オープニングナレーション
イゼルローン要塞は、
その直径60キロ。
内部は数千の階層に分れ、2万隻の駐留艦隊を収容する軍事宇宙港や、
定期工廠を含む戦略基地としての機能をすべて備えている。
イゼルローンは民間人300万人を含む、
500万人が居留する大都市でもある。
酸素供給システムの一環である広大な植物プラント、
完全な自給自足を可能にする水耕農場と食品工場、
病院、学校、スポーツ施設、娯楽施設、
商店、飲食店など大都市にあるべきもので、ないものはない。
このイゼルローン要塞の総責任者が
同盟軍の歴史上最年少の大将・ヤン・ウェンリーである。
第17話のあらすじ
ヤンは大将としてイゼルローンに赴任した。
彼はハイネセンで一緒に暮らしているユリアンも連れてきていた。
ユリアンはヤンと雑談して、
彼の軍に対する考え方と9年前のエル・ファシルについて知った。
ヤンの副官を務めるフレデリカは、
ユリアンと同じ年の頃にエル・ファシルに滞在しており、
荒れた街や人々の様子を詳しく語る。
彼女の話では、民間人を置いて逃げたリンチ少将は、
父親の知り合いの将校で、もともとは悪い人ではなかったという。
だが、帝国軍の捕虜となった彼は酒に溺れ、
エル・ファシルの英雄となったヤンをひどく恨んでいた。
ラインハルトの参謀のオーベルシュタインは、
このリンチを利用して同盟軍を分断しようと画策する。
そして、先のアムリッツァ会戦の捕虜交換を口実にして、
リンチを工作員として同盟に送り込むことにした。
ヤンはこれを見抜いていたが、
証拠となるものがないため、あえて黙認する。
だが、軍の重鎮のアレクサンドル・ビュコックと会い、
最悪の事態にならぬよう手を打っていた。
そんななか。
捕虜交換の席上でヤンと直接会ったキルヒアイスは、
その人となりに深い感銘を受けていた。
話を聞いたラインハルトは、
好敵手であるヤンに会ってみたいと思いを馳せるのだった-。
第17話の台詞(1)ヤンの軍に対する考え方
ユリアン「何を考えておいででした?」
ヤン「うん?人に言えることじゃないよ。
どうも勝つことばかり考えていると、
人間は際限なく卑しくなるものだな。
軍人というのは敵を殺し、味方を死なせ、
他人を騙したり出し抜いたりすることに明け暮れる、
ろくでもない商売だ」
ユリアン「提督・・・」
ヤン「ユリアンが軍人になりたいというならしょうがないが、
いいかい、ユリアン。
軍隊というのは道具に過ぎないんだ。
それもないほうがいい道具だ。
そのことを覚えておいて、
その上でなるべく無害な道具になれるといいね」
ユリアン「はい!」
ヤン「私自身、ずっとそう思ってきたんだが、
9年前のエル・ファシルからすべてが狂ってきてしまった・・・
まったく、なまじ地位が上がると、人間はどんどん不純になってくよね」
第17話の台詞(2)フレデリカ、エル・ファシルについて語る
フレデリカ「エル・ファシル?」
ユリアン「ええ、フレデリカさんは、
あの時エル・ファシルにいらしたんでしょう?」
フレデリカ「ええ、そういえば、ちょうどいまのユリアンと同じ年だったわ。
でも、あの時の大人たちの取り乱しようったらなかった。
帝国軍が近づいているのに駐留軍の司令官が・・・
リンチ少将だったわね。
自分たちだけさっさと逃げ出して、
民間人は落ちこぼれの新米士官と一緒に、
置き去りにされたっていうんで、自棄酒は飲むし、
ヒステリーを起こして泣き喚くし、乱闘は起こすし、
大人で平静だったのはヤン提督ぐらいなものだったわ」
ユリアン「落ちこぼれの新米士官という印象は、
いまでも変わらないんじゃありませんか?」
フレデリカ「そうね。あんまり変わらないわね」
ユリアン「僕、ふと思ったんです。
あの戦いで当時のヤン中尉が英雄になどならなかったら、
そのほうが本人にとって幸せだったんじゃないかって・・・」
フレデリカ「そうかも知れないわね。ヤン中尉の望みとしては・・・
ああ、駄目よ!そうしたら、ヤン中尉自身、
帝国軍の捕虜になって収容所暮らし」
ユリアン「そっか。あの通りの人だから、
いまごろは野垂れ死にしてるかも知れないか・・・」
フレデリカ「ひどいわね」
ユリアン「でも、本人は何も変わらないのに、
ほんの小さな出来事で、ずいぶんと人生って変わってしまうんですね」
フレデリカ「そうね。あの時のリンチ少将だって、
それまでは決して評判の悪い人じゃなかったのに」
ユリアン「よくご存知なんですか?」
フレデリカ「父の士官学校の後輩とかで、
家にも何度か見えたことがあったわ。
そういえば・・・結局、帝国軍に捕まって、その後、どうなったのかしら?」
第17話の台詞(3)リンチの独白
リンチ「逃げたんじゃない!
民間人を連れてゆけば足手まといになる。
そう考えたから、俺たちだけで脱出したんだ。
脱出して味方の増援を頼めば、
エル・ファシルなどすぐに取り戻せた。
それをヤン・ウェンリーの奴め、
俺たちが脱出したのをおとりにしやがった!
いわば俺たちを犠牲にして自分が生き延びただけのことだ。
何が、エル・ファシルの英雄だ!
あの落ちこぼれ中尉がいまや大将閣下だと?!くそっ!
それに引き替えこの俺は、卑怯者よ、恥知らずよと収容所でまで白眼視され、
風の噂に聞けば、女房と子供も籍まで抜いちまったと
・・・ははは・・・」
第17話の台詞(4)ラインハルト、内戦に備えて策を打つ
リンチ「確かに俺の選択は間違っていたかも知れん。
ただ、ここまで貶められ、
ここまで苦しめられねばならないほどのことか?
軍にはもっと残虐なことや、
もっと卑劣な真似をしてきた奴がいっぱいいる。
第一、英雄などという奴は、早い話が・・・
それだけ大量殺人をしてきた奴だということじゃないか!
そいつらより、俺は道義的に劣ることをしてきたというのか?!」
オーベルシュタイン「いかがですか?
この男、今回の任務には適任かと・・・」
リンチ「誰だ、あんた・・・」
ラインハルト「ラインハルト・フォン・ローエングラムだ」
リンチ「へえ、あんたが帝国の若き英雄か。本当に若いな。
エル・ファシルを知ってるかい?何年前になるかな。
あんたその頃、子供だったろ。俺は少将だったぜ」
ラインハルト「リンチ、よく聞け。お前にある任務を与えてやるから、
それを果たせ。成功したら、帝国軍少将の位をくれてやる」
リンチ「少将・・・少将か。へへへ、そいつは悪くないな。
で、何をすりゃいいんだ?」
ラインハルト「おまえの故国、自由惑星同盟に潜入して、
軍内部の不平分子を扇動し、クーデターを起こさせるのだ」
リンチ「はははは、無理だ。そんなことは不可能だ。
あんた、素面で言ってるのか?」
ラインハルト「不可能ではない。ここに計画書がある。
この通りやれば、必ず成功する」
リンチ「しかし、もし失敗すれば俺は死ぬ!きっと、殺される!」
ラインハルト「その時は、死ね」
リンチ「ええっ?!」
ラインハルト「いまのおまえに生きる価値があると思っているのか。
おまえは卑怯者だ。守るべき民間人も、
指揮すべき兵士も捨てて逃亡した恥知らずだ!
どのように言い訳しようと誰もお前を支持しない。
そんなになっても、まだ命が惜しいか」
リンチ「・・・そうだ。いまさら汚名の晴らしようもない。
だとすれば、せめて徹底的に卑怯に恥知らずに生きてやるか」
第17話の台詞(5)キルヒアイスとヤンの会見
キルヒアイス「形式とは必要ですが、
ばかばかしいことでもありますね。ヤン提督」
ヤン「同感です」
キルヒアイス「君はいくつですか?」
ユリアン「今年15になります」
キルヒアイス「そうですか。私が初陣したのも15の時でした。
がんばりなさいといえる立場ではありませんが、元気でいてください」
アッテンボロー「ほら、あんまり感激して帝国に寝返るなよ」
ヤン「ジークフリード・キルヒアイスか」
ユリアン「感じのいい人でしたね」
ヤン「妙なもんだな。味方の政治家より、
敵の将軍に好感を持てるなんて。
会ってみたくなったな・・・ローエングラム侯ラインハルトに」
第17話の台詞(6)ヤンとラインハルトが友だったら
ラインハルト「あれが成功すれば、
ヤン・ウェンリーはイゼルローンから出てこれなくなる」
キルヒアイス「はい」
ラインハルト「ところで、どんな男であった?ヤン・ウェンリーとは・・・」
キルヒアイス「はい。正直、つかみかねております。
おそろしいほどに自然体で懐深く、
おそらくは・・・今回の作戦も見抜いているかと」
ラインハルト「なに?では何故、こちらの策に乗るのか」
キルヒアイス「わかりません。何か手を考えているのか。
それとも、いかなる状況からでも逆転できる自信があるのか。
しかし、そのあたりがヤン提督の懐の深さかと」
ラインハルト「うむ」
キルヒアイス「いずれにせよ、
敵としてこれほど恐ろしい相手を知りません。しかし・・・」
ラインハルト「しかし?」
キルヒアイス「友とできれば、これに勝るものはないかと」
ラインハルト「・・・ヤン・ウェンリーか。会ってみたいものだ」
妙香の感想
エル・ファシルはヤンの名をあげた戦いであり、
フレデリカとはじめて会った場所でもあります。
しかし、当時の司令官だったリンチは、
一方的にヤンを逆恨みして謀略に手を貸してしまうんですね。
オーベルシュタインの考えた策は歓迎できませんが、
ラインハルトがリンチに対して怒ったのは理解できます。
軍人としていちばんやってはいけないのは、
責任を放棄して自分だけ安全な場所に逃げることですから。
その卑劣漢を謀略の駒として使うとは、
オーベルシュタインも怖いですね。
ゴールデンバウム王朝を打倒するということでは、
ラインハルトと利害が一致しているので、
彼の立てる策はほとんど採用されるんです。
でも、オーベルシュタインは「NO2不要論」を持っており、
ラインハルトの友ということで重用されるキルヒアイスを、
快く思っていないんですよね。
もしかしたら、自分にない寛容さや魅力を持っている彼に、
羨望の気持ちがあるのかも知れませんが。
激励の言葉をかけるんですから、
見た目も人物も素晴らしい人だと思います。
帝国にも同盟にも良い人材がたくさんいるので、
イデオロギーの違いから戦ってしまうのが本当に残念です。