■魂の中小企業

 たいへん残念なことなのですが、いまの日本は、大企業中心に回っています。大企業は経済合理性と成果を追求し、株価が上がれば万々歳です。

 でも、大企業が大もうけすれば日本社会は成り立ちますか? 大もうけの裏には、リストラがあります。大企業からはき出された人たちは、だれが引き受けるんですか? 

 もちろん、中小企業です。

 「面接」とか「履歴書」やらで大企業に選ばれなかった若者たちを、だれが引き受けるんですか? 

 もちろん、中小企業です。

 日本の働き手の7割が中小企業でがんばっています。日本社会は中小企業があってこそ成り立っているのです。

 さらに、大企業が完全放棄していることがあります。それは、罪を犯して償った人たちの雇用、です。

 少年院や刑務所から出てきた人に仕事がなければ、どうなるでしょう。再犯してしまうかもしれません。

 大企業は、そのような人たちを雇いません。コンプライアンス(法令や社会規範の順守)の観点から大丈夫か。コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、企業価値の増大に資するのか。

 そんな、ややこしいカタカナ語を理由に、まず雇いません。

 就職を支援する団体などにカネを出している大企業はあります。けれど、ある関係者は言います。

 同情するなら仕事をくれ!

 雇っているのは、中小企業なのです。物騒な事件も多い世の中ですが、それでもギリギリ安全な社会を維持できているのは、中小企業の力なのです。

     ◇

 神奈川県の横須賀市に、「セリエコーポレーション」という鳶(とび)の会社があります。建設現場の職人、鳶。仕事はきつく、作業は命がけのこともあります。

 この会社の社長、岡本昌宏さん(41)。彼は、自腹で全国各地の少年院に行っては、こう呼びかけています。

 「院を出たら、鳶の仕事をしないか」

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