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    文化

    アドラー心理学を正しく理解する2つの方法

    哲学者・日本アドラー心理学会顧問 岸見一郎
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    50代主婦「今から娘との関係修復は可能か」――アドラー流の人生相談の一例

    • 身近な間柄だからこそ……(写真はイメージ)
      身近な間柄だからこそ……(写真はイメージ)
     相談内容としては、「会社で嫌いな人が気になる」「妻にけなされる」「やる気を出さない子供」「(しつけ)の出来ていない嫁」等々、思わず「ある、ある」と叫んでしまう悩みばかり。
     ここで、その一例をご紹介しましょう。
      「愛着関係がうまく築けないまま大人になった娘(30歳)と、母(私)との関係は修復可能でしょうか。怒ってばかりの関係です。今からでもどうすれば修復できるでしょうか」(50代、女性)
      「過去において親子がどんな関係だったかは、今の、そして、これからの関係がどうなるかには何の関係もありません。これまでの親子の関係がよくなくても、これからよくすることはできます。ただし、これまでとはまったく違う関係を築く決心をする必要があります。
     どんなことがあって「怒ってばかり」なのかわかりませんが、まず知ってほしいのは、子どもは親の期待を満たすために生きているわけではないということです。子どもがどれほどあなたの気に入らない生き方をしていても、そのことに干渉することはできません。子どもが小さい時は、親が子どもを保護する必要がありますが、今は何もする必要はありません。
     「何かできることがあったらいってね」というようなことはいえますが、それ以上のことはいえません。どうしても子どもに手出し口出ししてしまうとすれば、子どもには自分の課題を自力で解決する力があると信頼できていないからです。
     子どもが自分で決められること、決めなければならないことに親が干渉しなければ、それだけでも親子関係は風通しのいいものになります。
     親子関係を修復したいのであれば、「仲がよい」か「悪い」かという二者択一で考えないほうが楽です。つまり、そこそこ仲がよければいいのであって、理想的によい関係である必要はありませんし、どんな仲のよい人同士でも、時にはケンカをするものです。それでも関係がそこそこよければ、一時的に気まずいことがあっても、必ず仲直りできるはずです。
     同じ空間にいて、同じ空気を吸うのも嫌だというような関係でなければ、よい関係であると考えていいのです。
     自分がいわれたらきっと怒るだろうことはいってはいけません。これくらいならそれほど難しくないかと思います。親子だからといって何をいってもいいわけではありません。関係が近いから遠慮なく話をしていいのではなく、関係が近いからいっそう自分の言葉が相手にどう受け止められるのか気にかけなければなりません。
     子どもの心を忖度(そんたく)しないで話せるのが理想ですが、最初からそんなことはできません。子どもが嫌がることをいってしまう場合もあるでしょうが、そうならないように意識して言葉を選ぶように努めてみることから始めましょう。
     アドラー心理学は非常にシンプルなものですから理解はたやすいのですが、実際の日常の場面でどうすればいいかは、時間をかけて学んでいくしかありません。ここで引いたような悩み相談の例を読めば、きわめて実践的にアドラー心理学を正しく理解するための助けとなるでしょう。
     
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    プロフィル
    岸見一郎( きしみ・いちろう
     哲学者、日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。1956年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。専門の哲学と並行して、1989年からアドラー心理学を研究、精力的に執筆・講演活動を行っている。主著にミリオンセラー『嫌われる勇気』、『幸せになる勇気』、『困った時のアドラー心理学』、『人生を変える勇気』など多数。

    2016年07月22日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

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