あるIT起業家の方とバーベキューをしていたとき、「優秀な人材とは、具体的にどういう人なんでしょうね?」という話になった。
「優秀な人材……それが一般的な答えになるかはわからないけど、うちの会社はシンプルに、3つの基準を使っているかな。創業時からそれは変わらないし、そこしか見てないね。」
「3つですか。」
「えぇ。まずは『素直さ』かな。これを見抜くのはけっこう難しいんだけれど……」
「どうやって判断します?」
「ひとつあるのは、その人が感動しやすいかどうか、かな。」
「面白いですね、感動ですか。」
「素直じゃない人は、スッと感動しないんだよね。何についても斜に構えて、感動を全力で伝えることができない。だから、面接では『最近感動したことは何ですか?』と聞くこともある。」
「なるほど。」
「でもまぁ、素直さはにじみ出るから、そんな質問をする必要もないことが大半だね。その人と30分もコーヒーを飲みながら話してみれば、素直度みたいなものは把握できる。」
「怖いですね(笑)」
「まぁ、それが経営者の仕事だから(笑)」
社長は笑いながらビールを飲む。
「素直さ以外だと、何を見ていますか?」
「これはいろいろな表現ができるけど……ざっくりいえば『好奇心』かな。」
「素直で、好奇心がある人。たしかにそういう人は魅力的ですね。」
「えぇ。それは仕事に直接関係がなくてもいい。たとえば『仏像が大好きで、仏像のサイトをやっている』とかは最高。強い好奇心を持っている人は、自然と取り組む仕事にもどっぷり浸かってくれる。もちろん、どんな仕事でもいいわけじゃないけれど。」
「その人が興味を持って取り組める分野を、仕事として提供する。それが経営者の仕事ということですか。」
「そうそう。好奇心がもともと強い人は、守備範囲が広くなるから経営者としては使い勝手がいい。」
「好奇心はどうやって見抜きます?」
「あっちが質問をしてくるか、じゃないかな。」
「面接中に。」
「そう。好奇心が強い人は、テクニックとか対策じゃなくて、自然とこっちに質問を投げかけてくるよ。傾向としては、初歩的なものが多いかな。」
「面白いですね。難しい質問はしてこない。」
「あぁ、それは傾向性があるかもねぇ……。素直で好奇心が旺盛な人って、初歩的なところから聞きたがることが多い。」
「……あ、肉がなくなったので取ってきますね。」
クーラーボックスから肉を取り出そうとすると、いつのまにか、社長とうちの子どもが、キャンプ場の小川で仲良く遊んでいることに気がついた。タワーマンションではまず見かけないサワガニを見て興奮しているようだ。
社長のいう「素直さと好奇心」というのは、こども時代にはみなが持ち合わせているものなのだろう。
「お待たせしました。特別に手に入れた高知の和牛です。……で、最後の素養はなんですか?」
「うん。論理的ではない人。」
「……え?論理的『ではない』人がいいんですか?」
「そう。過度に論理的な人は、うちでは採用しない。もちろんある程度のロジカルさは必要だけど、論理で凝り固まっている人は避けているね。元コンサルとか、ちょっと警戒する(笑)」
「世間的な基準とは逆のように思えます。」
「論理的な人というのは、限界があるんだよね。うちの会社は、スピード感をもって新しいことをバンバン仕掛けていこうとしているけど、そういうときに論理が邪魔になることがある。」
「あぁ、なんとなくわかってきました。イノベーションは論理的には生み出せない、ということですか?」
「もちろん論理的にイノベーションを生み出すこともできるけど、ITの世界は、単なる情熱から始まったものとかが多いよね。」
「たしかに、iPhoneなんかは論理的に生まれた感じがしませんね。」
「論理的であることは、実はそこまで難しくないんだよ。乱暴にいえば、恣意的にデータを集めてそれっぽい結論を出す、みたいな作業だから。それよりも、情熱とか好奇心にしたがって、直感的に『これ面白いんじゃね!やってみよ!』と動ける才能のほうが貴重かな。」
「成果を出せないことも多くなりそうですが(笑)」
「いいのいいの。やってみてだめなら、素直な人ならすぐ諦めて、次のアクションを取ってくれるから。好奇心が強い人は、常にアイデアに溢れてるしね。」
「素直さと好奇心が生きるわけですねそういう人がいると、楽しい会社になりそうですね。」
「目をキラキラ輝かせているアイデアメーカーが社内にいるというのは、すごく価値があるね。」
「昔の社会では、サラリーマンになれなかったようなタイプ(笑)」
「市場の変化が加速して、さらに人工知能とかロボットが普及してくると、そういうアーティスト的な人は重宝されるようになるんじゃないかなぁ。少なくともうちは、強く求めている人材像だよ。」
サワガニを獲って遊んでいた子どもたちは、川原に点在する褐色の石を砕いて天然の絵の具を作っていた。
彼らの目を、彼らが大人になるまで輝かせつづけていくのが、ぼくら大人の役割なのだろう。
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