カニシルと七草粥
「いつもいつも琥珀が料理を作っているんでたまには翡翠の料理が食べたいカニー」
禁断の一言と共に物語は始まりました。
それは一月八日。昨夜の琥珀の精を尽くした七草がゆを食べた次の日の出来事です。
台所に翡翠がいつに無く真剣な顔をして立っていて、
「姉さん、今日は私が料理をおだしします」
と、物騒な事を言い出したのです。
「あの〜翡翠ちゃん?お料理は私の分野ですからなるべく控えてもらった方が〜」
当然の如くとめておくのが姉としての使命。
「たまには私の料理を食べてもらいたいので。インターネットと言う物でがんばって情報を調べて、七草粥を作っている最中です」
しかし、真剣な顔で見つめ返す翡翠。
そこまで真剣になられては止めるわけにもいかずと、しぶしぶ琥珀は了承することにしました。
「……作っているなら仕方有りませんね〜。ですけど私と秋葉様は今日親族の新年会でお出かけする事になっているんですよ〜」
翡翠の料理を知っている琥珀は当然のごとく逃げる算段を企てます。
「そうですよね、秋葉様」
そして、いきなり秋葉に振ります。
ちょっと驚く顔をする秋葉。でもそこはいつもの機転を利かせました。
「ええ、今日は親族一同の新年会でして、琥珀にも手伝ってもらうことになっています」
「ですから、お屋敷には翡翠ちゃんとカニシルちゃんしかいないんですよ〜」
食べたそうな顔をして(もちろん演技)翡翠に向かってそう言う琥珀。
いつもの事だけ有ってその演技もプロ並です。
「そうですか……ですがカニシル様のために腕によりをかけて作ったものです。カニシル様が居るのでしたら問題ありません」
その言葉に琥珀は少しだけほっとした表情を見せ、翡翠に歓迎の言葉を送りました。
「ええ、残念ですけどカニシル様を精一杯おもてなししてあげてくださいね」
翡翠がとっても嬉しそうに
「がんばります!」
と言うのを見届けた琥珀は、残念そうな表情をして屋敷から逃げていったのです。
――それから数時間。
あてがわれた部屋でのんびりと録画した正月番組を見ているカニシルの元に七草がゆという名前の料理が到着しました。
「今日は翡翠の料理カニ?琥珀はとても料理がうまいカニがたまには違う人の料理というのもわるくないカニね」
カニシルが言うと、翡翠はちょっと胸を張って、
「今日は腕によりをかけて1日がかりで作りました。これもカニシル様のためです」
と、言うと、大きな鍋をオープン。
中から絵の具のパレットのようなにごったお米の入った不気味な物が出てきました。
「こ……これはなにカニ?とても人が食べれそうな気がしないカニ」
「七草がゆです」
「七草がゆの作り方はネットで調べたと聞いたカニ。どこの料理本にもこんなのはないはずカニ」
「中国の方のサイトで草木に色をつける風景が有りまして、そちらを参考にしました」
「それでナナイロカニ?これはどう見ても食べれそうな気がしないカニ」
翡翠は少し残念そうな顔をしましたが、それでも必死に弁解します。
「折角、昨日の夜から頑張ってカニシル様の為に作ったのです。見た目は悪いかもしれませんが中身は大丈夫です。ちゃんと田宮と言う一流ブランドの着色料ですし、見た目もあでやかで綺麗ですから問題ありません」
しかしその料理はどう考えても食べられるものに見えません。だいたい田宮は食べ物の着色料じゃないと思うカニ、ここは素直に脱走カニ……。と思ったカニシル。
だが、翡翠は逃げ出そうとするカニシルを捕まえてこちらを向かせ。
「さあ……。お客様にお料理がお持ち帰りです」
といって指をぐるぐる。
その指を見ているうちに食べ物を食べたくなったカニシルはどう見ても食べられない料理に手を合わせます。
「なにやらおいしい料理の気がしてきたカニ。いただきますカニ」
頂きますの掛け声と共に一気に食べたカニシル。
しかし、こんな物を食べて平気なわけは無く……。
――二時間後、病院に緊急患者が運ばれたのです。
南無南無。
――END――
翡翠ちゃん式七草がゆの資料