「今回はわが方の完全勝利」。民進党代表選を翌日に控えた14日夜、東京・赤坂のイタリア料理店である人物がワインを飲み干した。代表選は蓮舫氏が1回目投票で勝利。しかし選挙戦は新味のある政策論争を欠き、ある意味で世間の関心を最も引いたのはインターネットが火を付けた蓮舫氏の台湾籍をめぐる「二重国籍」問題。異例とも言える経過をたどった野党第1党の代表選で見えたものとは―。
▽スピード勝負
祝杯の主は8月下旬にネット上の言論サイト「アゴラ」で最初に蓮舫氏の「二重国籍疑惑」を提起した評論家の八幡和郎氏。当初は全面否定した蓮舫氏だが、八幡氏らネット世論を中心とする追及に遭い投票2日前になって台湾籍があったとして疑惑を認め謝罪。民進党内では代表選やり直しを求める声も出るなど深刻なしこりが残った。「代表になっても先は短い」(八幡氏)との読みも戦勝感を支える。
当初は大手マスコミや地上波テレビの反応は鈍かった。逆に「二重国籍問題の追及は不健全」(民進党・岡田克也氏)といった論調も出た。八幡氏は「本来は公人としてのコンプライアンス(法令順守)の問題なのに、人権や差別、プライバシーといったことに論点をすり替えようとする圧力は本当に強かった」と振り返った。
対抗策は「スピード」。「とにかく持っている情報は惜しげなく出した」。八幡氏はアゴラで20本以上の論考を発表。一般メディアが徐々にこの問題を報道し始める効果もあったが、すさまじかったのはネット世論の反応だ。蓮舫氏が何か発言すると、数時間後には「以前の発言と矛盾する」といった情報が証拠画像・映像付きでどんどんアップされた。結果的には「情報のスピードと量で論点すり替えを封じた」(八幡氏)格好だった。
▽タブーと責任
蓮舫氏との“対決”とは別次元で八幡氏が疑問を感じたのは既存メディアの在り方。「ジャーナリストは腰が引けている。人権侵害や差別と言われ社内で問題にされることを恐れているのでは」と指摘。「テレビも『ややこしい問題だから』とあるテーマに触らないのなら、そのこと自体が(政治的)カラーとなる。改めて『中立』とは何かを考えさせられた」と述べた。
一般社団法人「日本報道検証機構」の楊井人文代表理事は、今回の民進党代表選とは切り離した一般論と断った上で選挙報道の問題点を挙げる。「選挙となると公平性やバランスばかり気にし、当たり障りのない各候補の主張を等分量だけ報じるといった姿勢に陥りがち」と話した。
民進党代表選は公職選挙法の適用を受けるものではないが、野党第1党の代表選びは国民の重大な関心事。楊井氏は「民主主義の成熟とは有権者が『よりましな選択』をしていくこと。そのためにはメディアが政策や思想はもちろん、健康問題であれ異性問題であれ各候補の問題を徹底的にチェックし判断材料を与えることが欠かせない」と語った。
楊井氏は「自分でタブーを作りそれに触れないのが大手既存メディア、タブーにずかずか踏み込むのがネットメディアという図式になっている」と現状を分析。「人々がタブーに挑んでいる方に流れるのは分かるが、ネット情報には臆測や行き過ぎた表現など危うさもある。大手メディアにはそうした部分も含めてきちんと検証しネットに負けない正確な情報発信する役割が求められる」と話した。(共同通信=松村圭)