株式会社SNKプレイモア ゲーム事業本部 KNF開発ご担当者様
Jプロダクション 生駒治美様
はじめまして。わたしは福岡に住むブロガーです。
この度はゲーム「キングオブファイター」開発に携わったスタッフのみなさま、長年ナコルルに魂を吹き込んでこられた生駒治美様、そして販売促進に当たっておられる営業スタッフのみなさまに、ユーザーへのマナー喚起をお願いいたしたくご連絡さしあげました。
少し自己紹介をさせていただきます。
わたしはファミコン黎明期、ファミ通がまだファミコン通信だった時代に、SEGA MARKⅡの海外向け家庭用ゲーム、テーブル麻雀ゲーム、SEGAのアミューズメントゲーム開発に携わっていた元ゲーム開発者です。当時の市場は本当に小さいもので、ゲーム機の性能も開発環境もいまでは考えられないほど原始的なものでした。ゲジゲジしたロムに直接焼いたデータをテレビ画面に映しては色の滲みに頭を悩ませ、128kbのスプライト、256kbのBGという制約の中でぽちぽちドットを打っていたことを思い出します。鮮やかな3Dが滑らかに動く何もかもが大容量ゲーム機が家庭に普及した現在、当時を知る者として隔世の感に堪えません。
このように急速な進歩を遂げたゲーム史において、みなさまが世界に送り出された「サムライスピリッツ」そして「キングオブファイター」は多くのユーザーを楽しませ、独特の進化を遂げた特筆に値するゲームであったと記憶しております。とくに格ゲーユーザであった夫はシャルロットに味わわされた屈辱をいまも忘れることなく、ときおり思い出したように呪詛を吐いております。わたしにとって「サムライスピリッツ」は可憐な格闘家ナコルルを世に送り出した思い出のゲームです。
ゲーム制作に携わっていながら致命的にコントローラが使えなかったわたしは、もっぱらゲーマーの背後でプレイを眺め、ゲーメストとファミ通をチェックし、コスプレイヤーのパフォーマンスを楽しむ周辺ユーザーでした。ナコルルファンが豊かな自然を背景に陶酔したポーズで決めた数々の写真は、ナコルルがゲームの中で戦うゲームキャラクターというよりも、もはや伝説のアイドル的存在としての地位を確立していたことをよくしめしていたと思います。
先日、そんなナコルルが今世紀に入ってなお現役で格ゲーマーを相手に戦い続けていることを知り、驚きとともにうれしく思いました。しかも現在のナコルルはプレイヤーをして常識知らずといわしめるほどの強さを身に着けたのですね。サムスピの痛々しい末路の数々を思い出すとよかったなあと思わずにいられません。鷹も元気そうで何よりです。
公式設定によるとナコルルはアイヌモシリ・カムイコタンの出身となっています。
アイヌモシリとは現在北海道と呼ばれ、カムイコタンはアイヌの共同体です。ナコルルはアイヌ民族という設定であると考えてよろしいでしょうか。記憶がおぼろげなのですが、ゲーメストにサムスピ発売当時「どうしてもアイヌのヒロインを出したかった」というインタビューが掲載されたような覚えもあります。
わたしたち和人と国土を共有するアイヌ民族ですが、その歴史や文化は日本の教育のなかで語られることがほとんどありません。サムライスピリッツ、キングオブファイターを通じてアイヌ民族を知った人々も少なくはないと思います。とくに海外ユーザーで日本にアイヌという民族がいると知っているのは、これらゲームユーザーをのぞけば、アイヌ同様先住民であるアボリジニの人々、人類学者、また少数民族の人権問題に取り組んできた運動家たちくらいではないでしょうか。
わたし自身アイヌについて知っていることはほんのわずかです。しかしアイヌが遠い過去の伝説の民族ではなく、現在わたしたちと同様文明世界でスマホを使い、インターネットを利用し、コンビニやファミレスに訪れ、熊や鹿の毛皮よりUNIQLOやしまむらの服を身近に感じる、ごくふつうの人々であることは、みなさんと同様すこしは理解しております。
ナコルルを通じてアイヌを知ったすべての人が、コロポックル伝説とは違うこのような現代の民族の在り方、そして現実の暮らしにいくらかでも関心を持ち、民族の誇りとその文化に対して敬意をはらう点で意見の一致を持つこと。わたしはそれをナコルルを愛してこられたスタッフのみなさんと同様、切に望んでいます。また絶滅寸前の野生動物を憐れむようにではなく、筆舌に尽くしがたい苛烈な迫害を生き延び、なお自由闊達な精神で未来を切り拓く隣人として、アイヌを尊重するゲームユーザーがひとりでも多くなることを祈っています。
さて、平成28年7月1日より「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が全面施行されました。ゲーム事業本部がある株式会社SNKプレイモア様の所在地は大阪府吹田市、また生駒治美さんが所属しておられるJプロダクション様の所在地は大阪府大阪市とうかがいました。きっとみなさんもこの条例についてはお聞きになっておられると存じます。
わたしがお願いしたいことは、この大阪市ヘイトスピーチへの対処と密接に関係のある、一部ユーザーのアイヌ民族に対する礼節の欠けた行為について、何とぞみなさまからマナー喚起をお願いしたいということです。
一部ユーザーの間でナコルルを「アイヌ」と呼び交わす習慣があり、このようなユーザーがナコルルにぼこぼこにやられたときなどに、Twitterのような人目につくところで「アイヌ殺す」と発言することがありました。申し上げるまでもなく、このような発言をするユーザーの大半はアイヌ民族がそれを見てどれほど深く傷つき、屈辱を覚えるかを理解したうえで、意図的に書き込みをしているわけではないでしょう。しかしこうした殺害予告まがいの発言を軽々しく公の場に書き残すことは、あきらかに不適切であります。
これは「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の以下に該当する明白なヘイトスピーチです。
(1)
ア 人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は当該個人により構成される集団(以下「特定人等」という。)を社会から排除すること
ウ 特定人等に対する憎悪若しくは差別の意識又は暴力をあおること
(2) 表現の内容又は表現活動の態様が次のいずれかに該当すること
ア 特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること
イ 特定人等(当該特定人等が集団であるときは、当該集団に属する個人の相当数)に脅威を感じさせるものであること
(3) 不特定多数の者が表現の内容を知り得る状態に置くような場所又は方法で行われるものであること
ご承知のように、この条例は全国で適用されるものではありません。しかしこのような条例が施行されるに至った異人種、異民族、その他マイノリティへの苛烈な攻撃で疲弊し、消耗している点でアイヌは例外とは申せません。
わたしは個人的に格ゲーマーの口の悪さをどうこういうつもりはございません。夫がシャルロットへの怒りをぶちぶちいうことを、フランス人に対する攻撃として非難する必要も感じません。しかしナコルルではなく、アイヌという実在する特定の民族を軽率に「殺す」と発言することは、架空のゲームキャラクターではなく、わたしたちの隣人であるアイヌに対する暴言として注意喚起が必要であるとぞんじます。
ナコルルは明和八年生まれ。これは架空の年号ですが、昭和八年といえばアイヌの解放運動家であり、著名なアイヌ文化の継承者である宇梶 静江が生まれた年です。宇梶の詩作にはアイヌとしての誇りと、アイヌ差別による激しい迫害の痛みが色濃く滲んでいます。
アイヌとして生まれること アイヌとして生きること | ふらっと 人権情報ネットワーク
宇梶による「同胞への手紙」という詩はこのようにはじまります。
居心地のいい 気のおけるところへ
いられるべくして いられるところへ
帰っておいでね・・・
どうかアイヌの人々にとってサムライスピリッツ、ならびにキングオブファイターユーザーと共存するこの世界が、居心地よく、気のおけるところであるよう、いられるべくしていられるところであるよう、みなさまからも良識あるユーザーたちへ呼びかけていただけないでしょうか。
ナコルルと、民族名としてのアイヌを公の場で区別すること、民族を侮辱したり、憎悪や攻撃をあおる言葉を書き残さないこと、つまり具体性のある「マナーを守って楽しくゲーム」を、ぜひとも公式に喚起していただきたいと思います。
末筆ではございますが、みなさまが今後も人々の気持ちを沸き立たせ、活力と喜びをあたえる素晴らしい作品を世に送り出していかれることを、ひとりのファンとして心よりお祈り申し上げます。
くたびれはてこ拝
-------------------------
これをHNを本名にしてメールと郵送で提出します。一部の心ない人たちが非公開にせざるをえないほどの罵詈雑言をTogetter上でアイヌに浴びせかけています。わたしやアイヌを支持する人ではなく、アイヌ自身が声を上げても耳を覆うような侮蔑の言葉をくりかえし、反論させないために締め出しをかけて。
「当事者が心情を訴えるべき」「言い方が悪い」の方々はこの現実に目を向けてください。本当に「悪いことはわかっているけど言い方が気に入らない」のなら、わたし個人はともかく、アイヌをここまで叩く必要はどこにもありません。わたしに対する反感でアイヌを叩いているのなら、残念ですが、それはもはや迂闊な失言ではなく、悪意あるヘイトクライムです。
株式会社SNKプレイモア
https://www.snkplaymore.co.jp/
Jプロダクション
〒550-0005
大阪府大阪市西区西本町2-1-35 神代ビル301
http://jpro-y.com/index.html