が今、すごく発展してきましたが、農村と都市部の経済の格差は大きいですね。
あと農村の人口は半分以上、少なくとも7億の皆さんが田舎の人ですので、そうするとやはり意識改革しなければならないですね。
(つまり、7億人はまだまだ貧しい人?)
貧しい生活してます。
(そういう人たちがいるということは、模倣品はなくならない?)
もちろん時間はかかりますけれども、今年、政府の報告にも「匠(たくみ)の精神」ということがありますけれど、中国政府はこういった政策を打ち出して模倣品の取り締まりをしています。
そうはいっても中国の中央政府と地方とでは立場が違うが?
石井さん:中央政府は模倣品は、もうやめる。
次の時代に入る。
これは中央政府の考えなんですが、現実に模倣品を取り締まるのは地方政府なんです。
省、市、県のレベルですね。
その行政が難しいんです。
なぜかというと、地方政府はその地方の産業の保護、産業の発展が一番優先なんです。
そうしますと、模倣品を取り締まってその産業が潰れてしまった。
雇用、労働問題が発生すると。
これは、なんとしてでも避けたいというのが地方政府の考え。
これを地方保護主義というわけですが、このジレンマ。
日本はどのように模倣品対策をしていけばいいのか?
石井さん:これは、できるだけの対応をして、1つには、もぐらたたきではありませんけれども、個別企業は努力してもらいます。
国は国で中国政府と一緒に協力して、あるいは工業界でも協力して、これへの対策は努力していくとこれしかないと思います。
段さん:日本企業はたくさんノウハウを持っていますので、もっと中国に支援できたらいいと思うんですね。
特に100年の歴史ある企業は、中国の企業にとってもすごく役に立ちます。
番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。