「つまみ食い」の検証にならないか、心配だ。

 日本銀行が今月下旬、金融政策について「総括的な検証」をする。

 目標に掲げる年率2%の物価上昇を見通せないなかで、目標は変えず、早く達成するという観点からの検証だという。黒田東彦総裁らは、達成できていない理由とマイナス金利政策の得失が柱になると語っている。

 2013年春に「異次元緩和」に乗り出したとき、日銀は2%目標を2年で達成することを打ち出した。それからすでに3年半近く。達成時期の見通しを何度も先送りしており、説明責任が問われるのは当然だ。

 黒田総裁は先の講演で、原油価格の下落と8%への消費税増税の影響、新興国経済の減速の三つが、物価が上がるとの見方に人々が転じることを妨げた、と説明した。

 経済には予想外のことも起こる。だが、少なくとも消費税増税は異次元緩和のスタート時には既に予定され、黒田総裁自身、財政への信認の観点からその必要性を説いていた。それを理由の一つにあげるなら、当初から無理があったことになる。

 マイナス金利は、今年1月の決定の時から準備不足が指摘されていた。「サプライズ効果」を期待してか、直前まで導入に消極的ととれる発言をしていたため、無用の混乱も招いた。検証自体が遅きに失している。

 さまざまな課題があるが、政策のプラス面とマイナス面を示して比較する姿勢を示したことは一歩前進だろう。ただ、「総括的」というのなら対象をもっと広げるべきだ。異例の金融政策全体について、長期的視野での検証こそが必要だ。

 異次元緩和のもとで、過度な円高が円安に反転して企業収益が増え、株価が上がり、雇用も改善した。物価も足元では再び下落に転じたが、一定の上昇を見たのは確かだ。

 一方で、金融緩和の手段として国債や、株式、不動産の投資信託の購入を進め、それぞれの市場に「ゆがみ」を与えてきた。とりわけ国債の大量購入には財政規律を緩ませる危うさがつきまとう。将来的には、大量にばらまいたマネーを緩和政策からの「出口」でどう扱うのか、日銀が抱えかねない損失をどう負担するのか、といった問題もある。

 封印してきた議論に向き合い、将来のコストやリスクを直視しなければ、政策への信頼は生まれない。目標達成を目指すなら、国民に丁寧に説明し、理解を求める責任がある。