今、この時に

 


 真っ暗な部屋に、かすかな喘ぎが響く。
「……ん……」
閉め切られたカーテンの端からわずかに漏れ入る外光に、横たわるイシトの頬がうっすらと白く浮かび上がる。硬く目を閉じ、眉を寄せてカーシュの愛撫を受けるイシトの表情は、それでもいつか緩み始めていた。時折ぼんやりと薄く眼を開け、カーシュを認めてまた眼を閉じる。カーシュはイシトのその蒼い眼を、もっと覗きたいと思った。
「……っ! 何だ、急に」
突然手を伸ばしてベッドサイドの灯りをつけたカーシュに、イシトは眩しそうに眉を寄せて非難の声を上げた。だが、カーシュは自分も眩しそうに眼を細めながら、尚もイシトの身体を愛撫する。
「あ……っ」
思わず声を漏らし、イシトは羞恥に頬を染めてカーシュを睨みつけた。
「早く消せよ」
「いやだ」
カーシュは薄く笑ってイシトを見つめた。
「おまえのその顔、もっと見ていたい……」
カーシュはイシトの顔から目を離さず、その敏感な部分に触れた。
「悪趣味だ!」
イシトが真っ赤になって、そのカーシュの手を払いのけ、身を起こす。
「出て行け! 自分の部屋に帰れよ!」
カーシュは苦笑しつつ、肩をすくめる。イシトはその頬にまだ赤みを残しながらまくし立てた。
「君が出て行かないなら、私が出て行く!」
イシトは床に散った衣服を拾い、白いシャツを肩に羽織って立ち上がろうとした。そのイシトを、カーシュが後ろから抱き締める。
「行くなよ……」
「離せ!」
振りほどこうともがくイシトだが、カーシュは離さない。
「……知ってるだろ? 俺は明日からしばらく、パーティーから外れる……」
イシトは黙った。それはセルジュから聞いていた。次の戦闘では属性の関係でカーシュが外れ、青属性のファルガが入ることになっていた。
「だから……なぁ……おまえの顔、見ていたいんだ……」
イシトはきつい眼をして、横目でカーシュを睨みつけた。
「……卑怯だな。そんなことを言い出すなんて……」
「何とでも言えよ。俺はおまえと違って、自分に正直なだけだ。自分を偽り続けるってなぁ、人を欺くのと同じだ。そうじゃないのか?」
それは、リデルやダリオとの事で傷ついて、カーシュなりに至った結論だったのだろう。自嘲混じりに、カーシュは軽く肩をすくめて見せた。
「フンッ」
イシトは少し口をとがらせて顔を背け、灯りに手を伸ばして、怒ったように乱暴にスイッチを切った。
 辺りを、再び闇が支配した。その中で、何か白いものがふわりと床に落ちたのがかすかに見えた。イシトの羽織掛けたシャツだ。少し暗さに慣れたカーシュの眼に、イシトが白い裸身を横たえたのが映る。
 無言のまま、イシトの白い腕がカーシュに向かって伸びた。カーシュはやはり何も言わず、その手が自分に触れるのを待たずにゆっくりと身体を重ねた。



肌と肌を合わせ、唇を重ねる。
これ以上、何を求めようと言うのだろう。
今、この時、これ程互いに満ち足りているというのに――。

Ende.

 


 

 

言い訳
ありそうな会話でしょう?
カーシュの気持ちもわかりますが、確かに悪趣味ですよ(笑)。
それでも戻っちゃうところが、イシトさんも……(^^ゞ

2001.10.26