珍しく洋書を読んでみています。
「The Health Gap: The Challenge of an Unequal World」です。
民医連という組織で働いていると、お金や仕事や人間関係などのいわゆる「社会・経済的な問題: Socio-economic problems」が原因で健康を崩し、またはそれらのために体調不良があっても煮詰まるまで医療にかからず、大変なことになった人にたくさん出会います。
働いている医者や看護師、MSWたちは慣れっこなので上手に対応してなんとか無難なところまで落ち着かせることができていますが、日常診療の中でなんとなく身についてしまったものなので、若手やましてや組織外の人にそのノウハウを教えたり、重要性を伝えたりするのは上手ではないなぁと感じています。
いちおう家庭医療学なるものを勉強していて、予防医学や健康増進について曲りなりにでも知識や関心があると、どうしてこういう問題が起きるのか、放置されるのかなどについても知識はあります。
なので、組織内の他の人たちよりは、患者さんの周りで起きている健康を邪魔する要因について、言語化してレクチャーしたり研修指導の中に混ぜ込んだりはできているかなとは思います。
ただ、具体的に日常診療に落としこんだり、病院の組織戦略に織り込んだりができているかというと、まだまだなところ。
日本語の簡単な資料だと、Solid FACTs(健康の社会的決定要因)についてのPDF資料があります。
http://www.tmd.ac.jp/med/hlth/whocc/pdf/solidfacts2nd.pdf
ただ、ちょっと話が大きくて、「行政は」とか「政策は」というトーンの提言が主体なので、普段の日常臨床で築いた問題を論文や提案書の形にして政策提言をするくらいの活動ができている人には役立つけど、イチ小市民的な中小病院一般医師にとっては「明日からすぐ実行できるマニュアル」というレベルではないです。
他に、研修医に社会医学や予防医学、健康の社会的決定要因についてお話するときの資料としてはこんなのも一応あります。
初期研修医向けに、この辺を整理してまとめたレクチャー資料
健康増進レクチャー-札病内科研修医用 by けんた on Scribd
そんな中で出てきたのがこの本です。
うちの上司に勧められて読んでみましたが、なかなか良かったです。
著者は英国医師のようで、かつ具体例や解説が美しい文体のため、なれないと読みにくいと感じますが、内容はかなり勉強になります。
英語で挫折する自信がある人のために、序章をざっくり日本語訳してくれているブログも載せておきますね
http://nodahiroo.air-nifty.com/sizukanahi/2016/04/the-health-gap-.html
序章以下の目次はこんな感じです
Introduction
The Organisation of Misery
Whose Responsibility?
Fair Society, Healthy Lives
Equity from the Start
Education and Empowerment
Working to Live
Do Not Go Gentle
Building Resilient Communities
Fair Societies
Living Fairly in the World
The Organisation of Hope
とりあえず今は、第6章の「仕事と健康」に関する章を読んでいるところです。一個前の「教育」のところも興味ありますけど。
いちおう産業医の資格はとったし、勤労者医療協会という組織も属しているし、うちの地域は若年労働層の人口分布が多いし、実際に仕事が大変すぎて健康状態が悪くなっている外来患者も多いしということでまず手を付けてみました。
「問題だなぁ」とはおもっていても、なかなか一般論を学んだり、具体例を掘り下げて考える機会は少なく、まとまったテキストも持っていなかったのでちょうどいいかなと。
実際読んでみると、某密林ぽいweb書店で働いてブラックすぎて燃え尽きた人の事例から始まるためイメージが持ちやすく、その事例の中に健康に影響を与える労働上の問題が全部入っているためわりととっつきやすいです。
その後もいろんな事例に触れながら、1個1個の要因についての理解を掘り下げてくれます。
人間汲み取り機としてうんことともに人生を終える可能性のあった人がNGOの活動で今では美容師として人を美しくする仕事に変わって人生が変わったとか、1700年に労働者の疾病についての大著を著したが当時はあまり理解されなかったイタリア人医学部教授とか、ブラック企業以外に就職先がない地域で追い込まれていく人たちを通した健全な労働組合の意義や非正規雇用の問題とか・・・
まだ道半ばですが、これを読み進めると「日常で感じる、目の前の患者における社会経済的問題」と、「それを踏まえて医師個人として、組織全体として、地域としてどう取り組んでいくべきか」という大きなビジョンとの間がつながっていくような手応えを感じました。
そんなわけで、民医連で働く職員や、家庭医療を学び社会的問題に目が向きつつある人、産業医学に従事する人など、多くの人におすすめだと思います。
できれば医療者以外にも読んで欲しいですね。
とはいえ、英語の壁は相当高いですね。
上で紹介したブログのように、日本語訳が進むといいなぁとおもってみたり、じゃあ誰かがやったらいいんじゃないのという意味深なことをつぶやいてみたりしながら本書の紹介を終えたいと思います。
でわ!
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