夢か・・・。



「あ、貴女、本当にそんな事のためにわざわざココまで来たの?」
「ええ、本気も本気、大真面目よ。」


紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は八意永琳を訪ねてわざわざココ永遠亭を訪れていた。

「そんな、胸を大きくするためだけに私のところを訪れるなんて・・・。
私も長く生きてきたけどそんな患者は始めてだわ・・・。全く、女性の魅力は胸で決まる、なんていうのはこの幻想郷ですら幻想の話だというのに。」

説得ともグチとも取れる発言をする永琳。
咲夜は「それは胸の大きいからこそいえる傲慢な発言だ!」と言いたい欲求をぐっとこらえ、涙声で答える。

「も、もう限界なんです。職場では皆から「メイド長はパッドだ、パッドだ、」と陰口を叩かれ、妹様からは『さくやの胸は偽者だって魔理沙から聞いたけど、本当?』とか尋ねられ、 (その後魔理沙には砂糖の替わりに塩を入れて作ったケーキを作って食わせた。)
ついにはお嬢様からも『咲夜、偽者で自分を偽るのはよくないことよ。』とまで言われてしまったの。
かと言って今更パッドをはずそうにも無能なくせに胸だけは大きな部下の勝ち誇った憐れみの目が、それを許さないのよ。」

「べ、別に、それは最初から貴女が悪いんだと思うんだけれど・・・^^; それに、胸が大きくたって余り良い事があるわけじゃないし・・・。」
訴えの余りのアホッぷりに思わず苦笑いをする永琳、だが、当の咲夜は大真面目で訴え続ける。

「いいえ、大きくなければいけないのです。このままでは霊夢や魔理沙にすら追い抜かれてしまうわ。
そう、私は完璧で瀟洒の名にふさわしい、完璧で瀟洒な大きさの胸を持たなければならないのよ。
香霖堂で買った『πdelA→E』(胸吸引機、森近霖之助ハンドメイド)でも効果が無かった。
かくなる上は幻想郷の中でも名医と謳われるあなたに頼むしかないの。
お願いです、シリコンでも生理食塩水でも脂肪注入でも、悪魔に魂を売ってでも(もう売っているけど)いいですから、私の胸を大きくしてください、お願いします。」

・・・余りにも突っ込みどころがありすぎてどこから突っ込んでよいのか判らない。それでいて熱意だけは伝わる咲夜の訴え。
それに心動かされたのか、永琳は棚から一つの薬を取り出し、咲夜の前に差し出す。

「こ、これが伝説の蓬莱、じゃ無かった、豊胸の薬!」
「違うわよ、話を最後まで聞きなさい。」
あわてて取ろうとする咲夜の手を制して、永琳は続ける。
「これはあなたの特性を見るための薬。これを寝る前に飲んで、どんな効果が出たのか私に残さず報告して。その結果を元にあなたに最適な処方を決めますから。」
「べ、別にそんなまどろっこしいことをしなくても・・・。」
「貴女のおっぱいが動くのも辛いほど肥大化したり、逆にもう完全に無くなってしまってもいい、というのなら今すぐ処方してあげてもいいけど?」
「ね、寝る前に飲んで現れた効果を伝えればいいのね? そ、それじゃあ私は帰りますから。結果はなるべく速いうちに伝えに来ますから。」

挨拶もそこそこに素早く紅魔館へと戻る咲夜。その後姿を見ながら鈴仙・ウドンゲイン・因幡が心配そうに永琳に話しかける。

「し、師匠、あの薬は・・・。」
「ええ、ちゃんと判っているわ。あれは『胡蝶夢丸ナイトメア』よ。」
「わ、判っているならどうしてあれを渡したのですか?」
「私は昔、あなたと出会うずっと前にあの子とかかわっているのよ。
あの子の人生を左右するくらい大きなことに。だからあの子には辛いことになるでしょうけど、こういう形でもあの子の心の奥底を知っておかなくちゃいけないの。
もしあの子が本当に辛い人生を送っているなら、今更だけどそれを助けてあげたいから。」
「そう・・・ですか。」


その日の夜の紅魔館、自室で咲夜は昼間にもらった薬を取り出し、見つめる。
「これ、豊胸の薬じゃなかったら何の効果があるのかしら? まぁ、どうせならボインになる夢でも見たいものね・・・。」
そして、薬を飲んで咲夜は眠りに付いた・・・。


チュン、チュン、チュン
次の日の朝、咲夜は何時も通りの時刻に何時も通りの体調で目が覚める。
「む、胸が! ・・・大きくなっているわけじゃないのね。全く、あの薬に何の意味があったのかしら?」
ぼやきながら力を使い、一瞬で寝巻きから冥土服へと身支度を整え、今日の仕事を始めようと部屋のドアを開ける。

ザワ、ザワ、ザワ・・・。
普段は規律正しく、常に整然としているはずの館。
だが、今日は館内のいたるところから喜び、困惑、驚きなどが混じったざわめきが聞こえてくる。
見かねた咲夜は近くでまとまっていたメイドたちに注意する。
「全く、何が起こったというの。どこかで爆発が起こったわけでもないのに・・・。
こら、そこ! 何をやっているの。そんなところで固まって遊んでないで仕事に戻りないさい!」

咲夜の一喝にあわてて散り散りとなり、自分の仕事を再開するメイドたち。
だがその姿は何か違和感がある。それも咲夜にとって非常に気になる形で。
咲夜がその違和感の正体を突き止めようとした時・・・

「咲夜さぁぁぁぁぁん、大変です〜〜〜んぶぉ!」
門番であるホンメ・・・名前を忘れたので仮に中国としよう。その中国が駆け込んできた。
その走るたびに揺れる胸を見て、咲夜は条件反射的にナイフを打ち込んでいた・・・。

「うぅぅ、酷いです。」
「それで、いったい何があったというの。それを報告に来たのでしょう?」
自分から打ち込んでおきながらあくまで瀟洒に対応する咲夜。だがその態度も次の報告によってあっけなく崩れ去る・・・。

「ソ、ソレが・・・なんか今日いきなりほとんどのメイドたちの胸が大きくなったみたいで、館中大騒ぎになっているのです。」
「ふーん、メイドたちの胸が大きく・・・って、ちょっと、それ一体どういうことよ! 詳しく説明しなさい!」
耳を疑う報告に思わず中国に掴みかかり、締め上げる咲夜。

「ク、苦しいです。放して、放してください! 締まって・・・ます。」
「何を言っているの! 話すのはあなたの方よ。さァ、さぁ、早く説明しなさい!」
「わ、判りました。なんか、皆の胸が大きくなって、喜んだりとか、服が合わなくなって騒いだりしているから、こんなザワメイテ、いるんです。私のところにも、大きな胸の扱い方を聞きに来る人が、結構居て、参っているのです。別に、私の胸は、大きくなっているわけでは、ないのに・・・。そ、そういえば咲夜さんも・・・。」



{以下、しばらくの間お世辞にも瀟洒とは言えない光景(というか殲景)が繰り広げられるためしばし省略}



「はぁ、はぁ、はぁ、いや、きっと、きっとお嬢様なら・・・。」
『中国だったナマモノ』をその場に放置し、この館の主の元へと向かう咲夜。
『この異変を報告するため』という名目ではあったが、本心はレミリアの胸が小さいままである、と確認したいからであった。

「お嬢様、お休みのところ失礼いたします。館のメイド中に異変が起こったので報告に参りました。」
「咲夜ね。丁度いいところに来たわ。頼みたいことがあるから中に入りなさい。」
判りました、と返事をし、主の部屋へと入る咲夜。

「何か急に胸が大きくなったみたいで、上着がきつくてたまらないの。至急仕立て直して頂戴。もしあれだったら新しい服を買ってもかまわないわ。」
その主の言葉に、そして何よりも服からはちきれんばかりの胸に、咲夜の淡い希望は無残にも粉々に砕かれた。

(そ、そんな・・・。あれはどう見積もってもCは硬い。わ、私は寄せてあげて詰め込んで、それでもBが限界だと言うのに、それを軽々と・・・。)
「咲夜? 咲夜!? 聞こえてるの? 一体どうしたというの?」
完全に硬直した咲夜をいぶかしみながら声をかけるレミリア。だが・・・、

「お、おぉ・・・」
「お?」
「お嬢様のばかぁ!!!(涙)」
「チョ、ちょっと咲夜、一体どこに行くの?」
咲夜は余りのショックに完全にわれを忘れ、館を飛び出してゆく。
館の住人は皆そのわけが判らず、ただその後姿を見送るだけであった・・・。


頼りたくは無かった。でも今は頼るしかない。
偽りたくは無かった。でもこうなってしまっては仕方がない。

カランカラン

「は〜い、いらっしゃい。」
咲夜は香霖堂に飛び込んでいた・・・。

「おや、紅魔館のメイド長さん。本日はどういったご用件で? あぁ、其方のご主人が新しい服をお望みなのですね?」
「いえ、ちがいます。ほ、ほ・・・豊胸ブラと、そ、その、胸パッドをください!」
羞恥心のを噛み潰し、顔を真っ赤にしながら注文する咲夜。だが店主からの答えは意外なものであった。

「ああ、すいません。それはもう在庫が無いんですよ・・・。」
「へ・・・?」
「いや、知っての通り急に胸が大きくなった人が多いみたいで、今ブラジャーが大人気なんですよ。
そのため、豊胸ブラも解体して普通のブラとして売ってしまったもので・・・。」
「そ、そんな・・・。」
唯一最後の望みも絶たれ、悲観にくれる咲夜。その時後ろでからからと音を立て、ドアが開いた。

「いらっしゃいませ。これはこれは八雲さん。本日はどうされました?」
「いや、何だ。橙の胸が何か急に大きくなってしまって、いい機会だからブラジャーを付けさせてみることにしたのだ。」
扉を開け、すきま妖怪の式、、八雲藍とその式、橙が入ってきた。

「どれくらいのサイズにされますか?」
「B・・・いやCかな。この子もこれからもっと成長するでしょうし。」
「それではこちらとなりますね。」
そういって霖之助は、咲夜があこがれつつも決して手(と胸)の届かなかったブラを並べ始める。

「あ、藍さま、これがいいなぁ♪」
「そうか・・・。店主、試着室はあるのか?」
「判った。さぁ、橙。ためしに付けてみるか。」
「うん。これで私も一人前の女性に一歩近づいたよね。」
「そうだな。橙が順調に成長してくれて私もうれしいぞ。」
そんな楽しげな二人の会話。だそそれはもう咲夜の耳には届いては居なかった・・・。

「嘘よ。私だけ大きくないなんて・・・。嘘、嘘に決まっているわ。そうよ、これは夢に決まっているわ。
夢、ゆめ、ユメ、・・・・・・・・・」


バッ
咲夜はそこで目が覚める。見渡すと紅魔館内の自分の部屋。
外では小鳥が鳴いており、全ては普段どおりであった。

「はぁはぁはあ、夢・・・か。」
念のため自分の胸を触ると・・・そこは普段どおりであった。


「という夢を見たのよ。」
「w×H」
永遠邸内。咲夜は永琳の元を尋ね、自分の見た夢を正直に話す。
だが当の永琳はその夢の余りのアレっぷりに堪える事が出来ず笑い出していた。
「貴女、正直に話してくれ、と言われたから話したのにその笑いっぷりは何ですか? これで『大きく出来ません』なんて言ったら本気で刻むわよ・・・!」
「ああ、ゴメンナサイ。ちょっと気が緩んでしまってね^^; 悪かったわ。」
本気で不機嫌な咲夜に対し、顔がまだ緩みながらも謝る永琳。
そして近くの冷蔵庫から瓶を取り出し、咲夜の前におく。

「そうね、今の貴女にはこれが一番効くと思うわ。さぁ、飲んでみて。」
「こ、これが夢にまで見た豊胸の薬!」
そういうが早いか咲夜はものすごい勢いで瓶を手に取り、口を付ける。だが、途中で動きが止まり、瓶から口を離す。

「あの〜、永琳先生。これはもしかして・・・。」
「今朝絞りたての牛乳よ。ただでさえ血を失うことが多いのだからまずは栄養をちゃんと付けないとね。」
「わ、私、昔からその、牛乳は苦手で・・・はぅ!」
「貴女はそういう体質だったのね・・・。トイレならそこのドアを出て右手に有るわよ。」
「ちょ、ちょっと失礼します!」
あわててトイレへと駆け込む咲夜。そんな後姿を見ながら永琳は一人つぶやいた。

「そう・・・。あの子はもう過去には囚われていないのね。私の罪が消えるわけじゃないけれど、少しだけ気が楽になったわ。ほんの少しだけ・・・。」

その後、咲夜は永琳の調合した体質改善薬により牛乳が苦手ではなくなったとか何とか。

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後書き
うん、アレだね。胸の大きさと女性の魅力は同義語じゃないんですよ。
胸の大きさだけの判断するのは女性の敵認定だねw(御挨拶

ところでこの話、実はもう一通り考えていたんですよね。 咲夜さんが胡蝶夢丸を渡され、飲んでみた夢の世界では幻想胸、もとい幻想郷少女皆貧乳化。
つるつるになった中国を勝者の目つきで見下しているところで夢が覚める。という話。
まぁ、ドッチを飲んでも夢の中ですら巨乳になれないのが(エターナルミーク


ちなみに余談ですが、私自身はあんまり巨乳が好きではなかったりします。
理想はBくらいw
まぁ、女性の敵にはなりたくないのでリアルで贅沢は言いませんがね。


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