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蓮舫氏に対する「二重国籍」「経歴詐称」批判は、マイクロアグレッションという差別の一形態

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二重国籍問題を「個人の問題」に矮小化する差別主義者たち

そもそも、今回の「二重国籍問題」は蓮舫氏個人の問題ではありません。大きな問題として、(1)重国籍を管理する行政上の仕組みが国内的にも国際的にも無い(2)公務員、政府関係者に対する十分な身辺調査をしていない(3)重国籍禁止という国籍法自体が時代遅れで実情にあっていない、という三点があげられます。

これらの問題を十分に論じず、蓮舫氏を「嘘つき」「台湾と戦争になったらどうするんだ」「中国のスパイ」などと非難し、個人の責任に矮小化しようとするのはあまりにも視野が狭いというべきでしょう。日台の架け橋でもあり知中派ともいえる蓮舫氏のような人が政治の世界にいれば、日中や日台が戦争になるような事態を回避するために尽力するはずです。

民進党の一部議員は蓮舫氏落としに便乗しているようですが、民進党はこうした時こそ一丸となって重国籍をめぐるより大きな政治的、行政的問題を論じるべきです。現状の民進党の対応はあまりにも一体感がなく、野党第一党として心もとありません。蓮舫氏の対応も不適切でした。おかしな非難に同調して、民族主義的な主張をする人々の望む「日本人」に自分の経歴を合わせようとするから、二転三転する説明になるのです。大臣時代にさえ問題視されもしなかった国籍問題を、野党党首に立候補することでまさか追及されると想定していなかったというのは蓮舫氏の脇の甘さでもありますが、本気で党首を狙おう、首相を狙おうという心意気があるならば、動揺して小手先の説明などせず、もっと堂々と議論すればよいのです。

今回の問題は蓮舫氏一人の問題ではなく、同じような状況にいるすべての「日本人」の問題です。そして、こうした重国籍や複雑なアイデンティティを持つ人は今後も増え続けていきます。彼女は、彼らのためにも、日本の将来のためにも、もっと本気でこうした民族主義的言説と戦うべきなのです。

蓮舫氏に対するマイクロアグレッションという差別

今回の蓮舫氏の「二重国籍」をめぐる主張や報道には日本における外国人差別の根深さが露呈しています。今回のケースは、日本ではまだ理解の浅い差別の一形態である「マイクロアグレッション」です。

マイクロアグレッションとは日常的に、何気なく行われている差別の一形態です。アメリカの精神科医が発見し、人種、民族、ジェンダーなどの差別問題を研究する心理学者、社会学者の間でも広く援用されています。「アジア人は白人に人種的に劣るから同じ学校には通わせない」「女性は男性より能力が劣るから賃金が低くて当然だ」といったわかりやすい差別ではなく「アジア人の女性は従順だ」「黒人は白人よりも感情的だ」「女性には男性とは違う適性があるので、合わない仕事をすべきではない」「女性は結婚して仕事をやめてしまうので採用しづらい」「あなたは日本人なのに積極的だ」「あなたは日本人なんだからアメリカの人種問題を学ぶ必要はないでしょう。日系アメリカ人はアメリカ人(白人)にちゃんと同化しているんだから」といった、人種や性に基づくステレオタイプを強調し、当事者の感情を害する行為です。

こうしたマイクロアグレッションによって、日々少しずつ感情を蝕まれる人たちが精神的に感じるプレッシャーやストレスは大きく、それがマイノリティや女性に精神疾患や自殺願望が高い原因では無いかとも言われています。

今回の蓮舫氏の件では「戦争になったらどうするんだ」「スパイだったらどうするんだ」「夫も日本人なのに日本人苗字を名乗っていない」「子どもに中国名をつけている」といった、蓮舫氏が台湾出身であり北京への留学経験を持つという生い立ちに関する「中国人」「移民」というステレオタイプに基づいた非難が多く見られます。

「女性議員」「マイノリティ」の蓮舫氏は差別主義者の格好の餌食

そもそも、女性議員というのはファッションや顔立ちなど、政治以外のことでの非難や賞賛の対象になることが非常に多いのが現状です。これは「女性」というステレオタイプに「女性政治家」が当てはまらないことで、マイクロアグレッションの対象となりやすいからです。また、女性政治家自身が状況に応じて本人の「女性らしさ」を利用しながら、他方で「女性らしからぬ」言動をすることも、この状況に拍車をかけています。たとえば蓮舫氏も「美しさ」「台湾人」というキャラクターを売りに芸能活動をしていた時代から一転して、今では気鋭のリベラル派の政治家として活躍していますが、彼女の過去を知る人たち、今の彼女のやり方が気に入ら無い人たちからすれば、「女のくせに」「中国人のくせに」「左翼め」という嫉妬や差別の対象になりやすい背景を持っています。

だからこそ、彼女を非難する人たちは、重国籍が国会議員になるのに法律上問題が無いとわかったとたん「嘘つきだ」という論点のすり替えによる非難をしはじめたのです。このように個人の出自を強調して、さも論理的な議論かのように「戦争が起きたらどうする」「スパイだったらどうする」「経歴詐称の嘘つきだ」と非難するのは、マイクロアグレッションそのものです。

蓮舫氏は民進党の代表になることが決まりました。今回の件は、蓮舫氏一人が直面している問題ではなく、文化、国籍、民族、人種、言語など「伝統的日本人」とは異なる背景を持つ人、そして多くの女性が直面している、マイクロアグレッションという差別の一形態であることを認識し、日本の野党第一党の党首として、この問題に精力的に取り組んでいってほしいと思います。

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古谷有希子

ジョージメイソン大学社会学研究科 博士課程。東京大学社会科学研究所 客員研究員。大学院修了後、ビジネスコーチとして日本でマネジメントコンサルティングに従事したのち、渡米。公共政策大学院、シンクタンクでのインターンなどを経て、現在は日本・アメリカで高校生・若者の就職問題の研究に従事する傍ら、NPOへのアドバイザリーも行う。社会政策、教育政策、教育のグローバリゼーションを専門とする。

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