(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年9月9日付)
ブラジル上院で開かれている弾劾裁判で弁明を行うジルマ・ルセフ大統領(2016年8月29日撮影)。(c)AFP/EVARISTO SA〔AFPBB News〕
ブラジルは未来の国であり、未来の国であり続ける。ブラジルは真面目な国ではない。ブラジルでは、過去さえ不確かだ――。
くどくて、侮蔑的で、極端すぎる一般化だろうか。確かにそうだが、時折、ブラジル人が外国人を相手に自国を描写するために使う決まり文句は、驚くほど正確だ。ブラジルがジルマ・ルセフ氏の大統領弾劾に揺らいでいる今、最後の言葉は特に的確に思える。
前大統領がブラジル上院に弾劾・罷免され、ミシェル・テメル新大統領が後を継いでから、経済学者と政治学者はこれが2018年の大統領選挙に及ぼす影響を徹底的に調べてきた。
ルセフ前大統領と敵対する勢力は歓声を上げた。一方、支持者たちは時に暴力的な全国デモを実施し、彼らが「クーデター」と呼ぶものを非難した。
だが、ブラジルの多くの一般市民と話をすると、絶望感も歓喜も感じられない。彼らはとにかく、何が起きたのか全く分かっていないのだ。
弾劾から1週間経った日、筆者はサンパウロ中心部のセー広場で午後を過ごし、なぜルセフ氏がもう大統領でないのか、その理由を無作為に聞いて回った。この広場は、極めて敬虔な信者やクラックコカインの常習者、その間に入るすべての人が集う場だ。結局、10人の人と話をした。道路の清掃人と学生、ビルの管理人、農家、システムアナリスト、エレベーターガール、靴磨き、高齢者の介護人、公証人、そして違法にサングラスを販売している業者という顔ぶれだ。
正しい説明ができた人は誰もいなかった。公証人と清掃人とサングラスの業者が正解に一番近く、ルセフ氏は「財政法」に違反したと言ったが、後にこの法律が何を意味するのか分からないと認めた。5人はルセフ氏は汚職のために弾劾されたと言い、1人はブラジルの高いインフレ率のせいだと言い、靴磨きは分からないと言った。
3人(農家の人と学生と介護人)は、誰が大統領か知らなかった。「彼の名前は確か、『R』で始まったと思う」。介護人はこう言ってから、笑顔を浮かべ、「実は私も大統領になりたいんですよ、お金持ちになれますからね」と付け加えた。