本当に停戦が守れるかどうか、シリア政府と反体制各派の意思が試されている。今度こそ機会を逃してはならない。

 内戦が続くシリアで12日、アサド政権と主要反体制派の停戦が発効した。それぞれを支援するロシアと米国が仲介し、2月に続く再度の停戦合意だ。

 米ロが交渉に動かざるをえなかった要因は、主要都市アレッポで続く重大な人道危機だ。

 反体制派の掌握下にある市東部を、政権軍が7月中旬から包囲した。市民30万人が閉じ込められ、電気、水道、食料の搬入が止まった。放置すれば、おびただしい命が失われていた。

 すでにアレッポでは、政権軍やロシア軍の空爆で大勢の子どもらが犠牲になった。病院も爆撃されたほか、塩素ガス弾が投下されたとの情報もある。

 事態は一刻の猶予も許されない。食料も医薬品も乏しい人びとにただちに支援物資を届けねばならない。シリア各地で困窮する避難民の救援も必要だ。

 米ロが主導し、国連、欧州連合、中東諸国、各種国際機関が一致して人道的な救済を急ぐべきだ。アサド政権と反体制各派は、市民への緊急支援に全面的に協力しなくてはならない。

 今回の合意では、1週間の停戦後、「イスラム国」(IS)などの過激派組織の掃討に向けて米ロが協調するという。

 しかし、楽観はできない。5年間の内戦を経たシリアには、多くの反体制勢力が割拠する。IS以外の過激派と連携する反体制派もあり、誰をテロリストとみるかも困難だ。

 そもそもシリアの戦況がここまで泥沼化した背景には、周辺諸国がばらばらに自国の思惑で介入してきた経緯がある。

 中東への影響力を強めたいロシア、アサド政権を支えるイラン、そのイランに対抗するサウジアラビア。さらにトルコは、シリア内のクルド人勢力を敵視し、越境攻撃を強めている。

 本来、事態の沈静化へ向けて責任を果たすべき近隣の主要国が、紛争を複雑化させるような身勝手な行動を続ける限り、シリア問題の出口は見えない。

 混迷の中でようやくこぎつけた合意である。何とか事態打開への足がかりにしたい。

 戦闘停止を維持し、シリア国民への支援態勢を拡大する。それと並行して、国連などによる本格的な和平プロセスを再構築し、紛争当事者の対話の土台を築く道筋を探りたい。

 難民対策など人道支援で日本が果たすべき役割もある。国際社会はこれ以上、シリアの悲劇を長引かせてはならない。