乗り物で移動中に寝れないのだ。電車だけでなく、飛行機、車、船、ことごとくダメである。動くベッドでも、寝れないと思う。
きょうれつな寝不足が続いていて、少しでも眠りたい。座席に座って目を閉じる。こめかみと歯がズキズキと、痛む。激しい痛みだ。
寝不足に疲労が加わった時の個人的な症状だ。眠りたいが痛みで眠れないという悪循環。原因は思いつく。土日に動きすぎた。
痛みに顔をしかめながら目をつぶり続ける。車内アナウンス、喋り声、クーラーの風、くしゃみ、せき、羽ばたき。羽ばたき?
僕は驚いて目を開けた。左の肩がチクリと痛む。メジロがとまっていた。ピンク色した爪を僕のYシャツに食い込ませている。
メジロが好きだ。スイーツ嫌いの僕が唯一食べられるのが抹茶アイスクリームだからだ。白縁の黒目がじっと見つめてくる。曰く。
「君が電車で眠れないのはメグロのせい」
「メグロ? 地名の目黒?」
「そう。君が眠れないのは目黒のせい」
「目黒に何かあるのかな?」
「君は質問ばかりだね。自分で考えな」
電車の扉が開いてメジロは飛び去った。目黒のせいで眠れない?目黒について考えた。けれど、何も思い当たることはなかった。
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