政府税調 “配偶者控除見直し” 税制改正へ議論開始

政府税調 “配偶者控除見直し” 税制改正へ議論開始
政府税制調査会は9日、総会を開き、共働き世帯が増えるなか、妻が専業主婦の世帯などの所得税を軽減する「配偶者控除」の見直しなど、来年度の税制改正に向けた議論を開始しました。
総理大臣の諮問機関で、税制の在り方を提言する政府税制調査会は、9日、総会を開き、来年度の税制改正に向けた議論を開始しました。
この中で安倍総理大臣は、「経済社会は家族や働き方などといった面で大きく変化してきていて、所得税もこの変化を踏まえて変革が求められている。働き方改革とともに人々が能力を一層発揮できるようにすることが重要だ」と述べました。

ことし焦点となるのは、所得税の計算にあたって配偶者の給与収入が年間103万円以下の場合所得から一律38万円を控除、つまり、差し引いて税を軽減する「配偶者控除」の見直しです。
「配偶者控除」によってパートタイムの女性などは夫が控除を受けられるよう働く時間を抑える人が少なくなく、「103万円の壁」とも呼ばれています。
また、夫婦で働く共働き世帯が多数となっているなか、夫が仕事、妻は家事といった、いわゆる「片働き」世帯を優遇する「配偶者控除」は社会の変化に対応していないという意見も出ています。

政府税制調査会では「配偶者控除」に代わって配偶者の収入にかかわらず共稼ぎの世帯などにも控除を適用する「夫婦控除」という新たな制度などを検討することにしています。
このほか、調査会では多国籍企業の課税逃れが国際的な課題になる中租税回避地=タックスヘイブンにある子会社への課税を厳しくする仕組みなどについても議論する見通しです。

中里会長「側面から働き方改革を支援」

政府税制調査会の中里実会長は、「個人がどのような働き方を選択しようとも税制上で有利になったり不利になったりしないように考えて、側面から働き方改革を手伝いたい。税制改正で負担が増える人がいれば、どう納得してもらうかは説明が必要で、丁寧に行っていくプロセスに今後入っていく」と述べました。

来年度の税制改正の焦点

来年度の税制改正の焦点です。

まず、所得税についてです。
政府・与党では共働き世帯などが増えている実態に合わせて、専業主婦などの世帯の税の負担を軽くする「配偶者控除」の見直しを検討することにしています。
具体的には、「配偶者控除」にかわって夫婦の世帯を対象に配偶者が会社などで働いている・いないにかかわらず、一定の控除を適用する「夫婦控除」という新たな制度をつくることなどを検討します。
夫婦控除では比較的所得が少ない共稼ぎの世帯も負担軽減の恩恵が得られるようにする一方、所得の高い世帯を対象から外すことも検討課題になります。

ビール、発泡酒、第3のビールの酒税も焦点です。
これらビール系のお酒は原料になる麦芽の比率などによって税率が違っています。350ミリリットル缶で見ますと、ビールは77円、発泡酒は47円、「第3のビール」は28円の酒税がかかっています。政府・与党はこの税率の差がビールメーカーの商品開発や販売数量に影響をおよぼし税収の減少にもつながっているため、見直しを検討し、350ミリリットル缶の酒税をどれも55円程度に一本化できないか検討します。

燃費のよい自動車に適用されている、いわゆるエコカー減税も検討の対象です。
エコカー減税は、自動車を購入する時にかかる「自動車取得税」と、車検の際にかかる「自動車重量税」について、燃費のよさに応じて減税する制度ですが来年春で期限が切れるため延長を検討します。ただ、燃費技術が向上し、今の基準では、新車の9割程度が減税の対象になっており、対象を絞り込むことが議論されます。

いわゆるパナマ文書の公表などをきっかけに多国籍企業や富裕層の課税逃れへの対応が課題になっています。日本の企業が租税回避地、タックスヘイブンに子会社を置き、利子収入や特許使用料などをそこに移して課税を逃れることを防ぐため外国にある子会社に対する課税を厳しくする仕組みを検討することにしています。

配偶者控除とは

所得税の「配偶者控除」は、配偶者の給与収入が年間で103万円以下の場合、所得から一律38万円を控除する、つまり差し引く措置で税が軽減されます。
例えば、夫が妻を扶養している世帯で妻が専業主婦だったり、妻の給与収入が年間で103万円以下だったりした場合、夫の給与所得から38万円が控除されます。

この「配偶者控除」。制度ができたのは昭和36年。夫が働きに出て妻が専業主婦という世帯が多数を占めるなか、家庭内で家事を担う妻の働きを、控除という形で評価しようと創設されました。
しかし女性の働き方や家族の形は変化しています。総務省によりますと、昭和55年に専業主婦のいる世帯は1114万世帯でしたが、去年には687万世帯に減少しました。

その一方で夫婦いずれも働く「共働き世帯」は昭和55年には614万世帯でしたが去年1114万世帯に増え、全体のおよそ62%を占めています。
このように家族の形が変化するなか、専業主婦の世帯などを対象に、税負担を軽くする「配偶者控除」は、時代に合わなくなっているのではないかという意見が出ています。
しかし、「配偶者控除」の見直しは専業主婦などの世帯が増税になる可能性があるほか、配偶者が働きたくても働けないケースもあることなどから慎重に考えるべきだという意見も多くこれまで見送られてきました。

103万円の壁 別の壁も

所得税の「配偶者控除」の見直しの議論の背景にあるのが、いわゆる「103万円の壁」の存在です。
所得税の「配偶者控除」は例えばパートタイムなどで働く妻の給与収入が103万円を超えると適用されなくなり、夫の所得税が徐々に増えていくほか妻自身にも所得税が課税されるようになります。また企業の中には、配偶者控除の仕組みに合わせて配偶者の年収が103万円以下の従業員に家族手当などを支給しているところもあります。

このため、税金がかかったり、手当が打ち切られたりしないように年間の給与収入が103万円を超えないように、パートの勤務時間を抑える人もいます。このように所得税の配偶者控除がパートの女性などが働く時間を減らす1つの原因になっていて、これが、いわゆる「103万円の壁」と呼ばれているのです。
さらに別の壁もあります。配偶者の年収が130万円以上になると国民健康保険などの保険料を負担しなければならなくなるため年収130万円にも壁があると言われています。

一方、来月からはパートタイムで働く非正規労働者の処遇を改善するため従業員が500人を超える企業で働き、年収106万円程度を上回る人などは厚生年金などに加入できるようになりますが、保険料の支払いが必要になります。このためパートなどで働く人たちの中には「106万円の壁」を意識して月々の手取りが減るのを避けようと働き方を調整する人たちも出る可能性があり、税だけではなく社会保障制度の仕組みを含めて検討が必要だという意見も出ています。

配偶者控除見直し まちでは意見さまざま

政府税制調査会が所得税の「配偶者控除」の見直しを検討することについて東京・品川区の商店街でまちの人たちに話を聞きました。

夫婦で共働きをしているという20代の女性は「今は育児休業中で、また子育てをしながら働きに出る予定ですが、子育てをするのは専業主婦も共働きしている世帯も同じなので共働きの私たちのような家庭も優遇される制度にしてほしい」と話していました。

また50代の主婦は「現在の制度だと、配偶者の収入が103万円を上回ると所得税の控除が減るということだが、103万円というのは低すぎるのでもっと基準を上げてほしい」と話していました。

一方で30代の子どもを持つ女性は「私はもうすぐ職場復帰するが、専業主婦をしている人の中には働きたくても働けないという人もいる。実際私の知り合いにも保育園に空きがないから働けないという人もいるので、今の制度を変える必要があるのかと思う」と話していました。

また、20代の専業主婦の女性は「あまり配偶者控除を意識したこともなくよくわかりませんが、働きたくても働けないという女性もいるので、そういう人たちのことも考えてほしい」と話していました。

経団連会長「経団連として支持したい」

経団連の榊原会長は9日、仙台市で記者会見し、政府税制調査会が所得税の配偶者控除の見直しを検討することについて「基本的に経団連として支持したい。女性が働きやすい環境を作る制度設計を期待したいし、そういう方向で経団連としても具体的な提言を出していきたい」と述べました。